あなたが残したいものは何ですか? ーおとなのリアルラボ@東京藝術大学レポートその3ー

さて、おとなのリアルラボ@東京藝術大学シリーズその3、です。

まずはこちらのブログを読んできてくださいませ。

文化財を未来に残すこと ーおとなのリアルラボ@東京藝術大学レポートその1ー (リンクは削除されました)

科学と文化財との関係とは・・!?―おとなのリアルラボ@東京藝術大学レポートその2― (リンクは削除されました)

文化財の「色を見る」ということを軸に、桐野先生の講義を聴き、実験装置を体験した参加者のみなさん(と、武田と松浦とスタッフ長田)。

お待ちかね、先生方の研究室・実験室に潜入です。

桐野先生には電子顕微鏡やX線回折装置など、試料を分析する機器をメインに見せていただきました。

機器を研究に必要な形に改良してしまうこともあるとか。

一方、稲葉先生からは和紙についての講義を。和紙は2014年に無形文化遺産に登録されましたね。

世界一薄い和紙など様々な紙を見せていただけました。

他にも紙に負荷をかけて劣化させる装置なども。紙が何十年、何百年と時間をかけて劣化していくのを、短時間で再現することができる装置です。例えば紫外線を当てるなど、紙が劣化する原因となる条件をあえて作りだして、紙をタイムスリップさせるのです。

大きな機器なので、「松浦さんなら入れちゃいそうでしょ?」と稲葉先生。わざわざ劣化させられるのは、ちょっと遠慮したいです!(笑)

そして、いよいよディスカッションの時間へ。

今回、講義から体験、見学まで、ずっと「文化財を作る材料を分析する」ことを様々な形で見せていただいてきていた私たち。参加者の方からの

「その分析結果を利用して、文化財をどのように保護・保存していくのですか?」

という質問からディスカッションはスタートしました。

「文化財を分析する」ということは、「文化財の現状を知る」ということ。

現状を知ると、その文化財の歴史を知ることができると桐野先生は言います。

「文化財は様々な手を伝わってきています。その伝わり方と現状がわかると、これからの保存方法を考えることができるのです。」

では、先生たちの研究に対するモチベーションはどこにあるのでしょうか。

ここでは工芸作家でもある大野先生の答えを。

大野先生は、文化財保存の仕事をする中で、自分が工芸家を目指すきっかけになった作品を修復できる機会に恵まれます。まるであこがれの人と丸1日一緒に過ごせるような気持ちだったとか。

その作品を分析していくと、その作品のモチーフをどれだけ観察して、どれだけよく知っているか、作品に対する熱意が節々から伝わってきて感動されたそうです。最近は作品を何年もの時間をかけて作る機会が少なくなってきているそうですが、ある意味大野先生の「原点」ともなる作品を修復・保護したことによって、先生はもう一度工芸を志したときの気持ちを思いだした、とおっしゃっていました。

作品を分析することは、その作品の生い立ちを知ること。

そしてその生い立ちがわかると、これからの保存の方法がわかるわけでなく、新しいものを創り出すモチベーションにもつながる。

現在を分析し、過去を知る。そして、未来を創り出す。

文化財保存のディープなところに入ってきましたね。。

ここで松浦が、あるキーワードを参加者のみなさんに投げかけます。それは「アイデンティティ」。

イベント前に武田と松浦、そしてその場にいた同僚の科学コミュニケーターで「なぜ文化財を保存するのだろうか」という議論をしたのです。また、今回同行した長田とも軽い議論をしました。その結果、二人の中で出た結論は、

文化財を保存すること自体がアイデンティティなのではないか。

さらには保存された文化財を見ることで自分のアイデンティティを探すこともできるのではないか。

というものでした。アイデンティティも、自分の過去があって現在のアイデンティティがあり、そして未来に繋がっていくものです。参加者のみなさんはアイデンティティを探すとしたら、何を残しておきたいでしょうか。

父娘で参加してくださったお父さんは、こう答えます。

最近は色々なものがデジタルで保存されることが多いので、本物、例えば父親の写真などの現物を残していきたい。

意地悪に「デジタルだったらいつでも印刷できるのに?」という松浦に対して、うーん、やっぱり現物で。とおっしゃいます。

実は、いつでも印刷できるじゃない、と言った松浦も、先日祖母の誕生日に撮った写真は印刷しました。

でも、なんでもかんでも残しておくことは、それはまた大変なこと。

「残しておきたいものの選び方はどこにあるのでしょうか。」

稲葉先生が即答します。

「とりあえず残します。すぐには判断できません。50年、100年の時間が流れる中で評価が定まってきます。それにしたがって然るべき保存をしていきます。」

なるほど。

このあと参加者の方からこんな意見も出ました。

「本物の持つ力はすごい。ちゃんと残していって欲しい。そしてその残っている本物を観に行くと良い。」

その方は同じ作品でも自分の見る時期によって感じ方が違うから、何度も観に行くと良いと続けます。何度も観に行けるのも、先生方の研究があり、その研究に則った修復・保存がなされているからこそ、ですね。

そして議論は徐々に、「ものを残す」ことからその「ものを残す方法を残す」という話に移ります。

本物そのもの、そして、ものの作り方、が今まで続いてきたのは、それらが「残されてきたから」。最後、こんな質問が。

「文化財保存の研究そのものを発表していくことはないのですか?」

先生方はここでもいろいろ教えてくださいました。

文化財保存・修復の現場は今までは"職人の世界"であまりオープンにされていない部分も多くありました。また文化財には所有者がいます。所有者の意思によっては、発表できないこともあるとか。一方で、修復そのものを展示にした例もあるそうです。

・・・と。ここでイベント終了の時間が。あっという間の1時間。大人の方ばかりなので、静かな、しかし熱い空気が流れる濃密な時間を過ごせました。


いかがでしたでしょうか。本当はもっともっともっとお伝えしたいことがあるのですけど!(とってもとっても濃い時間だったのです。)

今回、武田と松浦は、文化財保存と科学のつながりを見ながら、文化財を保存することの意義を一人でも多くの人に考えて欲しい、とイベントを作ってきました。

なぜなら、文化財を保存することは、未来を創ることだから。
そしてその文化財保存には科学技術の力が欠かせません。
今後、文化財を見るときがあったら、ぜひこのブログを思い出してください。

あなたが見ている文化財には、たくさんの歴史があって、その歴史を紐解いて今までつないできた人たちとそのつなぐための研究をしている人たちがいます。

そして、残されてきたものと今新たに作られていくものの両方を残していくことが、未来を創るということを、思い出してもらえたらと思います。

イベント概要

おとなのリアルラボ@東京芸術大学―過去と未来をつなぐ文化財保存と科学―

日時:2015年3月28日(土)13:00~17:00

場所:東京藝術大学美術学部上野キャンパス

対象:クラブMiraikan会員(高校生以上)

参加者:15名

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