もしあなたがA子だったら、「卵子提供」を受けますか?

『30代後半になって出産を意識したA子。すぐには妊娠できず、いくつかの不妊治療を受けました。その中で、「卵子提供」という方法を知りました。卵子提供者の卵子と夫の精子を体外受精して受精卵を作り、その受精卵を自分の子宮に移植して、妊娠、出産する方法です。もしあなたがA子だったら、「卵子提供」を受けますか?』

「受ける」が129票、「受けない」が217票。未来館5Fの医療エリアの出口付近に、昨年12月から1月の終わりまで2ヶ月間にわたって展示された問い。いったいどうしてこんなに意見が分かれたのでしょう?

総計363票というたくさんの回答。自分ごととしてとらえた多様な意見が迫ってきます。

この展示は「エンドクサ」。現在、または近い将来、医療の現場などに最先端の科学や技術が入ってくることで、私たちの生活にどんな変化がおこるのか、それを望むのか、みなさんの意見をながめ、考え、自分の意見を残す場所です。

363票をすべて読み、6つの大きな論点があることが見えてきました。

①家庭の幸せって、何?

②誰のための技術?

③何を満たせば「自分の子ども」?

④どんな子どもがほしい?

⑤リスクを避ける?子どもがほしい?

⑥何が「自然」で何が「人工的」?

それぞれについて、どんな意見があったのか、見ていきましょう。

①家庭の幸せって、何?

大半の方が「子どもがほしい」と回答するなか、「子どもがいなくても幸せになれる。夫婦ふたりで仲良く暮らす」と回答された方が複数いました。一方で、「この人の子供がほしいと思ったから結婚したり出産を望むのであって、他の女性の卵子だったら最初からその人と結婚すればよいのに」という意見も。結婚し、家庭を作ることに何を求めるのかが、卵子提供への意見の違いへと表れていました。

②誰のための技術?

出産する女性の立場で答えている方の他に、「自分がそうやって産まれたとしたら」と産まれてくる子どもを主体として考えたり、「旦那さんが(子どもを)ほしいならば」「両親に子ども、孫を見せてあげたいので」など、他の家族の立場になって問題をとらえている方もいました。子どもを妊娠し出産するのは、自分だけでなく産まれてくる子どもも含めて家族全員にとって一大イベント。まわりの考えも判断に関わってきます。家族で意見が異なるとき、さらに選択はむずかしくなりそうです。卵子提供を受けるか受けないか「わからない」と答えた方のなかには、「相手の意見を尊重する」と任せてしまう人も多くいました。

③何を満たせば「自分の子ども」?

一番意見に違いが見られたのが、この視点。「自分の子ども」を遺伝情報でとらえるか、妊娠でとらえるか、ともに家族として過ごしていく時間でとらえるか、考え方の違いがあらわれました。卵子提供では子どもに母親の遺伝情報がうけつがれません。その前提のうえで、卵子提供を「受けない」意見の中には「自分の子でないのなら、産む理由、育てる理由がみつからない」「本当に愛せると思えない」「旦那さんと別の女性との子どもなんてイヤ」という声が多数ありました。また、「(遺伝情報がうけつがれないのであれば)養子縁組を受ければいい」と提案される方も。一方、「受ける」と答えた方の多くは「どんな方法で妊娠しようが、我が子だから」「DNAは違っても腹から出てくるならOK!」と妊娠したら自分の子と感じると答えた方、「性格やしぐさは産まれてからの環境で形成されると思う」と、ともに過ごす時間に重きをおく方が多く見られました。

「自分の子ども」をどう定義するかは、科学が答えられるものではなさそうです。

④どんな子どもがほしい?

「子どもが自分に似ていないとイヤだから」卵子提供は「受けない」という意見が多数を占めるなか、中には「自分より美人の卵子なら子どもも美しくなるから」卵子提供を「受ける」、という方も。その一方で、卵子提供を「受けない」、とした上で、「卵子提供者の形質も気になる。優秀な提供者の卵子は高額になるのか?命に値段をつけるのか?」と問題提起をして下さる方もいらっしゃいました。また、受ける・受けないかは「卵子提供者による」というコメントも。卵子提供者は選べた方が良いのでしょうか。選べるとしたらどんな人を選びたいのでしょうか。

⑤リスクを避ける?子どもがほしい?

「確実に妊娠・出産できるわけではない」「(母胎、胎児への)リスク、時間、費用など犠牲が大きすぎる」ために「受けない」とする人、「倫理的にも経済的にも周りから理解されるなら」「リスクととらえつつも自分はのりこえられる」「最近の卵子提供の技術はとても良くなっている」「ある程度のリスクはやむを得ない」として「受ける」とする人、ともにリスクや負担を意識して判断している方が多くいらっしゃいました。現在、卵子提供を受けるための平均費用は数百万円といわれ、高齢妊娠となると妊娠高血圧症候群、癒着胎盤などのリスクが増えるというデータがあります。子どもを得ることと、そのために抱えるリスクや負担を避けること、どちらを優先させるかが人によって違うようです。

⑥何が「自然」で何が「人工的」?

卵子提供を「人工的」ととらえ、「自然に逆らってまで妊娠しようと思わない」「(子どもができないという)運命を受け入れる」という考えから、「受けない」と答える方が多く見られました。一方、「せっかくの科学は使わなきゃソン!」というコメントも。さらには「iPS細胞の技術が発達して自分の卵子が作れるようになるのを待つ」「倫理問題がどうとか言う前に、困っている人たちのために何かすればいいのに」と科学や技術の発展を期待する声もありました。何を自然ととらえ、科学や技術が私たちにとってどのようにはたらけばいいのか、卵子提供にとどまらず広く考える時かもしれません。

上述のiPS細胞の技術のように将来の技術に期待する声もある一方、「代理母は海外しかない」から卵子提供を「受ける」という方も。卵子提供を受けて出産する場合には自分の子宮が機能することが前提、代理母を望むのは自分の子宮が機能しない場合なので、代理母が国内で受けられないから卵子提供を受ける、ということはありませんが、すべての課題をクリアできるような技術がない場合には、多様な選択肢の中から自分の考えとあうものを選べることが大切なのかもしれません。まさに「自分は(卵子提供を)受けないが、選択の自由が増えることは良いこと」というコメントもありました。

いくつかのコメントをご紹介します。

a(赤帯)は「受ける」、b(青帯)は「受けない」、緑帯は「わからない」という答えです。

ここで取り上げられなかった貴重な意見の例は、未来館の5F展示場で見られます。ユニークなコメントに、何度もはっとします。ぜひ、見に来て下さい。展示場のエンドクサは次のテーマ「出生前診断」に移りましたが(2013年2月末現在)、「卵子提供」についてはこのブログで引き続き皆さんのご意見を募集します。上の6つの論点を眺め、ぜひあなたの意見を下のコメント欄でお聞かせ下さい。

エンドクサは常設展5F「ともに進める医療」の中にあります。

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