2月11日に実施したイベント「"みらいのかぞく"を考える~人の心・制度・科学技術~」の様子を、これまで4回にわたりお届けしてきました。
いよいよ今回が最後です。
実は2時間のトークイベント後、参加者限定の特別ワークショップも開催したのです。トークイベントでの濃い議論では飽き足らず、もっと深く家族について語り合いたい方20名ほどが参加してくださいました。このワークショップはグループディスカッション形式で行ったのですが、武藤香織先生や松尾瑞穂先生だけでなく、ディスカッションパートでお話しいただいた加藤英明さん、石塚幸子さん、塚本紹史さんも各グループの一員として参加してもらいました。
ワークショップのメニューはこちら。
STEP1 家族とは誰のこと?
STEP2 家族をつなぐものとは?
STEP3 当事者とそうでない人の違いは?
STEP4 未来の家族はどうなる?
早速、STEP1から振り返っていきましょう。
STEP1 家族とは誰のこと?
STEP1はまず個人ワークから始めました。自分の身の回りにいる人を思いつくだけあげてもらい、その中から家族と呼べる人を選んでもらうというものです。
参加者があげた身の回りで家族と呼べる人をまとめると、次のとおりでした。
血縁関係にある人、親戚、友人、近所の人、ペット、同僚、SNSのフォロワー、趣味などの仲間、植物
「人」とは言いましたが、確かにペットも植物も私たちの身の回りにいますよね。これには納得。私が驚いたのはSNS(FacebookやTwitterなどのソーシャルネットワークサービス)のフォロワーです。インターネットがこれだけ普及した現代ならではの回答かもしれません。ここですでに、家族の定義が人によって違うということがわかります。
では、家族だと思う理由にはどんなものがあがったかというと、
血縁、同居、愛情、婚姻等の社会制度、信頼
物理的な理由から精神的な理由まで。ペットや植物、SNSのフォロワーなどは愛情、信頼といった心の部分が大きく寄与しているのでしょう。
STEP1の結果を各グループ内でシェアしてもらいました。みなさん真剣な様子で他の人の家族観に耳を傾けている様子がうかがえました。みなさんは身の回りのどんな人を家族だと思いますか?
STEP2 家族をつなぐものとは?
STEP1で家族とは誰かについて整理したところで、STEP2では家族をつなぐものが何かについて考えました。
参加者に例示したものは上の図のとおりです。これに対し、各グループで思いつくものをどんどんふせんに書いてテーブルに貼ってもらったところ、次から次にテーブルがふせんで埋まっていきました。
次は、そのふせんを①人の心、②制度、③血のつながり、④その他の4つに分類してもらいました。
さて、結果をまとめると...
まずは①人の心。
依存心、会話、信頼、いやし、困ったときに頼れる、情、かけがえのない存在、支配、価値観の共有、嗜好、亡くなった人、愛憎=要求の濃さ、思いやり、時間を共有すること、互いの認識、違いを認め合える
ここで私がまず気になったのは、「亡くなった人」です。例えば、ずっと疎遠だった兄弟や親戚が、ある人の死をきっかけに再び家族を意識するようになることもあれば、逆に疎遠でいたいけれど亡くなった人のことを思うと家族でいざるを得ないというケースもあるかもしれません。実際に、私も前者のケースは経験があり、改めて家族をつなぐものとは何かについていろんな思いが頭をめぐりました。もう一つ気になったのは「愛憎=要求の濃さ」です。愛情が行きすぎると要求の度合いも増していくというのはなんとなく想像ができます。家族だから、あるいは愛しているからこそ相手に多くを求めてしまうという経験をしたことのある人は少なくないかもしれません。逆に「それらの要求を受け入ること」は、家族をつなぐものだとみなさんは思いますか?
次に②制度。
保険証、表札、相続、責任、義務、戸籍、婚姻
表札は個人的におもしろいと感じました。表札にも、1つの姓を掲げる場合と複数の姓を掲げる場合があります。後者の場合、内情は様々だと思いますが、端から見ると「家族なのだろう」と捉えるのが一般的かもしれません。表札が家族をつなぐ...。これまで私は思いつかなかった視点でした。
そして③血のつながり。
血縁、遺伝子、墓
これは、そのままの回答が出ましたね。墓というのは、①で出てきた亡くなった人にも通じます。血のつながりがあるかないかは別として、人の死が家族をつなぐという意見は少なくなさそうです。
最後に①から③のいずれにも当てはまらなかったもの、④その他です。
養育、生活費、居住を共にする、時間の共有、経験の共有、食習慣、一緒に生活できる、価値観・共感・共有、財布の共有、スカイプとドラクエ、分担、費やせるお金、費やせる時間、役割、収入、運命、会話、かぞくのかぞく、好みが同じ
ここで気づいたことは、「何かを共にする」という回答が多いことです。人は、何かを共にすることで相手のことを知ったり思いやったりします(時には傷つけ合うこともありますが...)。それが例え望んでいないことだとしても、人と人を家族たるものにしていく力があるのかもしれません。でも、一体家族ってどう定義すればよいのでしょう?やっぱり一言ではまとめられそうにないですね。「スカイプとドラクエ」...これはおもしろいですね。いわゆる時間の共有と言い換えられるものかもしれませんね。
STEP3 当事者とそうでない人の違いは?
