ナノカーとは何なのかー? ~研究者に聞いてきました②~

こんにちは!梶井です!

ここ最近の私の記事は、ナノカーという分子の世界のものっすごく小さい車の話ばかりで、とうとう同僚からも"変態"と呼ばれてしまいました・・・

しかし、この話題も今回でひとまず最終回となります!

前回ブログはこちら → https://blog.miraikan.jst.go.jp/detail/20161202post-112.html

ナノカーレースに関するブログはこちら → https://blog.miraikan.jst.go.jp/detail/20161101post-111.html

前回から引き続き、ナノカーレースNIMS-MANAチームリーダーの中西和嘉(なかにし わか)先生からお伺いした内容となります。
(NIMS-MANA; 物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 https://www.nims.go.jp/mana/jp/index.html) (リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)

今回は、中西先生がどんな研究者なのか、どのようなことを考えているのかに迫ってみました!

-中西先生は、普段どんな気持ちで化学と向き合っているのでしょう? NIMS-MANAの広報誌に、「こんなに小さいものを飲むだけなのに、なんで薬って効くんだろう」というのが化学を始めたきっかけだったとありましたが。

中西先生:

あー、そんなの書いたかも!(笑)
初めは、薬という分子が体内で効果を示すことへの興味から薬学にいきました。薬剤師免許も持ってます(笑)
でも、分子のもっと基礎的なものを学びたいと思って、それで博士号を化学でとって。

例えば博士課程のときは、フラーレンを使った遺伝子導入剤というのをテーマにしていました。
フラーレンという、生物からすれば全然見たこともない、変な形の分子を使うことによって、今までになかったような機能を出すことを目指していました。
今でもそうなんですけど、ちょっと常識からとんで、ちょっと変なことをして、面白いことを探したりというか(笑)

CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=350254
↑ 数種類あるフラーレンでは、上図のような60個の炭素原子(図中の灰色の球)が五角形と六角形をつくり球状となった、昔のサッカーボールの形をしたものが有名です。生物からしたら「こんなのを私の中に入れるんですか!?」となりそうです。

今は、分子自体をある形にきっちり固定して機能を出すオーソドックスな化学から少し離れてみて、できた分子に力を加えて分子構造を制御するという、有機化学の研究としてはちょっと変わったことをやっています。

ナノカーでも、普通はある形にきっちりと決まる「固い分子」を使って分子を見るというのが、オーソドックスな方法でした。私はそうではなく、柔らかくてやりにくいけども、有機分子が本来持っている柔らかさを見たいのです。

今回のナノカーレースのために日本チームが用意した分子。
上の分子の青い部分(ビナフチル)が本来持つ柔らかさによって、どのように動くかを予想したもの。
(いずれも図版提供: 中西和嘉 先生)

-先生の原動力は「分子のことを知りたい!」というように感じました。

中西先生:

そうですね!分子のことを知りたい。分子のことを、知りたい・・・ですね!(笑)

-分子というナノメートルの世界の住人と向き合っている化学者らしい言葉ですね。知りたいと言うことですが、ナノカーレースのために用意した分子について、何か面白い発見はありましたか?

中西先生:

まず、分子を見るのは大変だなと身にしみて分かりました(笑)。
でも、今、柔らかい分子を用いたことに由来した性質が見え始めています。
予想していたことと、予想していなかった意外なことが起こっていて面白くなってきました。

-新しいことがわかってくると、楽しいですよね。どんな性質が見えたのか論文発表が楽しみです。
ナノカーレースへの参加は、やはり楽しいですか?

中西先生:

どうだろう(笑)
今は、予想と違った楽しい結果がでてきたのですけれど、分子が見えない苦しい時期が続きました。
STMの専門家の方々には、忙しい研究スケジュールの合間に協力していただいたのですが、本当に心苦しくて。

だって、もう、分子が見えないですからね!

