すっかり東京も寒くなりました。
鍋料理やシチューが恋しくなる季節ですねえ。
こんにちは、志水です。
そんな12月のある日、私はふと思いました。
「ブロッコリーを食べたい!」
日頃、コンビニ弁当で済ませているので、慢性的な野菜不足なのかも。 近所のスーパーでブロッコリーとキャベツ、ベーコンを買いこみ、ポトフにでもしようかと調理を始めました。
まずは水で軽く洗って、と...
おー!水をはじいている!
ブロッコリーはつぼみの集まり。その上で水滴が丸くなり、キラキラと輝いています。
・・・でも、なぜ水をはじくんだ?
科学コミュニケーターたるもの、まずは自分で確かめねば!
参考にしたのは、ハスの葉っぱ。 ハスの葉っぱがなぜ水をよくはじくのか? 以前、同僚の堀川が書いた記事によると、「表面のでこぼこ」と「油脂によるコーティング」が大事らしい。
そこで!ブロッコリーも同じじゃないかな~というわけで、こんな仮説を立ててみました。
仮説を立てたら、実験です。
買ってきたブロッコリーは新鮮そのもの。 つぼみが密に詰まって、でこぼこができています。 とはいえ、ハスの葉っぱのでこぼこは、一つの山の幅が数マイクロメートル(1ミリの100分の1以下)と非常に小さい一方、ブロッコリーの山の幅はせいぜい1ミリといったところです。このでこぼこは、水をはじくのに効果があるのでしょうか?
さて、このでこぼこ、どうしてくれようか(ニヤリ)
取り出だしたるは、つまようじ。 親の仇じゃないけれど(そりゃそうだ)、ブロッコリーに突き刺します!
8本のつまようじをまとめて、100回刺す、刺す、刺す!
ブロッコリーの真ん中に見えるのは輪ゴム。ここを境にして、片側だけにつまようじを刺しました。
これで、つぼみとつぼみの間に隙間ができて、写真ではわかりにくいですが、でこぼこがややなめらかになりました。さっそく水をかけてみます。
さあ、結果はいかに!?
おーっ、ほとんど水をはじいていない!
つぼみの表面に水の膜が薄く広がってはいますが、大きな水滴は見られません。 水がつぼみの隙間を通って、下に垂れていきます。 でこぼこによるのか、隙間の大きさによるのかよく分かりませんが(おい) ブロッコリーの表面のかたちは、水をはじくことに一部寄与しているようです。
油脂があるのかわかりませんが、あると仮定して、まずは実験してみました。
油を落とすものは何かないかなあ、と周りを見渡した志水。 流しにあった台所用洗剤に目を留めます。
泡が立つさまは、茶せんでお抹茶をたてているよう(手首のスナップを効かせる!)。 20秒ほど振ったのち、水道水で洗剤をきれいに洗い流します。 これで、つぼみに油脂があったとしても洗い流されたことになります。 さあ、どうなったかなあ......?
全然、水をはじいてないよぉ~!
水の薄い膜すら残っていません。水はブロッコリーの内部に吸い込まれていきました。どうやら、油脂(あるいは洗剤で落ちる何か)は水をはじくことに大きく寄与しているようです。
以上の結果から、こんなことがいえるようです。
「ブロッコリーが水をはじくのは、表面構造による部分もあるが、表面の油脂(あるいは洗剤で落ちるもの)によるものといえそうだ!」
調べたところ、ブロッコリーのつぼみの表面はワックス(油脂)で覆われていることが分かりました。もちろん、ブロッコリーが自分で分泌しているワックスです。人間が塗っているわけではありません。
今年11月に書いたイチョウに関する記事でもご登場いただいた、植物学者の塚谷裕一先生(東京大学大学院・理学系研究科)に、ブロッコリーの表面にワックスがある意味を教えていただきました。
「(ブロッコリーの原種は)準乾燥地帯に起源しているので、乾燥耐性のためのワックスでしょうね。で、葉っぱも大事ですが花芽はやわいので保護しないといけませんし、加えて害虫にもねらわれる栄養豊富な場所ですから、やはりワックスを掛けておかないといけません。」
とのことでした。
植物には、乾燥や害虫から身を守るために表面をワックスで覆うものも多いそうです。例えば、サボテン。表面をよく見ると、白いろうのようなもので覆われています。これが水分の蒸発を抑えるのですね。
インターネット上では、「水をはじくのは、農薬のせいだ」との情報もあるようです。しかし、農薬を使わないブロッコリーでも同じように水をはじきます。私も、市民農園でブロッコリーをつくっていましたが、同じように水をはじいていました。
農家の方も、「農薬ではないか」という情報に気を揉んでいるそうです。
香川県の農家・豊嶋和人さんによると、ブロッコリーの食べる部分(つぼみの部分)には農薬をかけないことが一般的だそうです。※1
ブロッコリーに使う農薬には、農薬がはじかれないようにする「展着剤」というものが入っているそう。ブロッコリーは葉っぱにもワックスがあるため、液体をはじきます。しかし、農薬まではじかれてしまっては、害虫駆除には意味がないですよね。この農薬がつぼみにかかったらどうなるでしょう?つぼみの部分は水をはじかなくなります。その結果、雨や夜露がしみこんでしまい、腐りやすくなったり、品質が落ちたりするのだそう。そこで、一般的には、つぼみが小さくて、葉にすっぽり覆われている時期に、農薬をまくのを終えるのだそうです。
私たちが勘違いしてしまうときに、こんなことはないでしょうか?
・判断する前の思いこみ。
(今回の例では、「野菜は農薬まみれではないか」という意識)
・いったんある筋道を理解してしまうと、それ以外の筋道や理由に目が行かない。
(今回の例では、「洗剤で洗うと、水をはじかなくなる。やはり、農薬で覆われていたんだ!」という意識)
「水をはじくのは農薬のせいだ、なんて、思うはずがない!」 と多くの方は思われるかもしれません。 しかし、誰しも思いこみによって判断を誤った経験はあるのではないでしょうか。 たった今、私のデスクの横で、「納会の幹事、●●さんだと思ってたー」と思いこみによる誤りが発生しました(笑)。
たまには、自分が思いこんでいないか冷静に見極め、他の仮説を立て、実験してみるのもよいのではないか、と煮えあがるブロッコリーを見ながら、考えた次第です。
(参考) ※1 まんのうを耕す百姓のblog
http://hyakusyo.ashita-sanuki.jp/e626629.html(リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)