宇宙のお仕事、大調査【特別編】

"光"通信で宇宙をつなぐお仕事

皆さんこんにちは、科学コミュニケーターの中島です。

早速ですが、みなさんに質問です。みなさんは、「宇宙のお仕事」と聞くと、どんなものをイメージしますか?

宇宙飛行士、宇宙のことを調べる研究者、人工衛星をつくるエンジニア……などを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし最近では、宇宙をきれいに保ったり、宇宙へ行くための空港をつくったり、宇宙の新しい楽しみ方を考えたりと、いろいろなお仕事が増えているんです。

そこで今回、宇宙のお仕事をする方々に突撃インタビュー! どんなお仕事なのか、私たちの暮らしとどう関係するのかなどを調査してきました。インタビューの様子は、YouTubeにてご覧いただけます!

 

▼インタビュー映像「宇宙のお仕事、大調査」

https://youtube.com/playlist?list=PLkb9PWPgGLjGNmNKm9CfPglP5N2170mFi

 

このブログでは、特別編として動画でご紹介しきれなかった「“光”通信で宇宙をつなぐお仕事」をお届けします! 株式会社ワープスペースで事業開発を担当する國井仁さんと、最高マーケティング責任者の髙橋亮太さんに、お話をうかがってきました。

髙橋亮太さん(左)と國井仁さん(右)(©ワープスペース)

ほとんどの時間が“圏外”。その問題に立ち向かう!

―まずは、どんなお仕事をされているのかを教えてください。

國井さん:私たちの会社は「光通信衛星」を打ち上げて、地球観測衛星がとらえた地表面や海面の温度、植物の分布状況などの観測データを宇宙空間で受け取り、地球側の地上局に伝送する衛星間光通信サービスの開発に取り組んでいます。地上では、たとえばNTTがデータ通信サービスをおこなっていますが、その宇宙版のようなイメージです。

地球観測衛星から送られてきたデータを地上局に送信するイメージ図(©ワープスペース)

―地球観測データは、直接地上局には送れないのでしょうか?

國井さん:もちろん可能ですが、そこには「通信時間が限られる」という課題があるんです。

人工衛星は目的に応じて、高度の異なる軌道をまわります。地球観測衛星だと、低軌道と呼ばれる高度400km1,000km付近を周回し、カメラやセンサーを使って地球の様子を観測します。その観測データをいつでも地上に送ることができたらいいのですが、約90分かけて地球を1周する中で地上と通信できるのは、実はそのうちの10分だけ。衛星から地上局が見える時間のみ通信ができるのですが、見えるのがたった10分だけなんです。つまり、残りの80分間は圏外になってしまうんです。

 

―宇宙からの新しいデータをすぐに使いたいと思っても、ほとんどの時間でアクセスができないという状況なんですね。

國井さん:この課題を解決しようとしているのが、私たちです。光通信衛星を、高度2,00020,000kmという中軌道に打ち上げ、低軌道にある地球観測衛星と通信を行います。受け取ったデータを、私たちの衛星が地上へと届けます。2026年までに3基の衛星を配備し、将来的にはさらに衛星基数を増やすことで、24時間地上との通信ができる通信環境を整えていく計画です。

3基の通信衛星で、24時間の地上との通信をめざす(©ワープスペース)

―宇宙における圏外からの脱却ですね!

國井さん:実はもう一つ、課題があるんです。従来のデータ通信に使用されているのは「電波」なのですが、国際電気通信連合や各国の管轄省庁にどの周波数帯を使うかの申請をしなければなりません。それぞれの人工衛星が同じ周波数帯の電波を使うと混線してしまうので、それを防ぐためには必要なことなのですが、衛星1基ごとに申請が必要で、審査に平均2年かかるといわれています。1つの企業が多数の衛星を打ち上げる時代の中で、その対応にそんなに時間をかけていられない、というのが正直なところであり、宇宙業界でも問題になっています。

 

―1つの会社が1回の申請で済むのではなく、1つの衛星につき1回の申請とは、それはとても面倒ですね……。

國井さん:この課題についても、私たちのサービスがお役に立てるんです! 地上と通信する私たちの衛星については申請が必要ですが、地上と直接通信を行わない各企業は申請が不要になります。

 

―通信衛星が中継機となることで、そもそもの申請がいらなくなるんですね。

國井さん:さらに私たちは新たな取り組みとして、衛星間の通信には電波ではなく「光」を使います。光通信によって、大容量かつ高速通信が可能になります。レーザーポインタを思い浮かべていただきたいのですが、レーザー光のような光は収束性が高く、広いエリアに広がる電波と比べると傍受されにくいという特長があります。セキュリティという観点でも、光は重要な通信手段として期待されているんです。

 

―光通信は地上でも一般的ですが、宇宙ではこれまで使われたことはなかったのでしょうか?

