お腹すいたよー!
「天然酵母」のパンを焼くんじゃなかったのかよー!
こんにちは。
未来館発酵部です。
前回までにレーズンから酵母を育てて、その酵母が何者なのか探ってきました。
今日はその酵母を使って、パンを焼きます!
「天然酵母」のパンはどうなったのか?
そして「天然」がもつ意味とは?
発酵部レポート(とりあえず)最終回、はじまります!
今回のレシピはこちらの本を参考にしました。
「KIBIYAベーカリーの天然酵母パンと焼き菓子」(KIBIYAベーカリー著、マイナビ)
簡単に書くとこんな感じ。
① 酵母が育ったレーズン液を全粒粉(小麦粉の一種)と混ぜて一晩。
② 小麦粉などと①を混ぜ、発酵させて、生地を膨らませる。
③ 成型して、焼く。
うん、一見すると簡単そう。
私だって、パンケーキくらいは焼いたことがありますよ(エッヘン)。
そんなわけで早速チャレンジ!
レーズンの酵母だけでは、パンがどのくらい上手く焼けたのか分かりません。そこで比較のために、ふわふわのパンが焼けることが分かっているドライイーストでもパンを焼いてみました。このようなやり方を「対照実験」といいます。
とある休日の朝7時。パン屋さんのごとく朝早くからパンづくりです。
まずは、②の生地づくりから。
志水:さて、1時間半ほど30℃で発酵させるんだな。
季節外れのこたつを引っ張り出し、発酵タイムです。一方、早起きが苦手な志水はお昼寝タイム......。
......3時間後
志水:ハッ!寝過ごした!
うわ、「ドライイースト」が容器からはみださんばかり!
3時間も放置したのにもかかわらず、「レーズンの酵母」は、ほんの少し膨らんだ程度でしょうか。
この差は、酵母の活動具合から来ています。生地が膨らむのは、酵母が糖分を食べて、二酸化炭素を出すためです。ドライイーストは、より活発に二酸化炭素を出したようです。
この差は焼いたパンにもはっきり表れました。
同じ重さのパン生地を焼いても、ボリュームがこんなに違います。
発酵部のみんなに食べてもらったところ、
「レーズンの酵母の方は固くて噛みきれない」「いや、この噛みごたえがいい」と賛否両論でした。
みなさんなら、「天然酵母のパン」と「ドライイーストのパン」、どちらを食べてみたいですか?
2つの違いは食感だけではありません。
思い出してみましょう。
天然酵母をとろうとすると、細菌が増えてしまい、異臭騒ぎを起こしたことがありました。酵母を育てることができても、その酵母が何者なのか調べるのは大変で、いくら火を通すとはいえ本当に食べても安全な種かどうか、保証はありません。そして、生地はなかなか膨らまず、時間がかかってしまいます。
一方、ドライイーストは、パンづくりに適した酵母を選び出したものです。自然界にあった酵母から適したものを選び出し、さらに長い時間をかけてより良い株を残してきました。安全であることが確認されていて、発酵させる力が強く、毎回同じように膨らませることができます。
私たちは「天然」にあるものを選抜することで、役に立つものを利用してきました。例えば、野菜はもともと野原に生えていた植物です。その中で食べられる植物を選び出し、栽培するなかで、より大きな実、大きな根、大きな葉を残す野菜を残していったのでしょう。その過程では、植物の毒にあたってしまったこともあったでしょう。
酵母も同じような歴史をたどっています。だとすると、「ドライイースト」と「天然酵母」を別物として扱うべきではないのかもしれません(「天然」の対義語は「人工」ですが、「ドライイースト」は育てた酵母を乾燥させたもので、「人工」ではありません)。だからこそ、「天然酵母」という言葉に違和感を覚える方が少なくないのでしょう。
私個人としては、「天然酵母」という言葉は、ドライイーストが「人工」であるかのような印象をうけるので、好ましくないと思っています。「レーズンからとった酵母」「りんごからとった酵母」などといえば分かりやすいと思うのですが......。
それでも「天然酵母」という言葉を使い続けたのは、「『酵母』ではなく『天然酵母』に関心をお持ちの方にこそ、微生物の豊かな世界を感じていただきたい」と思ったからです。
近年「天然酵母」のパンは色々なところで見られるようになりました。「天然酵母」という言葉の響きが自然志向にマッチした、とも考えられます。また、味や風味が微妙に変わることも影響しているでしょう。酵母を育てる液の成分や、酵母・微生物が作り出した物質は、パンの風味を左右します。
酵母を含む微生物の中には、美味しいパンをつくれるものもあれば、ヒトの健康に害をおよぼすものもあります。毎回酵母をとってくることは「楽しみ」でもあり「リスク」でもあります。「天然」から役に立つものを選び出す、という古くから続く営みを、私たちは身近なところで再び行っているようです。