みなさん、こんにちは!惑星に愛を注ぐ科学コミュニケーターの渡邉です。
6月27日にはやぶさ2が小惑星リュウグウに到着したり、7月31日の大接近を控えて火星が明るく輝いていたり、最近は惑星関係のイベントが目白押しですね!惑星のことについてアツーく語りたいのですが、それはまた別の機会に。今日はその情熱を、惑星ではなく"冷たい天体"を見ることができる、ある望遠鏡に注ぎたいと思います。
その望遠鏡とは、こちら!
違う日時の画像ですが、遠くから眺めると...
たくさんのパラボラアンテナが並んでいて、なかなか壮観ですね!
たくさんあるこのパラボラアンテナを組み合わせることで、巨大な望遠鏡となります。その望遠鏡の名前は、「アルマ望遠鏡」。正式名称は「アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計」です。英語の正式名称(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array)の各単語の頭文字からとって、ALMAと名づけられました。
日本から見ると地球のおおよそ反対側、チリのアタカマ砂漠、標高5000mのところに建設されている「電波望遠鏡」です。アルマプロジェクトは、なんと日本を含む世界22の国と地域が協力して運用している、世界最大級の国際共同プロジェクトです。上の写真では一部のパラボラアンテナしか写っていませんが、口径12mのパラボラアンテナ54台と、口径7mのパラボラアンテナ12台、総数66台が最大で直径16kmの範囲内に置かれています。
そもそもどうして、こんなに多くのパラボラアンテナが必要なのでしょう?どうしてアタカマ砂漠に?何を見るために作られたの?そもそもミリ波・サブミリ波って何?いろいろ疑問は尽きませんが、本ブログで、そんな疑問を解消できるように、アルマ望遠鏡の概要をご紹介します。
アルマ望遠鏡が捕らえる見えない「電波」
偶然か否か、ALMAという単語は、チリの公用語となっているスペイン語で「魂」を表しています。まるで、アルマ望遠鏡の開発に携わった人たちやアルマ望遠鏡で研究を行う研究者の魂が込められているように感じます!その魂は一体何に注がれているのでしょうか?
研究者たちの魂は、次の宇宙の3つの謎を解明することに注がれています。
①「銀河」誕生の謎:宇宙が誕生した後、銀河がどのように誕生して今の姿になったのかを知る
②「惑星系」誕生の謎:惑星が誕生する現場を高解像度で捕らえる
③「生命」誕生の謎:地球外生命の可能性や生命の材料となる物質を探る
これらの謎に迫るために重要なことは、宇宙からやってくる「電波」を望遠鏡でとらえることです。夜空に輝くたくさんの星(恒星)は、表面温度が数千℃〜数万℃という高温のため、光(可視光線)を発します。すばる望遠鏡などの光学望遠鏡は、このような光(可視光線)を放つ天体、言い換えれば宇宙の中でも温度の高い「熱い」天体を観測してきました。
しかし、惑星の材料となる塵やガスのような天体は、温度がおよそマイナス260℃と低くて光を放たないため、光学望遠鏡では観測できません。しかし、温度の低い天体は代わりにミリ波、サブミリ波と呼ばれる「電波」を放ちます。アルマ望遠鏡はミリ波、サブミリ波を捕らえる「電波望遠鏡」のため、惑星の材料となる塵やガスのような低温の天体の観測も可能なのです。
「可視光線」「電波」「ミリ波」「サブミリ波」という言葉が出てきましたが、これらは波長によって分けられる電磁波の種類です。図で整理すると、下のようになります。
しかし、同じ口径の望遠鏡で比較すると、電波望遠鏡は光学望遠鏡と比べてとても視力が弱いと言われています。これは、電波の波長が可視光線よりもずっと長いためです。望遠鏡の視力は、波長が短いほど(上の図では左ほど)良いという性質があります。つまり、光学望遠鏡と同じような視力を持つには、口径を大きくする必要があります。しかし、そのためには口径数キロメートルもの巨大な望遠鏡を作る必要があります。でもそれは現実的ではありませんよね?
そこで、アルマ望遠鏡は、チリのアタカマ砂漠という広大な土地にたくさんのパラボラアンテナを並べ、複数のパラボラアンテナの受信データを組み合わせることで、仮想的に巨大な口径をもつ大きな望遠鏡をつくっているのです。そして、パラボラアンテナは配置を変えることができます。パラボラアンテナの間隔を調整することで、天体の解像度を調整することができます。その視力は、人間でいえば最大6000!これは東京から大阪にある一円玉を判別する視力に匹敵するそうです。
どうしてチリのアタカマ砂漠に?
