2018年ノーベル物理学賞を予想する②
見つけた!使った!カーボンナノチューブ

こんにちは!科学コミュニケーターの清水です。
いよいよ来週に迫ったノーベル賞の発表。科学コミュニケーターによる予想も今年はこれで最後です!物理学賞の予想、第2弾!

私の予想は、カーボンナノチューブの研究における数々の貢献です!


カーボンナノチューブの発見とその応用


そして、このテーマで私が予想する研究者の方は、こちらの4人です!

左から

① 飯島澄男 博士
1939年生まれ。名城大学所属。
写真提供:名城大学

② 遠藤守信 博士
1946年生まれ。信州大学所属。
写真提供:遠藤守信博士

③ フェードン・アヴォーリス(Phaedon Avouris)博士
1945年生まれ。米国IBM所属。
写真提供:フェードン・アヴォーリス(Phaedon Avouris)博士

④ シース・デッカー(Cees Dekker)博士
1959年生まれ。オランダ・デルフト大学所属。
写真提供:シース・デッカー(Cees Dekker)博士



・・・4人かよ!!

そんなツッコミが聞こえてきそうですね。
そうなんです。ノーベル賞の受賞者は通常は3人までです。
しかし・・・4人ともすばらしい!私には3人に絞ることができませんでした・・・。


ということで、今回は4人でお届けいたします!

それぞれの先生のお仕事をざっくりと紹介すると、飯島先生はカーボンナノチューブという大きな可能性をもつ素材を発見し、遠藤先生はその大量合成法を開発しました。そして、カーボンナノチューブで実際に電子部品を作ったのがアヴォーリス先生とデッカー先生です。

カーボンナノチューブとは?

4人の業績のすばらしさをお伝えするには、まず、カーボンナノチューブのすごさをお伝えしなくてはなりません。

・カーボン=炭素。木炭とか、鉛筆の芯とかの素材ですね。ダイヤモンドも炭素でできています。
・ナノ=10億分の1を表す言葉。長さで言うと、1nm(1ナノメートル)=10億分の1メートル。ちなみにギリシャ語では、「小人」という意味があります。小ささを表す言葉にはマイクロ(ミクロ)もありますが、ナノはマイクロのさらに1000分の1です。
・チューブ=管、筒。

ということで、カーボンナノチューブとは、「炭素でできたものすごく小さい管」のこと。そのまんまですね。

下の画像のように、炭素原子が六角形の環を作ったものが金網のようにずらっと並び、それを円筒状に丸めた構造をしています。単層だけでなく、入れ子式の多層のものもあります。

画像提供:東京理科大学 山本貴博研究室

では、カーボンナノチューブは何がすごいのか?見ていきましょう。

カーボンナノチューブの特徴は?

・軽くて強い
重さはアルミニウムの半分程度しかありません。それなのに、引っ張ったときの強度は鋼鉄の100倍、叩いたときの硬さはダイヤモンドの2倍とも言われています。また、非常に柔軟で破れにくく、折り曲げても元の形に戻る復元性も持っています。

・電気をよく通す
導線によく使われる銅に比べて、同じ太さの時に流せる電流の量は1000倍ほどあります。

・導体にも半導体にもなる
今回の話のメインの部分なので、後で詳しくご説明します!!

・熱をよく通す、熱に強い
銅に比べて約10倍、熱を伝えやすいです。また、空気中では750℃まで、真空中では2800℃まで耐えることができます。

・すごく細い
直径1nm以下のものもあります。髪の毛の太さは、nmの単位で表すとだいたい50,000~100,000nmくらいです。

半導体とは?

カーボンナノチューブの特徴として、「導体にも半導体にもなる」と書きました。
そもそも「半導体」とは何なのでしょうか?