STEP2までは自分の家族観について考えを掘り下げてきましたが、STEP3では自分以外の人のことを考えてみます。
ここでいう当事者とは、トークイベントの内容を踏まえ「第三者からの精子提供(AID)で生まれた人」と「LGBTの人」の2パターンとし、各グループにどちらか1つをテーマとして割り当てました。
各グループで、それぞれに割り当てたテーマの人が大事だと思うであろう「家族をつなぐもの」を想像し、3つあげてもらいました。
AIDで生まれた人を割り当てたグループから出たのはこちらです。
信頼、大切にできる気持ち、血縁、経験の共有・記憶の共有、周りから見て家族かどうか、制度
また、LGBTの人を割り当てたグループから出たのはこちら。
保証人、人生を共にする覚悟、生活、愛情、権利・血縁、コミュニケーションや共有、家族として受け入れる互いの意志、期間、制度
さて、ご本人たちはこの意見に対してどう思うか聞いてみると...
まず、AIDのケースについて加藤さんは、血縁はまったく関係ないとのこと。これをあげたグループも「ご本人に聞かないとわからないね」と言いながらあげたそうです。逆に、経験の共有・記憶の共有があがったことをとても嬉しく感じたそうで、「正直私たち家族をつなぐものはこれしかないのだ」とおっしゃっていました。また、「もしも養子だったとしても生みの親を知りたいか?」という参加者からの質問に対しては、「やはり会ってみたいという気持ちに変わりはないだろう」とのことでした。
そして石塚さんも、血縁に関しては加藤さんと同意見とのこと。ただ、「AIDで子どもを設けた親からすると、おそらく母親だけでも血がつながっていることが家族の支えになっているのではないだろうか」とのことでした。また、石塚さん自身がSTEP1,2で家族とは誰かをあげていく中で精子提供者は(会ったこともないので)どこにも出てこず、「もしその人を知っていたらどういうカテゴリーになるのだろうかと考えた」とおっしゃったことが印象的でした。
また、LGBTのケースについて塚本さんからは、その人自身が満足して生きていけるかどうかではないかとのこと。「家族という言葉にとらわれず、制度がどうであろうと周囲からどう思われようと、その人が大切にしたい相手と一緒に生きていけるかが大事なのではないか」とおっしゃっていました。
相手の立場に立って気持ちを想像してみるとはいえ、ご本人の言葉でしか表せない気持ちがあり、それもその人によって違います。今回のトークイベント、特別ワークショップを通して、家族に関わる様々な課題に直面されている"ご本人"から率直に意見を聞ける場があるということは、「みらいのかぞく」を考え、多様な価値観を知る上でとても大切で意義のあることだと実感しました。
STEP4 未来の家族はどうなる?
最後は、これまでの議論を踏まえて未来の家族を考えます。
AIDは今後どう使うべきか、LGBTカップルが子どもを持つときに直面する課題と解決策は何かについて、各グループで自由に議論をしました。
まずは、AIDのテーマであがった課題とのその解決策を見てみましょう。
<課題>
〇もし遺伝性の疾患などが出た場合、誰の責任になるのか、子どもの権利は守られるのか
〇告知についての親の悩み、罪悪感
〇精子提供者を子が知ることをどこまで制度に組み込むか
〇精子提供者を子が知れる制度ができた場合に、精子提供者の覚悟や学びをどうするか
<解決策>
〇生まれた子を社会が受け入れ、安心して育てていける社会づくり
〇技術についてだけでなく気持ちの面をもっと学ぶための教育の場づくり
精子提供者を知る子どもの権利、また知らせることに対する親の葛藤が主な論点となったようです。どちらにも共通する背景は、こうした技術を使った家族を受け入れる社会体制が今はまだ十分でないことです。AIDだけではなく、今後生まれる新しい技術においても同様の課題を考えていく必要がありあそうです。
次に、LGBTのテーマであがった課題とその解決策です。
<課題>
〇保護者会などの様々な場面で、自分の家族や自分の存在が特殊だと思われてしまうこと。
〇子どもを持つときの選択肢がせまい(養子やシングルペアレントは難しいなど)
<解決策>
〇教育制度を変えていく(小さなときから家族の多様性を教える)
〇婚姻制度の見直し
〇生まれた子ども本人が自分の家族を受け入れられることが必要。そうでなければ周囲との関係をうまく構築できない。
こちらのテーマも、親と子ども両方の視点に立った課題があがりました。状況は違っても、AIDとLGBTのどちらも「受け入れられる社会」の必要性が根本にあるように思いました。標準的でないことへの疎外感や劣等感が生じないような社会、あるいはそうしたネガティブな感情を本人が乗り越えられるような周囲のサポート体制が、解決のカギとなりそうです。
しかし、数時間のイベントでは具体的な解決策までは到底たどりつきません。もしかすると、なんだかモヤっとした気持ちで帰られた方もいたかもしれません。でも私たちは、何か今までの自分にはない考えや思いを持ち帰ってもらえれば、キックオフイベントとしては成功だと思っています。みなさんのモヤモヤを今後の活動の中でぶつけていただけるよう、引き続き私たちプロジェクトメンバーも、モヤモヤしながら少しずつ進んでいきたいと思います。
さて、私たちも想定外の5回(長い!!)にわたってお届けしてきたキックオフイベントの様子。ファシリテーターを務めた私にとっては本当に濃い時間でした!
この日、真剣にご参加くださったみなさんのお気持ちやお言葉を胸に、5月29日(日)にトークイベントvol.1「あなたはどこまでやりますか?~ヒト受精卵へのゲノム編集を考える~」を開催しました。その様子もブログでお届けする予定です。
どうぞお楽しみに!
2月11日「みらいのかぞくを考える~キックオフイベント」の報告
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- 文化人類学から見る家族のかたち
- 科学技術と生命倫理
- 精子提供による新たな家族のかたち
- LGBTに見る多様な家族像
- 特別ワークショップ編(この記事)