こんにちは!梶井です!
さて、前回の私のブログでは、目に見えないちっちゃい車、ナノカーの国際レースが来春にフランスで開催されるみたいだよ!という紹介をいたしました。
(ブログはこちら → https://blog.miraikan.jst.go.jp/detail/20161101post-111.html)
しかし、ナノカーレース公式サイトや、日本チーム特設サイトを眺めているだけでは、梶井のワクワクは収まらず・・・
なぜかというと、私は「その人がどんな思いをもって取り組んでいるのか」を知りたいからです。
ということで、日本チームのメンバーが所属する物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(NIMS-MANA; https://www.nims.go.jp/mana/jp/index.html ) (リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)へ行ってまいりました!!
今回取材した方はこちら!日本チームリーダー 中西 和嘉 (なかにし わか) 博士です!
中西先生のご経歴はこちら(英語です)。 → https://www.nims.go.jp/super/HP/Nakanishi/Nakanishi%20for%20home%20page.htm (リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)
忙しい中、2時間にもわたって、貴重なお話をたくさん聞かせて頂きました。(先生、本当にありがとうございます!)
ナノカーレースのお話もすごく興味深かったのですが、中西先生の人柄がとても魅力的でしたので、ナノカーレース編と中西先生編の2編に分けてお伝えします!
それでは前編、ナノカーレースという変なレースになぜ全力投球しているのか!その理由に迫りました!
-まず、ナノカーレース開催をどのように知られたのですか?主催者のクリスチャン・ヨアヒム博士は、学術論文で呼びかけたとおっしゃっていましたが?
中西先生:
そうですねそうですね!私もその論文を転送してもらって!
クリスチャンから私の研究室のボスの有賀(克彦)先生にお誘いがあったのだと思います。それで、有賀先生から声が掛かって。NIMSの走査型トンネル電子顕微鏡(STM)の専門家に協力を得ながら進めていきました。
-ナノカーレースがSTMの下で行われるので、STM専門家の協力を仰いだわけですね。
NIMSにも大会で使うレベルの高性能STMはあると広報誌で拝見しました。レースに参加するのは意義のあることとは思いますが、時間も労力もかかります。研究が目的であれば、なぜNIMSでちゃちゃっと実験をして終わりにせずに、わざわざナノカーレースに出るのですか?
中西先生:
ちゃちゃっとできないんです。実験を始めるところにバリアーがあって。
STMの専門家に、私たちの分子を見て下さいというのは、分からないものに対して時間や手間を投資してくれということで、とても難しい。機械と設備はあっても、きっかけがありませんでした。
今まで見たことのない、もしくは見るのが難しそうな柔らかい分子を見るきっかけがナノカーレースでした。単分子を見るのは大変な実験なので、ナノカーレースがなければ始めていなかったと思います。
NIMSには世界トップレベルのSTMの専門家がいます。
実際に、分子を見るための装置の条件設定では、NIMSのSTMの専門家たちにたくさんご尽力いただきました。
-私も学生時代に自分のラボにない装置を使うために多くの先生にお世話になったことを思い出します。研究者間のネットワークは重要ですよね。
ところで、他のチームは、分子の回転を中心にした分子設計かと思うのですが、なぜ中西先生のチームは回転を用いないのでしょうか?
車というと、こういう自動車型(上図左)を思いつくと思うのですが、実際には小さい分子なら動くので、別に車の形をしてなくても良いのかな?と初めから思っていました。
STMで分子の動きを見るならば、「わーい、見えた!楽しい!」だけじゃなくて、科学的にも分かりたいものが何か分かればいいなと考えています。
今までも、STMで分子観測はされていましたが、対象は固くて見やすい分子にとどまっていました。有機化学者がよく用いる、いろいろな形を取り得るたくさん配座のあるような分子はあまり観察されてこなかった。だから、今回の私たちの分子を観測すれば、何か分かるだろうと思ったのです。
私たちの大きなテーマの1つが分子の柔らかさです。有機化学で良く知られているそういう動きが単分子になったときに本当にでるのか興味があります。
-今回のナノカーは、どの方向にも自由に進めるようにデザインしたのですか?