物質は、電気を通すか否かで、大きく3種類に分けられます。
電気をよく通す「導体」、電気をほとんど通さない「絶縁体」、そして導体と絶縁体の中間の性質を持った「半導体」です。
中間の性質なので、物質の半分が導体、半分が絶縁体の役割を果たす・・・わけではないんですね。半導体とは、普段は絶縁体のようにほとんど電気を通さないけど、エネルギーを与えてあげることで電気を通しやすくなり、まるで導体のようになる、そんな物質です。この時のエネルギーは熱だったり光だったりします。また、不純物を加えることによっても電気を通しやすくすることができます。
電気を通すために必要なエネルギーの量は、対象とする半導体材料によって変わります。不純物を加える場合は、加える物質によって半導体の性質が変わります。

身近な半導体材料としては、シリコン(ケイ素)が挙げられます。私たちの身の周りにあるスマートフォンやパソコン、テレビなどの家電に組み込まれている電子機器には半導体が使われており、そのほとんどがシリコンです。

カーボンナノチューブは、導体にも半導体にもなる!

さて、カーボンナノチューブに戻りましょう。
カーボンナノチューブはその構造によって、以下の3種類に分けられます。

画像提供:東京理科大学 山本貴博研究室

まずは一番左の、アームチェア型。これは導体の性質を示します。
次に、真ん中のジグザグ型。これが実は、チューブの直径によって導体にもなるし、半導体にもなるのです!さまざまな大きさのジグザグ型チューブのうち、1/3が導体、2/3が半導体として存在するそうです。
そして一番右の、カイラル(らせん)型。これもチューブの直径により、さらには、らせんのねじれ方によって、導体にもなるし半導体にもなるんです!

先ほど紹介したシリコンは、紛れもなく半導体です。銅は導体で、ゴムは絶縁体です。しかし、カーボンナノチューブはその構造がちょっと変わるだけで、まるで別の物質であるかのように導体にも半導体にもなってしまうのです!これは他の物質には見られない特徴です。
先ほども書いたとおり、半導体は電気を通すためにエネルギーが必要です。カーボンナノチューブ半導体では、その直径やねじれ方によって電気を通すのに必要なエネルギー量も変わってきます。これも他の半導体には見られない、カーボンナノチューブならではの現象です。

カーボンナノチューブは何に使われるのか?

そんな変わった特徴をもつカーボンナノチューブ、さまざまな分野での応用が期待されています。

例えば、電気・電子回路。さきほどお伝えしたように、私たちの身の周りにある電子機器には、シリコンが使われています。また、中の配線などは銅です。
シリコンと銅でできた電子部品は、微小化が進みました。携帯電話が小さくなったのは、中に入っている部品が微小化されたおかげです。しかし、現在その微小化は限界を迎えようとしています。シリコンはこれ以上小さくすると半導体を使った電子部品として機能しなくなり、銅の配線であれば、これ以上細くすると電流を流した時に配線の中で銅原子が移動するエレクトロマイグレーションという現象により断線などの不具合が起きてしまいます。
そこで登場するのが、カーボンナノチューブです。導体にも半導体にもなれるカーボンナノチューブは、電子部品にもなれるし、配線にもなります。さらに、シリコンや銅の限界を超えて、微小化が可能です。また、熱をよく伝える(熱伝導率が高い)という性質もあるので、小型化・高性能化した電気機器で悩みのタネになっている熱がこもってしまうという問題も解消できます。

他にもカーボンナノチューブは軽くて丈夫であることからスポーツ用品や飛行機に使用されたり、私たちの体の設計図が書かれているDNAと同程度の大きさであることから、医療や生命科学の分野でも応用が期待されています。ですが、カーボンナノチューブの性質を最大限に活かした応用例は、やはりエレクトロニクスの分野でしょう。

カーボンナノチューブの発見

こうしたすばらしい素材であるカーボンナノチューブを発見したのが飯島先生です。1991年当時、ナノサイズ物質の研究者の中では、フラーレンが話題でした。フラーレンとは、カーボンナノチューブと同じように炭素原子がつながってできた物質で、サッカーボールのように五角形と六角形が組み合わさった球状の形をしています。

Wikipediaより引用

ガラス容器の中に炭素でできた2本の電極棒を入れ、その間で放電を起こすと、容器の内側に煤(すす)が付着します。研究者の方々は、この煤の中に存在するフラーレンを調べていました。飯島先生もこのフラーレンの研究をしていたのですが、注目ポイントが他の研究者の方々と異なっていたそうです。容器の内側に付着した煤ではなく、電極棒を調べていました。するとそこにも煤が付着していて、その中から繊維状に伸びる物質を発見。それがカーボンナノチューブだったのです。

次に、遠藤先生です。遠藤先生は、1980年代に、カーボンナノチューブの大量合成法を開発しました。
あれ・・・?発見する前に、大量合成法を開発?