分子を合成して、走査型トンネル顕微鏡(STM)の専門家に見てもらっても、分子が壊れてるとか、分子が軽すぎて見えないとか。
見えても、いろいろな形をとり得るので、本当に見えているのか良く分からなくて。

ちゃんと見えたと言えるようになったのが本当に最近なので、それまでは苦しい連続でした(笑)
でもそれに関して、解決策を考えてもらったり、実際に実験をやっているところを見せてもらったりして、全く未知であった分野の1コマを見たり知ることができて、やりがいがありました。
また、最近見えるようになったのは、これまでのデータの蓄積があったためです。

-分子の形がイラスト化されている現代では、分子は当たり前のように見えると思ったりしますが、本当は中西先生が苦しんだように、分子を見ることは、今でもとても大変なのですね。
ところで、中西先生の研究室のボスの有賀先生が「役に立つ"技術"と、夢を追う"科学"がある」と広報誌に書かれていました。今回のナノカーは、まだ夢を追う科学だと思いますが、先生はどんな夢を持っていますか?

中西先生:

そうですね。確かにナノカーはまだ夢を追う科学だと思います。
私の夢は、有機分子の合成後の制御、つまり、できあがった分子に力を加えて分子の形をコントロールすることです。
分子の形はその機能に直結するので、形=機能だと思っています。力で分子の形を意のままにして、機能そのものをコントロールするのが夢ですね。

-中西先生が現在気になっている科学は?

中西先生:

いろいろありますが、メカノバイオロジーというのが最近はやっています。
すごく弱いpN(ピコニュートン、ピコは1兆分の1)レベルの力が、がん細胞の浸潤とか、酵素の機能活性とか、細胞の分化とかのとても大事な部分にかかわっているということが最近分かってきて。
そういう、小さな力で生物機能を制御するという研究が活性化してきています。
私達の研究とその分野を関連づけられないかなと思っています。

-最後に、未来館には「科学がわかる、世界がかわる」というスローガンがあります。科学をやる、わかるということは先生にとってどのようなことでしょうか?読者へのメッセージも込めてお願いします。

中西先生:

まず、化学は自分の興味でやってるんですけど、それが他の分野の不思議を解明することに繋がったり、その先で何か役に立つ薬やセンサーが開発されたりする種になれば素晴らしいと思います。

学生に対しては、すべてのことが将来の糧になるので、ぜひ、スポンジのようにいろいろなことを吸収してほしい、ということでしょうか。
あとは、テーマを与えられてそれを黙々とやるだけではなく、「何が面白いか」「どういうことに自分が貢献できるか」といったテーマ探しもあわせてできれば良いと思います。

子どもたちには・・・何を言えばいいんだろう(笑)
子どもというのはいろいろな興味があって、いろいろなことを聞きますよね。疑問をもったり面白いことを発見したら、もう一歩進んで自分で調べて、もしくは人に聞くのも良いけど、何か自分で行動してそれを解決すると、もっと深まりますね。もっと面白いことがあるかもしれない。

-自分で調べた先にもっと面白いものがある。科学はそのためのツールということでしょうか?

中西先生:

そうですね。
「分かんない!終わり!」じゃなくて、分かんない面白いことを分かるためのツールですかね、科学は。ツールを身につけると、良いですね。世界が広がると思います。


「なんで薬は効くんだろう?」という疑問から科学が始まった先生らしいメッセージでした。

また、今回の取材で、僕の「なんで?」という質問に対して、中西先生はいつも笑いながら答えてくれました。
それらの「なんで?」を知って世界の広がった中西先生にだけ分かる楽しさが、ナノカーレースにはまだまだあるのかもしれません。

ナノカーレースでの日本チームのご活躍だけでなく、今回用意している分子の化学的な面白さの発見を楽しみにしています!!

最後は、取材中に突然やって来たナノカーレース主催者のクリスチャン・ヨアヒム博士と中西先生のすてきな笑顔のツーショットで締めようと思います。

お忙しい中ご貴重な時間を下さった中西先生に、この場を借りて厚く御礼を申し上げます。

なお、NHK Eテレで12月11日(日)放送予定のサイエンスZEROでノーベル物理学賞と化学賞をテーマにし、分子マシンやナノカーも登場するようです。中西先生へのインタビューもあるとか。番組の進行を勤める竹内薫さんが、分子マシンをどんな目で見ているか、楽しみです!

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