あなたは遺伝子組換え作物を食べたことがありますか?花粉症が治るとしたら、遺伝子組換え作物を食べますか?
「私たちの食卓はすでに遺伝子組換え作物に支えられています」と書いたら意外に思われるでしょうか?家畜の飼料となる作物や、醤油や油、砂糖などの原料に含まれる遺伝子組換え作物に関しては表示の義務はありません。日常生活では意識せずに食べている可能性が高いのです。今回は、花粉症緩和米を通して、遺伝子組換え作物について改めて考える機会を作りました。
4月20日(土)に農業生物資源研究所の高岩文雄先生をお招きして、サイエンティストトーク (リンクは削除されました)を行いました。高岩先生は、毎日食べるお米によって花粉症を治療する「花粉症緩和米」の研究をされています。
今回のトーク (リンクは削除されました)では、先生から花粉症緩和米の仕組みや有効性、安全性についてお話しいただきました。まずはこれまでの治療法との違いから。鼻水や目のかゆみを抑えるといった対症療法に代わって注目されている「減感作療法」は、アレルギーを引き起こす抗原そのものを身体に取り込ませて、抗原に体を慣れさせる方法です。注射する方法と舌下の粘膜の性質を利用した方法があります。注射は痛みが伴い、副作用の可能性もあります。舌の下から抗原を入れる舌下免疫療法には痛みはありませんが、高い治療費が必要です。どちらの方法も治療には数年がかかります。
これに対し、毎日食べるお米によって効率よく抗原を体内に入れていこうというのが花粉症緩和米です。減感作療法の一種ですが、花粉症緩和米が目指しているのは腸の中の「免疫寛容」。これは敵と間違えて攻撃しないようにする仕組みのことですが、腸は食べ物から栄養素を吸収するための器官なので、異物であるはずの食べ物に免疫寛容が成立しやすいのです。
花粉症緩和米では、遺伝子組換えによりお米の中にスギ花粉から出る抗原と似た抗原を作ります。これをあらかじめ食べておくことで、スギ花粉からの本当の抗原が入ってきた時、免疫の反応が抑えられ、花粉症の症状が出にくくなります。
花粉症緩和米は、医薬品レベルの高い安全性が検討され、厳密な審査を通ったもののみが実用化されます。
トークの後半は、会場のみなさんと先生とのディスカッション。参加者は「安全性が認められ、審査に通ったら食べますか?」との質問に「YES、NO、分からない」で答えその理由や判断の基準を書きました。
結果は、「食べる」が10名、「食べない」が10名、「分からない」が12名でした。判断基準として挙がったのは、「今の科学では分からない危険?」、「価格」、「効き目」、「困り度」、「代替手段の有無」、「感情」、「手間」などでした。
私が予想していなかったご意見はこちら。
「米という形よりも薬で摂りたい」という言葉です。
たとえ安全性に関して審査に通っていたとしても、薬を食べていると思うと食事を楽しめなくなる方もいるかもしれません。
高岩先生からは、このご意見について科学的な面と気持ちの面から2つのコメントをいただきました。まずは科学的な面から。薬で摂取した時と食物を摂取した時では反応する免疫系統が異なります。花粉症緩和米では、米の中に抗原を入れることで、途中で分解されずに腸まで届くことを狙いとしています。そして腸の免疫系統に働きかけて、花粉症の症状を和らげます。精製された薬としてではなく、食物として認識されることで効果の高い免疫寛容を引き起こすことができるのです。
そして気持ちの面について。高岩先生によると、もともと先生はコレステロールを下げる作物などの研究をされていたので、日常生活の中で、食べるという行為を通して手軽に健康な体作りをしたり体質を改善できたりしたら良いのではないか、という発想で進められてきたそうです。なので「むしろ薬の方が良い」という意見は新鮮だと言われていました。
「食べる」ことにおいて、どんなことを大切にしたいのか、様々なご意見があると思います。みなさんはいかがですか?
今の科学では分からない危険に関する意見としてはこのような意見が。
「安全」だと言われていたことも「安全」でなかったこともありましたよね。
石川は、100%安全というものはないと思います。食べるか否かを決める時に大切なのは、情報を得ることと考えること。個人的には、遺伝子組換え作物が「○~○%入っています」という具体的な表示を製品に付けることで、消費者が選びやすくなることを期待します。たとえば害虫に強くなるように遺伝子組換えされた作物は、農薬をかける回数を少なくできたり、値段を安くしたりできます。表示をすれば「安全性の審査に通っているなら食べる」という人はそれを安く買うことができるし、「食べたくないな」という人は、遺伝子組換えでない作物を選んで食べられます。それぞれの考えが否定されることなく、仕組みや安全性について知った上で、食べたいものを選んで食べられる、そういう選択肢のある社会は住み心地が良いのではないでしょうか?そのためには、たくさんの人が「こうしたい」という意思表示をすることで、遺伝子組換え作物の流通や販売、表示のシステムを変えていくことも必要かもしれないですね。
※このサイエンティストトークは、「国際植物の日」(5月18日)にちなんだ未来館におけるイベント (リンクは削除されました)の一つです。植物のたいせつさや、植物科学と私たちの生活との接点を考えます。