國井さん:宇宙空間での光通信は、2005年にJAXA(宇宙航空研究開発機構)とESA(欧州宇宙機関)によって実験が行われ、成功していますし、当時そのプロジェクトで活躍された研究者やエンジニアが、いま私たちの事業に携わってくれています。日本が培ってきた技術を継承し、商業レベルでの光通信サービス実現に向けて、タスキを受け取ったのだと感じています。

ところで衛星間は光で通信するとお話ししましたが、通信衛星と地上局との通信は、電波で行う予定です。

 

―そこは光ではなく、電波を使うんですか?

國井さん:宇宙と地上を光でつなぐ場合、大気による影響(減衰)が発生します。光の特性上、雲を通過する際に光が拡散してしまい、うまくデータが届かないことが考えられます。光通信ができるよう、晴天率の高い場所に設置された光地上局との間で通信実証を行う計画も進めていますが、まずは確実性の高い電波をメインに使用します。

地上局に向けてデータを送るイメージ図。光地上局は計6ヶ所を想定しているそう。(©ワープスペース)

なぜ、宇宙のお仕事を?

―通信衛星サービスという、重要でありながらもニッチな分野でもあるこのお仕事。ふだんは、どういった思いで仕事をされているのでしょうか?

國井さん:あくまで個人的な考えですが、今の便利な暮らしって、50年前、100年前に、より良い未来を願って行動してきた人たちによって築かれてきたと思うんですよね。それと同じことを、今度は私たちが未来に対して届ける必要があると思っています。今では当たり前のようにインターネットが使われていますが、それは試行錯誤を繰り返しながら技術開発に取り組み、社会実装を推進した人たちがいたからです。私たちも同じように、宇宙といういろんな可能性を秘めた場所を通して、50100年先を見据えてより良い未来につながると信じて仕事をしています。

髙橋さん:小さなことでも大きなことでも、仕事を通して身近な人に喜んでもらえることが一つでもあれば嬉しいなと思っています。以前勤めていたゲーム会社も、同じような思いで仕事をしていました。

 

―え、ゲーム業界から宇宙業界に転職?! どうしてまったく違った業界にチャレンジされたんでしょうか?

髙橋さん:会社訪問の中で、「この会社は、壮大な夢を描いているな」と感じたんです。その夢に向けて、社長やメンバーが具体的に戦略をもって懸命に取り組んでいる。「この人たち、本気なんだ」というのが伝わってきたんですよね。私も、宇宙というロマンあふれる壮大なプロジェクトに、本気で取り組める機会があるのであれば、短い人生の過ごし方として意義があるなと。それが、世のため人のためになっていくのであれば、これほど素敵なことはないなと転職を決めました。

 

―壮大というのは、スケールの大きさだけではなく、まだ手つかずの分野も含むという意味でしょうか?

髙橋さん:そうですね。現在、宇宙での主な通信手段は電波ですが、地上で一般的な光通信が今後宇宙でも使われたら、ものすごいスピードで宇宙の開拓が進むだろうと思ったんです。そんな開拓のはじめに自分が立ち、これからのことを想像したときに、可能性が無限大だと強く思ったんです。

 

―実際に宇宙のお仕事に就いて、どうでしたか?

髙橋さん:宇宙業界の人たちは、それぞれが大きなリスクを背負って挑戦しているということを互いに理解しているように思います。だからこそ、互いを尊重するという文化があって、それがいいなぁと思っています。

 

―國井さんは、どうして宇宙のお仕事に?

國井さん:大学を卒業する直前、ワープスペースのCEOから話を聞く機会があったんです。そのとき、「まさに、19世紀のゴールドラッシュの時代に鉄道をつくった人たちみたい! インフラの上流をつくるっておもしろそう!」と思い、その勢いで入社しました()

来館者からの質問!

