東北の海を復興せよ!~海博士たちと語る一日

その4 「海の砂漠化?~ウニの良いトコ、悪いトコ」

こんにちは!科学コミュニケーターの田中です。先日からお届けしている海の幸のお話。今回は第4弾です!「海の砂漠化?~ウニの良いトコ、悪いトコ」というタイトルで、東北大学 名誉教授 木島明博先生にお話しいただきました。

※本ブログは2018年11月10日に開催された「東北の海を復興せよ!~海博士たちと語る一日」の実施報告で4回シリーズです。東北マリンサイエンス拠点形成事業(TEAMS)*の4人の"海博士"たちに話していただいたトーク内容をご紹介しています。
その1 東北の海のおいしいヒミツ~豊かな海の源と津波のはなし
https://blog.miraikan.jst.go.jp/201901041-4.html
その2 あれからガレキはどうなった?~ガレキとともに生きる深海生物
https://blog.miraikan.jst.go.jp/event/20190107post-835.html
その3 知ってる?海のパイナップル~海の恵みをいつまでも
https://blog.miraikan.jst.go.jp/event/20190123post-836.html
その4 海の砂漠化?~ウニの良いトコ、悪いトコ(この記事)

トーク中の木島明博先生(東北大学 名誉教授)

ウニの良いトコ、悪いトコ?

みなさん、ウニはお好きですか?ウニ好きな人にとって、「おいしい」ことはウニの良いトコですよね。ではウニに悪いトコはあるでしょうか?木島先生には「海の砂漠化?~ウニの良いトコ、悪いトコ」ということで、イベント当日にタッチプールでお客さんにも触ってもらったキタムラサキウニのことをお話しいただきました。木島先生と一緒に、海に潜ったつもりでウニを見てみましょう。

海藻をたくさん食べたウニはおいしい!

高級食材として有名なウニ。まず、どんなところで、どのように育つのかというところから、木島先生に教えていただきました。ウニがすんでいるのは、次の写真のような岩場の海。この岩場を海の中から見てみると、岩に張り付くようにたくさんの海藻が生い茂っています。ウニはこの海藻が大好物。海藻が豊富な場所でたくさんの海藻を食べて育ったウニは、とてもおいしいウニになるそうです。

空から見た岩場の海
(写真提供:東北大学 吾妻行雄教授)
岩場には海藻が生い茂る
(写真提供:東北大学 吾妻行雄教授)

東北の海は、海藻が良く育つ場所。そしておいしいウニが獲れる場所として有名です。

震災後に起きた、ウニの大量発生と、海の砂漠化

そんな東北の海を、2011年3月11日に地震・津波が襲いました。3.11の津波でウニやウニのすみかにも影響があったそうです。もともとはたくさんの海藻が生い茂る岩場で、その海藻を食べながら暮らしていたウニたち。震災後にはこの海藻がなくなってしまいました。そして海藻のない岩場に、大量のウニ──木島先生、いったい何があったのでしょうか?

海藻のない岩場に大量のウニ
(写真提供:東北大学 吾妻行雄教授)

3.11の津波によって、岩場に生えていた海藻は一部を残して流されてしまいました。そこにすんでいたウニも一緒に流されましたが、流されても生き残ったウニは子どもを残すため、たくさんの卵や精子を海に放出しました。そして海の中で受精した卵から、たくさんの赤ちゃんがうまれました。赤ちゃんは海藻ではなく、プランクトンを食べます。大型の海藻がなくてもエサに困らなかった赤ちゃんの多くは、大きくなるまで成長することができました。ウニたちが大きくなると、エサを求めて大型の海藻が生えている岩場に大移動。そこには、津波で流されずに育った海藻と震災後に成長していた若い海藻がたくさんありました。お腹を空かせたウニたちは、この海藻を食べ始めます。そして気づくとウニたちは海藻を食べ尽くしてしまいました。空腹の大量のウニたちは、凄まじい食欲だったのです。

元々は、海藻の生い茂るところにウニがすんでいた
3.11の津波で、海藻やウニが流された
生き残ったウニからうまれたたくさんの赤ちゃんが大きくなると、食べ物を求めて海藻が生える場所に大移動。その後、大量のウニが海藻を食べ尽くした。
(画像提供:東北大学 吾妻行雄教授)

ウニの意外な一面に、木島先生のトークを聞いていたお客さんも驚いたようです。このようにもともとあった海藻がなくなってしまう、いわば海の砂漠化。これを「磯焼け」といいます。磯焼けが起きると、ほかの生き物にも影響が出てきます。海藻が生い茂る場所は「海のゆりかご」と呼ばれ、魚の赤ちゃんやエビなど、いろいろな生き物がすむ場所。海藻は、これらの生き物を敵から守ってくれる存在です。そんな海藻がなくなってしまったら、魚の赤ちゃんは自分の身を守れず、大きくなることができません。磯焼けは、いろいろな生物が生きる海の生態系のバランスを崩してしまいます。

磯焼けを起こすウニの食欲は、どのくらい?