中西先生:
「そうです」と言えればカッコいいんですけど、初めからそんなにちゃんとすべてのことをデザインしたわけではなくて・・・
「ビナフチル」という分子を用いた研究を前からやっていたので、ビナフチルを使ったいろいろな分子群が手元にあり、最小単位で測定に耐えうる構造を目指したらこうなりました。
例えば、先生の研究室では、ビナフチルを用いて「分子ペンチ」というものを作っています。実際に、下図右の赤矢印のように動かすことをできることが確認されています。
「ビナフチルを使う」、「ある程度の大きさをもたせる」、「とにかく作りやすい」という制約が初めにありました。 やっていくうちに、この構造だったら裏表をひっくり返しても同じ機能を出せるから、良かったなと。 後から考えて、「あー良かった」と思うことはたくさんあります。なかなか初めからいろいろなことを組み込んでデザインは難しかった。
-ひっくり返しても大丈夫と言うのは面白いですね。
何代目くらいですか?
中西先生:
・・・5代目以上です(笑)
-シミュレーション画像はどのように作ったのですか?
中西先生:
あはは(笑)これはねー、こういう2つビナフチルが付いたものがあればこう動くんじゃないかって、絵を動かしながらどんどん撮って、それをつなげたものです。
でも、最新の実験結果だと、動きはちょっと違いそう、というのが分かってきました。
STM画像はまだ論文発表していなから見せられないんですけど・・・
-NIMS-MANAとしてレース特設サイトの用意などで力を入れているのは、どのような期待を込めているのですか?
中西先生:
NIMS-MANAとしては、研究に専念すれば、やることはサポートしてくれます。
私なら、柔らかい分子の動きを見たいということがもともとの背景としてあり、レースに勝ちたいというよりは、レースに参加する中でそういうことが明らかになれば良いなと思っています。
そういうモチベーションに対してNIMS-MANAはサポートしてくれています。広報も凄いHPやビデオ作ってくれました。
-お話を聞くまで「ナノカーレースという変なレースに勝つことが何に繋がるんだろう?」と思っていました。ナノカーレースは分子をより深く理解するためのきっかけだったのですね。自分たちの分子を知りたい!という化学者らしい原動力があるからこそ、ナノカーレースに全力投球できるわけですね。
話は変わりますが、今回のノーベル化学賞が分子マシンだったことをどのようにお考えですか?
中西先生:
ビックリしました(笑) 今まで化学賞は、世間に役に立っているものに与えられる思っていたので。
しかも、ノーベル財団のコメントに「今はまだ使えるというわけではなく、ネジみたいな段階で、これから発展していくという期待を込めての受賞」とあって。
これでも良いなら、受賞できそうなネタが増えるというか、他にもたくさんありそうですね。
-先生が考える今回の受賞の意義とは?
中西先生:
期待を込められての受賞かもしれませんが、「今(このタイミングでの受賞)なんだ」と思いました。
そして、そこまで期待をされているなら、次はどこにいくのか、ということが気になります。
(分子マシンは)どんどん複雑な分子を作るようになり、動きも複雑になってきています。これは将来どういう分野に結びつくのだろうかという疑問があります。 溶液中でやたらめったら動いているだけでは機能には繋がらないはず。本当に機能させるには、全部の分子が協奏的に働いたりしないとマクロな機能には結びつかないように思える。 そこがどうなっていくのかな?ということは、研究として着目しています。 私の勝手な意見では、単分子とか分子そのものの動きなどが、もうちょっと研究されても良いはずだと思います。
中西先生のお話をお伺いする中で、だんだんナノカーレースの実態や日本チームの考え方がつかめてきました。
同時に、ナノカーレース本番までに何が起こるのかということが、ますます楽しみになりました。
次回のブログは、中西先生にとっての化学とは?ということが分かる内容です!ぜひご覧下さい!
→ Coming soon!