2015年ノーベル化学賞を予想する① モバイル機器の原動力を開発した男たち

こんにちは!!

科学コミュニケーターの田中 健です。

未来館恒例、ノーベル賞予想イベントの季節がやってきました。

私は、昨年は物理学賞チームでしたが、今年は化学賞チームでイベントを盛り上げていきます!

さて、私、田中がノーベル化学賞受賞者として予想するのは、こちらの方々!!!

ジョン・グッドイナフ(John Bannister Goodenough)博士(1922年生まれ)

写真提供 テキサス大学オースティン校

水島 公一(みずしま こういち)博士(1941年生まれ)

写真提供 株式会社東芝

吉野 彰(よしの あきら)博士(1948年生まれ)

写真提供 旭化成株式会社

その受賞理由はなにかというと、今や私たちの暮らしになくてはならないモバイル機器の原動力となっているアレの開発です。

そのアレとは・・・

「リチウムイオン二次電池」です!

二次電池とは、充電して繰り返し使える電池のことを言います。ニッケル・カドミウム電池(ニッカド電池)など、いくつかの二次電池がリチウムイオン電池の登場前からあり、いまも使われていますが、リチウムイオン二次電池には先輩たちよりも優れた点があります(後述します)。このため、登場から短期間で広く普及しました。

身近なところではパソコン、携帯電話、カメラなどに使われています。これらだけでもかなり広くたくさん使われていることがわかりますが、その他にも電気自動車や太陽光発電、産業機器などたくさんの分野で使われているのです。

ノーベル賞はアルフレッド・ノーベル氏の遺言にもとづき、「人類にもっとも偉大な貢献をした人」に与えられます。

私たちの生活に密接に関わり、実際に大きく役立っているリチウムイオン二次電池。

受賞しそうな気がしませんか?

それでは、それぞれのご功績をご紹介する前に、まずはリチウムイオン二次電池の原理をご紹介します。

電池とは、電子というマイナスの電荷をもった電気の粒がマイナス極からプラス極に移動して流れる(=電流)ことによって電気エネルギーを得る装置です。ですので、マイナス極には電子を発生させる材料を、プラス極には電子を受け取れる材料を使います。二次電池の場合は、充電時に逆のことが起こるということです。

現在普及している一般的なリチウムイオン二次電池には、プラス極にはリチウム金属酸化物(LiCoO2など)、マイナス極には主に炭素材料が使われています。充電ではリチウムイオンがプラス極からマイナス極へ移動し、放電では逆のことが起こります。充電と放電によってリチウムイオンが繰り返し行き来してもプラス極やマイナス極に使われている材料が変化しにくいのが特徴です。このことは、長期間、高効率かつ安全に使えるというメリットにつながります。

では、三氏のご功績を紹介します。

上の図を見てもわかるとおり、電池は、プラス極とマイナス極にどんな素材を使うかで、性能や使い勝手が決まります。つまり、より優れた電池を作るためには、素材探しと組み合わせがとても重要なのです。

まず、リチウムイオン二次電池に適したプラス極としてリチウム金属酸化物に着目したのが、当時オックスフォード大学で教授として所属していたグッドイナフ氏と、彼のもとに留学中だった水島氏です。リチウムを使った二次電池のプラス極探しの研究をはじめた頃は、酸化物ではなく硫化物を使っていたそうです。しかしあるとき、実験中に予期せぬ小さな爆発が起きたことをきっかけに、安全に実験できるものとして選んだのが酸化物でした。グッドイナフ氏と水島氏の「ひらめき」だったのでしょうか、この選択が功を奏し、リチウムイオン二次電池のプラス極としてリチウムコバルト酸化物(LiCoO2)が誕生。1980年に論文が発表されました。

時期を同じくして、新しい二次電池の開発に取り組んでいたのが吉野氏でした。1981年、吉野氏は、それまでマイナス極に使われていた金属リチウムではなく、ポリアセチレンという電気を通すことのできるプラスチックを使うことを思いついたのです。というのも金属リチウムを使ったマイナス極は充電と放電を繰り返すうちに反応が激しくなり、発火するおそれがあるという安全面での課題があったからです。しかし、ポリアセチレンがマイナス極に適していることは発見したものの、より優れた二次電池を開発するためにはやはりリチウムの持つ特性が適していました。となると、プラス極にリチウムを使うしかありません。さて、プラス極にどんなリチウム化合物を使えば良いのかと悩んでいた矢先、偶然目にした論文がグッドイナフ氏らの発表したプラス極、LiCoO2についてのものだったそうです。しかも、このプラス極に適したマイナス極はまだ見つかっていないとのこと。吉野氏は早速ポリアセチレンにLiCoO2を組み合わせてみたところ充電も放電もうまくいくではありませんか。こうして1983年、ついにリチウムイオン二次電池の原型が発表されました。さらに2年後の1985年には、より安定なマイナス極として炭素素材を見出し、リチウムイオン二次電池の基本概念が確立したのです。

なんだか偶然と試行錯誤が幸運を呼んだとも言えるこの発明。開発経緯を知るにつれ、私はワクワクしました。というのも、吉野氏が注目した「電気を通すポリアセチレン」は、1977年に発表されていましたが、これを開発したのは白川英樹博士です。白川氏が、この発明で2000年に共同研究者とともにノーベル化学賞を受賞したのは、皆さまご存知の通り。実は白川氏の発明も、実験中のある偶然から生まれたひらめきがもたらしたものでした。未来館の常設展示では白川氏の導電性プラスチックに関する発明を、まさに「ひらめき」が生んだ科学技術としてご紹介しています。リチウムイオン二次電池を作りたいという研究者の願いが研究への熱意となり、さまざまなひらめきや試行錯誤が交錯する中で実現し、現在私たちがそれを使っている──。

私には、ひとつのドラマのように感じられます。

さて、そもそもリチウムイオン二次電池は、なぜこのような努力の末に開発され、広く普及したのでしょうか。

それは、ニッカド電池やニッケル水素電池などの他の二次電池とは違う長所があるからです。

主に次の3つがあげられます。

①電圧が大きい

 従来の二次電池の電圧が約1.2Vであるのに対し、リチウムイオン二次電池の電圧は約3.7Vと約3倍です。

②軽く小さくできる

 リチウムはもっとも軽い金属で、他の電池に使われているニッケルやマンガンなどよりもずっと軽いのです。また、イオンになりやすい性質も持っているので電力を作りやすいのです。

③メモリー効果がない

 ニッカド電池やニッケル水素電池では、ある程度の容量を残した状態で放電を中止すると、電池が「これくらいで放電をやめた」ということを記憶(メモリー)し、再度充電と放電を行うと、前回放電を中止したあたりで電圧が低くなるということが起こります。これがメモリー効果で、使う側からすると、毎回最後まで放電してから充電をしないと、どんどんと使える容量が減るという、やっかいな性質です。しかし、リチウムイオン二次電池の多くではそれが起こらないので、高電圧を長期間キープできるのです。

日本の研究者が大きく貢献しているリチウムイオン二次電池。昨年のノーベル物理学賞に続き、今年は化学賞を通して日本の科学パワーを世界に知ってもらえるとよいですね!

今年のノーベル化学賞発表は10月7日(水)の日本時間18時45分発表予定です!

未来館の受賞者予想とともに、みなさんもぜひお楽しみください!!

皆さまも以下のサイトから投票してください!
ノーベル賞を予想しよう!2015(現在は公開を終了)

2015年ノーベル賞を予想する
(リンクは削除されました)

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今年もその瞬間をニコニコ生放送で中継します。
ノーベル賞発表の瞬間をみんなで迎えよう

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