磯焼けを起こすほど凄まじいウニの食欲は、ウニの悪いトコといえそうですね。先生方はこのウニの食欲がどれほどのものかを調べることにしました。行ったのは、磯焼けした場所にいるウニにアラメという海藻を与えて観察する実験です。

磯焼けの起きた場所の一角をテープで囲み、そこにアラメという海藻を置きました。すると10分後、ウニたちがアラメの根元に集まってきました。ウニの数は時間を追うごとに増えていきます。80分後にはアラメの茎を上り出し、24時間後には枝や葉は食べ尽くされてなくなりました。そして残っていた硬い茎の部分も、48時間後には跡形もなくなっていました。これだけの速さで食い尽くしていくとは、今回の研究で初めて明らかになったそうです(海藻には、陸上植物のような根、茎、枝、葉の分業体制はありませんが、見た目にしたがって、この表現を使いました)。

(写真提供:東北大学 吾妻行雄教授)

しかし実際に岩場に生えているアラメは、無抵抗のまま食べられているわけではありません。ウニに食べられまいと、ウニが嫌がるにおいを出してウニを寄せ付けないように戦っています。ですが、震災後に大量発生したお腹を空かせたウニの食欲にはかなわなかった、と木島先生。たしかにお腹が空いていて他に食べるものがなかったら、嫌いなものでも食べざるを得ないですよね。さらに、ウニにかじられたアラメは傷づいて弱ってしまい、ウニに抵抗する力もなくなっていき、やがてウニに食べ尽くされてしまったと考えられます。

アラメの茎に食いつくウニ
(写真提供:東北大学 吾妻行雄教授)

空腹が満たせないウニは、おいしくない

そんな磯焼けを引き起こすウニですが、磯焼けが起きるとウニ自身にも影響が出てきます。磯焼けを起こしてしまったら、自分たちの食べるものもなくなってしまうのです。するとウニの身(正確には生殖巣、つまり精巣や卵巣)はスカスカになります。海藻をたっぷり食べて育ったウニの身はとてもおいしいですが、何も食べるものがなくなり痩せたウニの身は、苦くてまずいそうです。こんなウニはとても食べられない、と木島先生はおっしゃっていました。

しかし、そんな飢餓状態になっても、ウニは簡単には死んだりしません。しぶとく生き続けます。なんと、1年間食べ物がまったくなくても死なないそうです。ですから、磯焼けした場所でもウニは生き続けます。すると、その場所で少し海藻が生えてきたとしてもウニがすぐに食べてしまい、磯焼けもずっと続きます。海藻がないままだと、魚の赤ちゃんやエビなどの生き物も育つことができません。海のゆりかごがないためにこのまま魚が育たなければ、漁業にも影響する恐れがあります。

磯焼けを元に戻すためには、海藻を食べ尽くしてしまうウニを取り除かなければなりません。でも、まずいウニは売り物になりません。では捨てるしかないか......といっても、捨てるのにもお金がかかります。売れないだけでなく、捨てるためにお金が必要になるのでは大変です。いったいどうしたらよいのでしょうか......

まずいウニも、育てればおいしくなる!

そこで先生方は、試しに除去したウニを育ててみることにしました。東北の海は海藻がたくさん獲れます。そして海藻は人が食べるために工場で加工されますが、商品にはなりにくい部分もあります。これを痩せたウニに食べさせればいいじゃないか!と考えたのです。ウニをかごに入れて、昆布の商品になりにくい部分をエサとして与えました。

そして2か月後、ウニはどうなったのでしょうか?中身を開けてみてみると、スカスカになっていたはずのウニの身がたっぷり増え、良い色になりました。そして味もおいしくなっていました。これなら売り物になりそうです。先生も食べてみて、実際においしかったとおっしゃっていました。

(写真提供:東北大学 吾妻行雄教授)

実はそれまでは、一度痩せてしまったウニは、もうおいしくならないと言われていたそうです。ですが、実際に育ててみたら、しっかりとおいしいウニになったのです。これなら、磯焼けを起こしてしまう邪魔者のウニをお金を払って捨てる必要がなくなり、売り物にしにくい海藻を使って商品に変えることができます。この結果を受けて、ウニを育てて商品として出荷する試験的な取り組みを、南三陸町志津川の漁業協同組合青年部が始めていると、先生はご紹介くださいました。東北の他の場所でも、ウニが磯焼けを引き起こしている場所で同じ取り組みが進んでいけば、磯焼けが漁業に与える影響を上手に解決できそうです。近い将来、みなさんの食卓にもこんなウニが並ぶかもしれないと、木島先生は展望を語ります。

回復し始めた海のゆりかご

また磯焼けが起きていた場所も、ウニを除去したことで回復し始めています。まだ元の状態に戻るには時間がかかりそうですが、小さな海藻が育ってきています。この先も、海藻がたくさん生い茂り、海藻とともに暮らす生き物たちが回復するよう、木島先生たち"海博士"は調査を続けていきます。

ウニを除去した岩場は、海藻が回復し始めた
(写真提供:東北大学 吾妻行雄教授)

最後に木島先生は、ぜひみなさんに「こんなことも調べてほしい」といった意見をいただきたい、とおっしゃっていました。先生方の研究は、"海博士"たちだけのものではなく、海に生きる漁師さんや海の幸を食べる私たちのためのものです。いままでよりも海の研究を一歩身近に感じて、何か意見をもってもらえたら、ぜひ"海博士"たちにぶつけてみてください。

この4回シリーズのブログで、いろいろな角度から東北の海についてご紹介しました。お楽しみいただけたでしょうか?震災というと、陸地への影響に目が行きがちだと思いますが、海への影響にも興味をもっていただけましたか?海に囲まれた日本に住む私たち。ぜひこのブログをきっかけに、海のこと、海の幸のことを見つめ直してみてはいかがでしょうか。

*東北マリンサイエンス拠点形成事業(TEAMS)
東北大学、東京大学大気海洋研究所、海洋研究開発機構が中心となって実施している事業。震災直後の2011年度からスタートし2020年度まで続く10年間のプロジェクト。

【関連サイト】
東北マリンサイエンス拠点形成事業(TEAMS)ホームページ
http://www.i-teams.jp/j/index.html(リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)

【謝辞】
本記事を執筆するにあたり、東北大学の木島明博先生には大変お世話になりました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。

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