高校生の時に、車の助手席から真っ赤に染まった夕焼け空を見ていたときのことです。
「きれいだね」と、私が言うと運転席にいた父が言いました。
「明日、戦争に行く人がこの夕日を見たら、明日香よりももっと感動するんだろうね」
感動は量れるものではないし「きれいだな」と思った自分の気持ちが否定されたようで少し憤慨しましたが、"高校生の私"と"明日、戦争に行く人"が同じ時間に同じ場所から夕日を見ても全く違って見えるのかもしれない...そんな気がしました。
この時の父の言葉はずっと心に引っかかったままでした。
未来館には直径6mの球体ディスプレイ「Geo-Cosmos」があり、宇宙から見た地球の姿を映し出しています。「宇宙から見た地球の姿をたくさんの人と共有したい」という館長・毛利衛の願いから作られたものです。
毎日「きれいだなぁ」と思いながら眺めていますが、実際に宇宙飛行士の眼に映る"地球の色"を私は見たことがありません。宇宙から見た地球は海で覆われた部分が青く見えますが、私の眼に映る色は、藍色やコバルトブルー、ターコイズブルー、エメラルドグリーン...いろんな色がある。それに、日に照らされてキラキラと光る海、夕日に染まる海、荒れ狂う黒い海や、大きな波で白く見える海もある。
ふと、
私たちが見ている地球って何色なんだろう?
そんな疑問が浮かびました。
宇宙から見た地球の姿を表すGeo-Cosmosがあるように、地球から見た地球の姿もみんなで共有できたらいいのに...。そう思いました。
ひとり一人が見ている世界を色に変えて、それをつなぎ合わせたら、地球からみた地球の色が見られるかもしれない。
そこで、夏休み期間中の未来館で小さな企画を実施しました。
タイトルは「みんなで描く 地球の色」。
来館者ひとり一人に6cm四方の紙を渡し、表側には「今まででもっとも印象的だった情景の色」を塗ってもらい、裏側には塗った理由を書いてもらいました。
ひとり一人が見ている世界はじつに多彩で、たくさんの色があふれていました。
その中から私の印象に残った16枚をご紹介します。紙の裏に書かれた詳細は以下の通りです。
①今までで最も印象的だった情景の色を紙の裏側に塗って下さい。その色を塗った理由は何ですか?
②出身地
③性別
④年齢
自然、動物、大切な人との思い出...
来館者の想いや記憶が色となって集まりました。その数、なんと2000枚以上!
その中でも特に多く描かれたのが「空」「太陽(夕日)」「海」「虹」です。テーマごとに集めて並べてみるとこんな感じに...。
【 空 】
【太陽】
【 海 】
【 虹 】
虹はこどもたちに大人気でした。雨上がりの空に現れて一瞬で消えてしまう自然のアーチはこども心を掴んで離さないようです。海や空を見て感動した経験をもつ人もたくさんいましたが、その色は一人ひとり異なります。
色は空気中の水分量や光の角度によってさまざまな色に変化しますが、景色を見ている人の視覚や心情によっても見え方が変化します。
私たちが見ている世界は一秒ごとに違う景色なのかもしれません。
いよいよ2000枚以上の全ての紙片を円形に並べて、みんなの地球を描きます。私たちが見た地球の色はいったいどのような色になったのでしょうか?
まずは並べている様子を動画でご覧下さい。
そして、完成作品がこちら!!
大きさは約、直径4m!手作業で並べているため少し歪みが見られますが、それはご愛嬌。使用した画材の色数は決して多くありませんが、みんなの色が集まってとても鮮やかな地球の姿が現れました。
この企画を準備してきた私(戸坂)と同僚の古澤は、完成したみんなの地球を見て息を呑みました。私たちが想像していた以上に、とても美しかったからです。
世界中の人が描いたら、どんな色になるんだろう?1000年後の人が描いたら、どんな色になるんだろう?
新たな疑問がどんどん浮かんできました。
自分の眼に映る世界と、他者の眼に映る世界が全く違うとしても、みんなが生きていける星は地球だけです。だから、感動も争いも紙一重なのかもしれません。
みなさんの眼に映る地球はどんな色ですか?
この企画に参加して下さった来館者のみなさまに心よりお礼を申し上げます。
ありがとうござました。