広大な土地であることがアタカマ砂漠に建てられた理由の一つですが、他にも大きな理由があります。それは、
①標高が高いので大気が薄い
②乾燥していて雨がほとんど降らない
という条件をクリアしているという点です。
アルマ望遠鏡が捕らえる電波、とりわけその中では比較的波長の短いミリ波・サブミリ波は、大気中の水分や塵によって吸収されてしまうという特徴をもっています。つまり大気が薄ければ、そしてより乾燥していればいるほど、ミリ波・サブミリ波の観測には好条件です。
アルマ望遠鏡の強みは、低温の天体を、高解像度で捕らえることができるという点です。このような望遠鏡は、世界のどこを探しても存在しません!
アルマ望遠鏡の驚くべき発見
アルマの科学観測が始まったのは、2013年の3月。まだ5年と少ししか経っていませんが、すでに多くの成果が産み出されています。
その中で、惑星系形成に関する成果の一つがこちら!
木の年輪?レコード?バウムクーヘン?いいえ、これは「原始惑星系円盤」という、恒星や惑星ができる前の状態です。この円盤の中の塵やガスが集まって恒星や惑星が形成されます。そして、この円盤の中にある幾重ものリング状の空隙は、まさに惑星が形成されている証拠と考えられています。
アルマ望遠鏡ができる前の電波望遠鏡では、ここまで細かい構造を見ることができませんでした。太陽系形成を説明する理論によると、原始太陽系円盤の中にこのようなリング状の構造ができるはずだということは30年以上前の1980年代にはすでに予測されていました。しかし、この構造が実際に観測されて発表されたのが、2014年10月。ほんの数年前のことです。つまり、アルマ望遠鏡によって、今まで理論上の仮説にすぎなかったものが、実際にあったということを実証できたわけです!
どうですか?わくわくしませんか?
しかし、面白いポイントはこれだけではありません...!この発見によって、今までの惑星形成の理論では説明できないことが出てきてしまいました。しかし、研究者からみたら、そこが面白いところ。ALMAの観測によって、今まで当たり前だと思っていたことが当たり前ではなかったということを思い知らされる―このような世界観の変化を感じることのできる時代に生きていることは、幸せなことではないでしょうか?
...ということを私が語るより、実際にアルマ計画に携わった研究者・技術者や、実際に観測を行った研究者に語っていただくほうが、ずっと説得力がありますよね。
未来館で生の研究者のお話を聞いてみよう!
というわけで、来たる7月22日(日)に、日本科学未来館の常設展5階コ・スタジオにて、アルマプロジェクトを長年率いてきた、国立天文台チリ観測所長の長谷川哲夫(はせがわ・てつお)先生にご登壇いただきます。
トークセッション「驚異の視力で宇宙をみる~アルマ望遠鏡がひらく天文学の新時代
このブログで伝えきれなかったALMA望遠鏡の魅力や成果の数々、そして長谷川先生自身がプロジェクトを率いるにあたって感じたことなどをお話いただきます。アルマプロジェクトを先導してきた研究者の情熱、そしてアルマ望遠鏡によって開かれる新しい世界観を皆さまへお伝えします。私、渡邉がファシリテーターを務めます。ぜひともお越しください!
この日に未来館に遊びに行けないという方もご安心を。日本科学未来館では、先月の6月20日より、常設展5階フロンティアラボにて、アルマ望遠鏡に関する展示を行っております。アルマ望遠鏡の特徴や得られた最新成果のほか、日本が製作したアンテナ内の超伝導受信機(実物)も展示しております。
アルマ望遠鏡の魅力はまだ、ここだけでは語り切れないため、複数回に分けてお届けします。
次回は科学コミュニケーターのヘイチクから、アルマ望遠鏡に施された技術的な工夫を、皆さまへお伝えします。乞うご期待!
【参考文献】
・アルマ望遠鏡(国立天文台)
・アルマがわかるハンドブック(クリックするとダウンロードが始まります)
・アルマ望遠鏡、「視力2000」を達成!-- 史上最高解像度で惑星誕生の現場の撮影に成功
・視力6000!アルマ望遠鏡「ココに注目」3つのポイント(三菱電機)
・書籍『アルマ望遠鏡が見た宇宙』平松 正顕, 渡部 潤一 監修