実は、飯島先生がカーボンナノチューブを発見・発表する前に、遠藤先生はその存在を知っていたのです。さらに時代をさかのぼり、1970年代には中空の炭素繊維を実験中に作成していました。
では、なぜ飯島先生が発見したと言われているかというと、カーボンナノチューブの構造、つまり炭素原子が六角形の環に並んでいることを解明し、発表したのが飯島先生なのです。また、「カーボンナノチューブ」という名前を付けたのも飯島先生です。

遠藤先生は、カーボンナノチューブよりも1000倍ほど太い炭素繊維の研究をしている中で、カーボンナノチューブの作成に成功しました。初めは炭素繊維よりも高価になってしまったものの、改良を加えることで、炭素繊維の1/10の価格に抑えることにも成功したのです。また、作成には触媒として鉄の微粒子が必要でもあることを見出し、どのようにカーボンナノチューブが生成されるか、その成長モデルも示しました。
その後さまざまな合成法が発表されているものの、遠藤先生が開発した方法が安価で大量に作成することに適していて、今でも大量合成法のベースとして広く活用されています。

資料提供:遠藤守信博士

トランジスタを作りました!

半導体を用いた重要な電子部品の一つに、トランジスタというものがあります。これは1947年に最初に開発され、以来、半導体産業、電気電子産業を支えてきました。材料にはシリコンが使われています。
カーボンナノチューブは電気電子回路での応用が期待されていることをお話ししましたが、その実現には、現在のシリコンでの回路と同じ機能を持つ回路を、カーボンナノチューブで作成しなければなりません。これは単なる材料の置き換えでは実現できません。シリコン材料でのノウハウが使えないため、一から研究・開発をしていく必要があります。

そのような状況の中、カーボンナノチューブを用いたトランジスタを開発し、世の中に大きな影響を与えたのが、アヴォーリス先生とデッカー先生です!

1998年、お二人の先生はそれぞれ、カーボンナノチューブを用いたトランジスタを相次いで開発しました。最初に作製したトランジスタの性能は、当時のシリコン製トランジスタとは比べものにならないほど低かったそうです。それでも世界中の研究者に衝撃を与え、その後のカーボンナノチューブの研究、特に電気電子分野での発展のきっかけになりました。
また、アヴォーリス先生は2002年に、当時のシリコン製を上回る性能のカーボンナノチューブ製トランジスタを開発しました。

一方、デッカー先生は、別の種類のトランジスタの開発もしています。1つの電子で動作する「単一電子トランジスタ」というものがありますが、これをカーボンナノチューブで作製したのです。ほかにも実現した研究者はいたものの、どれも周りの温度が低いときにしか動作させることができませんでした。デッカー先生の単一電子トランジスタは室温で動作可能で、世界中の研究者を驚かせました。



いかがでしたか?

カーボンナノチューブは今も盛んに研究されていて、今後もどんどん私たちの生活の中に入ってくることでしょう。その中で、カーボンナノチューブを発見し、量産方法の基礎を築き、電気機器への応用に大きく貢献した、4人の先生方。清水は、今年のノーベル賞はこの先生方に授与されると踏んでいます!!
(注:ノーベル賞が授与されるのは、例年、各賞3人までです)

【取材協力】

東京理科大学 工学部 山本貴博 研究室
https://www.rs.tus.ac.jp/takahiro/

東京理科大学 理学部 本間芳和 研究室
https://www.rs.kagu.tus.ac.jp/homlab/index.html

2018年ノーベル賞を予想する!

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その② カーボンナノチューブの発見から実用まで(この記事)

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