こんにちは。科学コミュニケーターの綾塚達郎です。
皆さん突然ですが、植物の生育に良い土って、いったいどんな土でしょうか?
身の回りにある土をよくよく見てみると、植物がたくさん生えている土もあれば、まったく生えていない土もありますよね。
一方で、園芸店に行けば値段がついているような土もあります。
これらの土には一体どのような違いがあるのでしょうか?
植物を育てるために使う土は、そのへんにある土ではだめなのでしょうか?
この疑問を少しでも解消すべく、ちょっとした比較実験を行ってみました。
【実験内容】
今回使用した土は下記のとおりです。
①植え込みがある場所の土
②植物がほとんど生えていない場所の土
③市販の土
(①、②は未来館敷地内の土を使用しました。)
これら3つの土について、今回は水分含有率とEC、pHを測定しました。
ECとはElectrical Conductivityの略となります。農業の現場でもよく用いられる測定値です。農地においては一般的に、ECの値が高ければ高いほど「硝酸態窒素」とよばれる栄養量が多くなる傾向にあります。硝酸態窒素は、三大肥料成分と言われる、N(チッソ)、P(リン)、K(カリウム)のうち、N(チッソ)にあたり、植物が利用できる状態での窒素のことだとお考えください。
それでは以下、実験の様子を写真でご覧ください。
実験ノートとECメーター。ECメーターはネットで1000円ちょっとで買いました。
①未来館敷地内の植え込みがある場所。枯れ葉がいっぱい落ちていました。
②未来館敷地内の植物がほとんど生えていない場所。写真中央のあたりです。
②の地面は、土がカタい!掘るの大変!力を込めても全然入っていきません。
集めた土を容器に薄く広げて乾燥させます。左から、①植え込みがある場所の土、②植物がほとんど生えていない場所の土、③市販の土。
ECメーターでの測定のために、それぞれの風乾土10gを純水50mlに溶かした様子。ECメーターを上澄みに指し、溶け出した窒素量を測ります。左から、純水、①、②、③。一番右の市販の土が水を吸いすぎて上澄み液が出ない...。なんという保水力。このままではECメーターを差し込めない。
実験方法が偏ってしまうので本当は良くないのですが、苦肉の策として③市販の土についてはカス揚げ網で軽く濾しました。
写真のように、水にECメーターを付けてECを測定します。
各土サンプルはよく混ぜたのちしばらく静置して、上澄み液のECを測定しました。
さらに試験紙を入れて、pHを測定します。左から純水、それぞれ①、②、③の土です。土のpHが弱酸性になるのはわかるのですが...、純水もpH6? やや酸性気味です。んー、純水に二酸化炭素が溶け込んでしまったか、pH試験紙の誤差が大きいのか...。
【実験結果】
実験結果は次の通りになりました。
①植え込みがある場所の土
水分含有率:21.8%、EC:0.056mS/cm(※1)、pH:6
②植物がほとんど生えていない場所の土
水分含有率:17.8%、EC:0.092 mS/cm、pH:6
③市販の土
水分含有率:51.1%、EC:2.414 mS/cm、pH:6
※1 mS/cm
読み方は、「ミリジーメンス パー センチメートル」です。ECの単位です。
【考察-はじめに-】
まず始めに、今回の実験では「植物の生育に良い土とはどんな土?」という疑問に完璧に答えることはできない、ということを書いておきます。
実験サンプルの選定、統計設計を厳密に行っていないためです。今回の実験は手軽さを重視しました。
また、植物は植物でも、色んな環境に適した植物がいるので、「植物の生育に良い」と言い切るのは難しいです。
(だからこそ、いろんな植物がいて面白いなぁ!と思うのですが。)
【考察-EC-】
まず、今回の結果で注目したいのは何といってもECです。
さすが市販の土、未来館の土を圧倒的に引き離しました。
参考として、JA全農・肥料農薬部「土壌診断なるほど!ガイド」(https://www.zennoh.or.jp/activity/hiryo_sehi/pdf/gijyutu_1-01b.pdf)によると、果菜類植え付け時の適切なECの値は、腐植質黒ボク土(※2)で0.3~0.8mS/cmとあります。むしろ、市販の土はECの値が大きすぎるほどです(計測方法を要工夫の可能性もあり)。逆に、未来館敷地内の植え込みがある場所の土、植物がほとんど生えていない場所の土のECの値が小さすぎる、とも言えます。
※2 腐植質黒ボク土
主に火山灰土と腐植により構成されている土。日本の国土の約3割はこの種類の土に覆われている。腐植とは、落ち葉や枯れ枝、動物のフンや死骸など動植物に由来するものが分解の途中にある有機物のことです。
【考察-水分含有率-】
水分含有率についても、ぱっと見た感じ、市販の土が高いですね。市販の土は袋の中に入っていた土を使ったので、もちろん①、②の土と直接比較することはできません。ですが、ECを測定する際に市販の土は水をたくさん吸って膨らみました。かなり水持ちが良いのはきっと間違いないのではないかと思われます。
【考察-pH-】
pHについては、この実験の後、念のためpH試験紙に石鹸水を浸してみたところpH9~10の色合いを示したので、試験紙が悪い、とは言いきれなさそうです。今回のpHの結果はわからないところが多いので、何かしらの考察を導くことはやめておきます。
【考察-土の固さ-】
追加ですが、特に②植物がほとんど生えていない場所の土は掘る際とても固く、サラサラしていて粒子が細かい印象がありました。空気が入る隙間もなくぎゅっとしている、という印象です。こちらはデータにはしていませんが大きなポイントになると思います。顕微鏡で見るとどんな感じなんだろう...。
土の固さは植物の根の張り方に影響すると考えられますので、あそこまで固いと根を下ろすのは容易ではないだろう、と思いました。
【考察-土の色-】
風乾後の土の様子の写真を再掲します。
②植物がほとんど生えていない場所の土は他の二つの土と比べて色が明るいですね。一般的に、腐植が多いと土の色が黒ずむと言われています。なるほど、確かに生えている植物量と色は関係していそうなことがわかります。
【まとめ】
今回実験してみたところ、未来館敷地内の土は比較的栄養分(ここでは硝酸態窒素)が少なく、さらに植物がほとんど生えていない場所の土はかなり固い、ということが印象的でした。もちろん全てがわかったわけではないですが、実際に手を動かしてみると、土の固さや水分を維持する力がかなり違ってくるんだな、ということが体感的にわかります。
「植物の生育に良い土ってどんな土だろう?」という問い、なかなか手ごわいですが、これからも手が空いた時には実験をやっていきたいと思います!
皆さんの身の回りの土はどんな土ですか?
ぜひ、実際に手を動かして土の性質を探ってみてくださいね。
【参考:実験手順補足】
①未来館敷地内の、植え込みがある場所、植物がほとんど生えていない場所からそれぞれ3点ずつ、おおよそ5cm×5cm、深さ5cmの土を掘り取った。3点をそれぞれ混合し、2つのサンプルとした。(採取日:2019年1月2日、天気:晴れ)
②掘り取った土2サンプルと市販の土1サンプルをそれぞれ容器に広げ、風通しの良い場所で1日以上風乾した。土の採取時の重量と風乾重から、含水量を計算した。
③風乾した土をもみほぐし、10gを量り取って50mlの純水に溶かした。
④土の溶液をよく混ぜ、一定時間静置したのち、上澄み液を使ってECとpHを計測した。