20227月より、館内に設置されたアンケート端末「オピニオン・バンク」を用いて、“宇宙のお仕事”に関する調査を実施! 宇宙のお仕事に対するイメージや、関心のある宇宙のお仕事などを来館者の方に聞いてみました。その中で、“宇宙の通信をととのえるお仕事”をする方への質問も募集したところ、いろいろな疑問や質問が! その一部を、國井さんと髙橋さんにお答えいただきました。

 

―来館者より「別の惑星に人がいたら、通信をすることは可能ですか?」という質問が届いています。たとえば、地球―火星間で通信をするとしたら、何基の通信衛星があれば24時間連絡を取り合えるものなのでしょうか?

國井さん:恒常的につなぐのであれば、複数基必要になると思います。有人探査の場合、あるネットワークに不具合が生じて、通信が途切れてしまうと、火星にいる人たちは孤立してしまいます。そういう緊急事態への対応も想定すると、バックアップを含めた複数体制が必須なのではないでしょうか。

現在、火星までを見据えた衛星間光通信に関する具体的な議論は、おそらく活発に行われていないと思いますが、弊社の長期的なビジョンとしては、月以遠の惑星探査においても光通信サービスの提供を視野に入れています。

遠く離れた火星において、地球と連絡を取れる手段があるというのは、どれほど心の安心につながるだろうか。(© NASA/Pat Rawlings, SAIC)

髙橋さん:現在進められている月面探査プログラム「アルテミス計画」では、月面に無人探査機だけでなく、宇宙飛行士も降り立つことが予定されています。月面と通信する場合、これも衛星等が複数基必要だといわれています。月面のどの場所と通信するかにもよりますが、探査場所として注目されている月の南極(氷があるといわれているエリア)は、太陽の光が届かない場所で、探査にあたっては細心の注意が必要です。つまり安定した通信をもとに、地球から宇宙飛行士や探査機の状況をつぶさにチェックしていかないといけません。この安定した通信を成立させるためには、一基の通信衛星だけでは難しいと考えられています。月の周りをまわる複数の通信衛星を介して、データを地球へ伝送するのがひとつのオプションとして考えられています。

日本も参画しているアルテミス計画(©NASA)

―ちなみに今後、アルテミス計画の通信分野を、國井さんたちの会社が担うということはありうるのでしょうか?

國井さん:はい、可能性は十分にありますし、やりたいですね。最近では、JAXAとともに、月と地球を結ぶ光通信ネットワークについての検討業務を行いました。どういった構想であれば、より効率的な通信ができるか、というものです。実は日本でも具体的にそういった議論や検討が進んでいるんですよ。

地球と月の通信イメージ図(©ワープスペース)

―もう一つ、来館者からの質問です。「地上の私たちとは、どんな関係がありますか?」とのことですが、いかがでしょうか?

國井さん:私たちが地上に届けるのは、他社の地球観測データです。地球観測データはこれまでも、さまざまな分野や地域で活用されてきました。たとえば災害が起こったとき、どの地域でどの程度の被害があるかを観測データから知ることができます。それによって、より迅速な災害対応につなげることができます。地震のような自然災害だけでなく、農林水産業を中心とする一次産業や、都市開発計画などにも利用されており、衛星データ利用の裾野は今後さらに拡大していくと思います。

この先、人口減少が加速していくことが予想される中で、特に農業の省人化や、橋や道路といったインフラのモニタリングなどでは、衛星データがより大きな役割を担っていくのではないかと期待しています。また環境問題に対しても、企業活動によるメタンやCO2などの温室効果ガス排出量の監視や、海洋ごみの可視化など、さまざまな課題解決につながるので、私たちは、それを後押しする役割だと思っています。

そのためにも、宇宙から届く多くのデータを地上で使えるようにデータを加工したり、解析をしたりするような事業者との連携は必須です。課題解決に向けて、業界を宇宙と非宇宙と分けずにより多様な分野の方々と対話を重ねることも重要だと考えています。

 

高橋さん:これまでも、インターネットや携帯電話通信というのは、めざましいスピードで発展し、暮らしを便利にしてきました。もちろん、使い方によっては負の側面もありますが、ふだん私たちはその恩恵をそこまで意識することなく、生活しているのではないでしょうか。そんなふうに私たちのサービスも何十年後かに、「なんだか暮らしが便利になったなぁ」の裏側にいる役割を担うようになっていたいと思っています。


取材を終えて

國井さんは、新たなことに挑戦する際に「楽しむこと」を大切にしているといいます。今回の取材もそうですが、「宇宙のお仕事、大調査」でインタビューさせていただいた皆さんは、どの方も楽しみながら挑戦をしているという印象を受けました。

お仕事、プライベートに関わらず、私も短い人生の中で楽しむということを大切に過ごしていきたいと、強く思いました。

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