みなさん、お待たせしました!!!
3月28日に開催した、おとなのリアルラボ@東京芸術大学レポートその1の続編です! (リンクは削除されました)
前回、リアルラボの概要をお伝えしましたので、
第2弾では、講義と体験の部分をお伝えしたいと思います!
仏像!建築!書物!ミイラ!
などなど、多様な文化財を大切に保管するために必要なのが、
保存科学という学問です。
今回のイベントでは、
「保存科学入門」
と題して、桐野先生に直接講義をしていただき、
その後、実際に装置を使いながら保存科学の体験をしてきました。
「科学技術と文化財にはどんなつながりがあるの?」
「一体どんな風に文化財を保存しているの?」
という疑問も、このブログを読めばスッキリ・・!?
ということで!
さっそく講義の内容から入ってまいりましょう~~~~~~~!
そもそも、文化財ってなんなのでしょうか・・?
講師の桐野先生のお考えでは、文化財とは私たち人類がつくったもの全てが当てはまるとのことです。
そう捉えると、文化財とは様々な材料からできていることが想像できます。
そのため保存科学では、
まず文化財がどんな材料からできているかということを調べ、
その材料に適した保存環境を整えることが大切です。
今回は入門ということで、まずは材料を調べるというところを重点的にお話いただきました。
講義では、数多くある文化財の中でも、
浮世絵、陶磁器、小判の3つを例にあげています。
実は、この3つの文化財には共通した方法を使用して、材料を調べているのです。
それは何かというと・・
「色を見る」という方法です!
え!?色をみただけで、材料がわかっちゃうの!?
ということで、さっそく講義でも取り上げられていた浮世絵を例に、
科学的に色をみるとはどういうことか、お話を進めていきましょう。
この浮世絵には、江戸時代に作成された役者絵です。
当時、こういった浮世絵は町民が気軽に楽しめるようにと大量に作成されました。
色とりどりの配色が鮮やかな作品ですが、
この色をきれいに保存するためには、彩色材料を1色ずつ調べる必要があります。
しかし、材料を調べるときに試料の部分を切り取っていってしまうと、
せっかくの文化財が穴だらけになってしまいます・・
そこで!!!
試料を切り取る代わりに光(※1)をつかいます。
さっそくですが、光を使って材料を特定した結果がこちらです。
この表の結果は、色の部分にX線を当て、
はね返ってきた光をみることで材料の特定をしています。
中には材料の部分が「?」となっているものもあります。
この回析方法では、元素の原子番号が、
アルミニウム(原子番号13)、ケイ素(同14)よりも前の元素は特定することができません。
例えば、墨は原子番号6の炭素が主成分なので、特定できず「?」がついているわけです。
また、赤色には薄赤と濃赤の2種類があげられています。
人の目で見ても赤色の違いはわかりますが、
科学で見る赤色は、どのような違いがみえてくるのでしょうか・・?
今回講義では、赤色の部分の分析を、詳しく説明していただきました。
ということで、さっそく科学的にみた赤色の画像をご覧下さい!!
こちらの画像は、走査透過型電子顕微鏡(通称:STEM)を使って、
赤の部分の断面を、撮影したときの画像です。
ちなみに、倍率はなんと400万倍!!!
STEMを使うと、ウイルスが見える世界まで拡大することができるのです!!
通常STEMで紙の断面を撮影するのは難しいのですが、
桐野先生は特別な工夫を凝らして、このような断面の撮影を行っています。
左側が薄赤、右側が濃赤の断面です。
下の部分は和紙の繊維、その上に彩色に使用された材料が乗っている状態です。
両者の違いを見比べてみます・・
青く囲った場所が、彩色に使われた材料の部分です。
薄赤の部分は灰色のつぶれたコッペパンのようなものが横に分布しています。
一方、濃赤の部分には、つぶれたコッペパンの間に黒い塊がみえます。
わかりにくいのでもう少し、拡大してみましょう。
濃赤の画像の赤枠で示した部分をさらに拡大します。
すると、先程は黒い塊にしか見えなかった部分の様子がはっきりしてきました。
黒く写っていた部分は、小さな粒子が塊をつくっているということがわかります。
この塊の粒子に、電子線を当てて回析したところ、ベンガラということが明らかになりました。
ベンガラは古くから知られる、酸化鉄を使った色素です。
ちなみに、つぶれたコッペパンのような部分も電子線を使って回析したところ、
全部蒸発しまったため、おそらく紅花由来の染料ではないかということが推測されました。
このように、様々な光を駆使して色をみることで、材料の特定が行われました。
一口に文化財の「色を見る」といっても、
「化学的にどんな性質をもち、どんな状態になっているか」
というとこまでみていくのが、科学的に色をみるということなのです!
