続・「攻殻機動隊の世界は実現できますか?」 研究者に聞きました

こんにちは。攻殻機動隊大好き長倉です。(攻殻機動隊については、前回のブログ参照)(リンクは削除されました)

6/22から2週間限定で劇場公開されていた新作のアニメ映画「攻殻機動隊ARISE-GOHST IN THE SHELL」は、みなさまご覧になりましたか?長倉はもちろん行ってきました!

写真は、今年2月、攻殻機動隊好きな未来館スタッフたちと行ってきた新作発表イベントで展示されていた「光学迷彩アート」(光学迷彩について詳しくは、佐尾のブログ参照)(リンクは削除されました)。

攻殻機動隊の世界では、脳がコンピュータやネットに直接接続する「電脳」がふつうに使われていますが、「攻殻機動隊ARISE-GOHST IN THE SHELL」では、そのちょっと危険な一面も描かれています(ネタバレになってしまうので詳細は省略します)。

脳とコンピュータやネットが直接つながると、心を読まれてしまったり、記憶を操作されてしまったり……危険もたくさんありそう。

でも、そうならないための取り組みもすでに始まっています。

ブレイン・マシン・インターフェイス(BMI)の第一人者、株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)の 脳情報通信総合研究所の川人光男所長に伺いました。

笑顔が素敵な川人先生。BMI研究を始めてから、攻殻機動隊のことを人から聞いたものの、マンガを読んだりアニメを観たりしたことはないとのこと。

川人先生が取り組んでいるBMIは、脳に機械を埋め込むといった体を傷つける処置をせずに、脳から情報を取り出すことができるタイプで、「非侵襲型」と呼びます。

どうやって?

機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)や近赤外光分光法(NIRS)といった、外側から脳の情報を読み取る技術を使います。これらは、医療技術として脳の検査などで活用されています。

まず装置を使って脳の信号を読み出し、その後コンピュータで解析して解読します。

photo credit: Image Editor via photopin cc

fMRIではこんな装置を使って、脳全体の働きを読み取ります。

これまでに、未来館でもおなじみのホンダのヒューマノイドロボットASIMOを、人が考えるだけで操作したり、サルの脳活動を読み取って、遠隔地にあるロボットをサルの動きと同じように動かすといった成果をあげてきました。(ASIMOは2022年3月31日に未来館を卒業いたしました)

ただし、ご覧のとおり、脳の情報を読み取る機械が大掛かりになるのが「非侵襲型」BMIの難点です。それを解決しようと、NIRSではヘアバンドや帽子のようなタイプも開発が進んでいます。

BMIで電脳は実現できますか?

では、川人先生が研究を進める「非侵襲型」BMIを使って、攻殻機動隊の世界は実現できるのでしょうか?

*攻殻機動隊では、草薙素子(ARISEでは少佐になる前の素子が主人公です)らの電脳は、脳に機械を埋め込むタイプなので、非侵襲型ではありません。

攻殻機動隊の「電脳」とはちょっと違う印象ですが、医療分野でのBMIでは、失われた感覚機能や運動機能を補ったり治療したりといった研究が進んでいます。

たとえば、人工内耳や人工視覚(未来館5階にも展示があります)は実用化していますし、慶應義塾大学医学部などが取り組んでいる、脳の情報を読み取って体を動かすことで、麻痺などのリハビリに活かす研究でも大きな成果が出ています。

自分の考えを読まれたり、操作されたりしない?

最近では、川人先生と同じくATRの研究グループが、BMI技術で夢を読み取ることに成功しました。

詳しくはこちらのATRのプレスリリース(リンクは削除されました)をご覧ください。

でも、ここまで進んでくると、自分の考えが読まれてしまうのでは?もしかしたら操作されてしまうのでは?と不安になりますよね。

そこで、川人先生と東京大学の佐倉統先生が2010年に発表したのがBMIの倫理4原則です。

BMIの倫理4原則

  1. 戦争や犯罪にBMIを利用してはならない
  2. 何人も本人の意思に反してBMI技術で心を読まれてはいけない
  3. 何人も本人の意思に反してBMI技術で心を制御されてはいけない
  4. BMI技術は、その効用が危険とコストを上回り、それを使用者が確認するときのみ利用されるべきである

一見常識的な内容ですが、忘れずにいたい原則です。

BMIがもたらす未来社会

攻殻機動隊の「電脳」とはちょっと違いますが、BMIの実用化はもう目の前に来ています。

ですが、「BMIが日常的になって欲しいかどうかは、正直わかりません。病気の治療や、失われた働きの増強といった役割は必要とされるでしょう。しかし、健康な人では本当に必要でしょうか?」と川人先生。

BMIでできることを見てきましたが、技術的な課題として、BMIを使うことで、副作用が出たり、脳が変わってしまったりするといった何らかの影響が出るかもしれません。

特に新しい技術では、使ったときのリスクをよく理解する必要があります。

どんなに便利な技術も、人の役に立つかどうかは使い方次第です。

あなたなら、どんなときに、どんな用途でBMIを使ってみたいですか?それとも使いたくないですか?

という質問を、本日8月1日(木)から未来館5階「ともに進める医療」の「エンドクサ」のコーナーで投げかけています。

1枚目の質問を読んで、2枚目の黄色い用紙のように回答をします。

展示フロアでは、回答の参考になる詳細な資料も張り出しますし、ほかの方が回答してくださったご意見も参考になると思います。

わからないことがあったり、話し合いたいということがあったときは、展示フロアにいる私たち科学コミュニケーターに聞いてみてください。

また、ご来館いただけない方は、ぜひこのブログのコメントで回答してみてください!

参考資料
・「現代化学」2010年6月号:BMIの倫理4原則について掲載
・『脳の情報を読み解く BMIが開く未来』(川人光男、朝日新聞出版)

「テクノロジー」の記事一覧