また今回のリアルラボでは、桐野先生が所蔵している文化財を目の前で見ながら、
実際に、分析を体験する時間もありました!
いざ、文化財を目の前にすると、そのオーラに圧倒されてか、
参加者のみなさんもわれわれスタッフも、自然と緊張した面持ちに・・・
ブログを読んで下さっているみなさんにも、
わたしたちがどんな体験をしていたのか、写真とともにご紹介します!
こちらは、赤外線を使って文化財を見ているときの様子です。
下の写真は、実際に見ていた文化財です。
左側に、烏帽子を被った人物が3人うっすら見えますね。
右側にも、何か線が見えますが、一体これは何なのでしょう?
次は、赤外線を使って文化財を見てみます。
すると・・・
墨線(墨で描かれた線)がはっきりと見えるようになりました!
右側にあったのは、滝と枝のようですね。
それを眺めている人物の服装も、先程よりもわかりやすくなりました。
同じ光を利用した方法で、こちらは紫外線を使っています。
先生の手にあるのは、ラピスラズリの入った石です。
紫外線を当てると、ラピスラズリは青白く光るので、
このように、彩色材料を特定するときにも役立ちます。
お次は、みなさんお馴染み(?)の顕微鏡です。
顕微鏡といってもただの顕微鏡ではありません!
こちらは、デジタル光学顕微鏡といって、サンプルを拡大するだけでなく、
画像の合成ができるので、拡大したサンプルの表面を3Dで見ることができます!
例えば、小判をデジタル顕微鏡でみてみましょう・・・
すると、写真のスライドのように、
表面の非常に小さな凹凸の様子や、微妙な色の違いがみえてきます。
小判といえば、材料は金に決まっていそうですが、
実は金の含有量に違いがあって、銀の合金が使われていることもあるのです。
このデジタル顕微鏡を使って、絵の具で描かれた絵の表面をみると、
絵の具の表面の粒子の様子が見えてくるそうです。
同じ青でも、粒子の大きさによって多少色味が変わるので、
不純物が混じっていれば、その様子が3Dでわかります。
この他にも、色を数値価する装置(分光反射率を調べる装置)もありました。
人によって色のイメージは違うので、
「赤」といっても、百人いれば百種類の「赤」が存在します。
そこで、「赤」という色を科学的に数値化することで、
人によって異なった「赤」という色を、統一して表すことができるのです。
さて、文化財の「色を見る」という現場を通して、
改めて「科学の力ありがたやー!」と思った私ですが、
ある桐野先生の言葉に、ハッとさせられましたので、
最後にその言葉をご紹介して、ブログ第2弾を終わりにしたいと思います。
「研究ってのは、機械じゃなくて人間がするんですよ、
良い機械になっても、その結果を人間が分析しないと意味がない。
(データをとって)ここから、何が言えるのかというのを考えるのが、
我々の義務なんですね。像はとれるけど、後は人間が考えて下さいということです。」
そうだ!!!
科学というと、どうしても「技術」ばかりに注目してしまいますが、
「人」によってその力は発揮されるということを、改めて確認しました。
ということで!!
連作でやってまいりましたこのレポートも、次回でなんと最終回!
最後は、先輩SC松浦による、
現場見学とディスカッションの様子です!
おとなのリアルラボというだけあって、
とってもディープなディスカッションになりました。
その様子を松浦がしっかりレポートしておりますので、
皆様、お楽しみにっ!!!
(※1)このブログの中では、光を電磁波としてとらえています。