理想のイネを作るための地図づくり

みどりの学術賞の研究紹介

皆さん、こんにちは。

みどりの科学コミュニケーターの綾塚です。
関東は梅雨入りしましたね。本格的な夏もすぐそこに近づいてきています。

さて、本格的な夏が来て夏バテ...なんてならないよう、今のうちにしっかりとごはんを食べる習慣をつけましょう!
そして、ごはんといえばお米ですよね!

スーパーに行けば様々な品種のお米が当たり前のように手に入ります。
しかし、このたくさんの種類のお米は数々の研究や多くの人の努力によって支えられていたのです!
このブログでは、そのうちの一つ、今年のみどりの学術賞を受賞された矢野昌裕先生のご研究内容について紹介します!

●品種改良に役立つ地図づくり

ある2種類のイネがあったとしましょう。

一つは、「美味しい」けど「病気に弱い」イネ。
もう一つは、「美味しくない」けど「病気に強い」イネ。

この2つを掛け合わせて、「美味しくて病気に強い」特徴をもったイネができたら理想的ですよね!

ただ、実際はこの掛け合わせがうまくいかないことが多くあります。
例えば、美味しい特徴と病気に弱い特徴が、なぜか高確率で一緒に引き継がれてしまう、といった具合です。個々の特徴がバラバラに引き継がれるのではなく、まるで仲の良いペアのように組み合わせとなっているものが中にはあるのです。もしこうしたペアになりやすい特徴を扱うとなると、なかなか理想の特徴を兼ね備えたイネを作ることができず、品種改良のハードルがグッと高くなってしまいます。

なぜ、高確率で一緒に引き継がれてしまうのでしょう?
美味しい、病気に強いなどといった個々の特徴には、それぞれ、それにかかわる遺伝子があります。この遺伝子がお隣どうしにあったりすると、子孫に一緒に引き継がれる確率が高くなってしまうのです。このとき、一緒に引き継がれることを「連鎖」と言います。逆に言うと、離れた場所にあれば、別々に次の世代に伝わっていく可能性が高くなります。

では、こうした味や病気への強さなど、さまざまなイネの特徴について、どれとどれが一緒になりやすい特徴なのかを特定するための、特徴の地図のようなものがあったら便利ではないでしょうか?地図があれば、近いもの、遠いものが一目でわかります。
そして、この地図の名称を「連鎖地図」と呼びます。

まさにこの地図づくりに携わられた研究者が、2019年度みどりの学術賞受賞者の矢野昌裕先生です。

矢野昌裕先生(農業・食品産業技術総合研究機構)

●なぜ地図が必要?~特徴にたどり着くためのたくさんの目印~

私たちがふだん、地図を使ってある目的地に行かなければならないとき、その目的地がマイナーすぎるなどの理由で正確に表示されないことがありますよね。

(Google Map)

その場合、「国道○号沿い、何番目の道を曲がる」とか、「○○ビルの隣」など、近くの目印をいくつかピックアップするかと思います。もし、その地図がスカスカで、目印となるような情報が全然載っていなかったらとても不便ですよね。

連鎖地図でも同じように、目印をたくさん均等に配置するのが重要です。
そして、矢野先生のチームが数々の苦労を乗り越えて作られた連鎖地図の一部がこちらになります!

(下記論文より一部引用)
A High-Density Rice Genetic Linkage Map with 2275 Markers Using a Single F2 Population
Yoshiaki Harushima et al.
雑誌名:Genetics
発行年:1998年

論文中の連鎖地図に載っている目印は、その数なんと2275!
世界で最も詳しい地図と評される理由になります。

なお、矢野先生のチームでは、この連鎖地図にミスがないか確認するため、1か月に1度、過去のデータを何度も繰り返し確認したそうです。もし間違いがあった場合、この先地図を使う多くの研究者が文字通り道に迷うことになります。連鎖地図ができあがってからも地図の精度を確かめることは非常に大切な作業でした。

●地図を使って探り当てた複雑な遺伝子

こうして作られた連鎖地図は、後々の多くの研究で使われることとなりました。
例えば、連鎖地図の目印をもとに、ある特徴を持つかどうかを決める遺伝子がどの箇所にあるのかを絞り込んでいくことができます。

矢野先生はその後、開花の特徴に関係する遺伝子の研究に取り組みました。開花の時期が早ければ、早めの収穫が期待できます。
ある年の実験では、約8000株のイネから開花が早いイネを手作業で(!)約1200株に絞り込み、その中からさらにサンプルとして使えそうな株を選んだうえで解析を進めました。

多くの株を一つ一つ見て絞り込まなくてはならない。

開花の特徴に関係する遺伝子のやっかいなところは、その遺伝子が複数種類ある、ということです。どれか一つだけがスイッチになっているのではなく、いくつもの遺伝子が複雑に関係しあっています。それを一つ一つ解明する必要がありました。Hd1やHd3aといった遺伝子を始め、長い年月をかけて数多くの遺伝子を発見することができました。

●矢野先生に直接会えるイベントがあります!

このブログで書いた内容は、矢野先生のご功績のほんの一部しか紹介できておりません。
興味をもたれた方は、ぜひ下に紹介するイベントに参加してみてください。また、未来館では、これからもさまざまなイベントを通してみどりの学術賞を紹介していきます。

☆6月22日(土)「みどりの学術賞」受賞記念講演会
(主催:内閣府、協力:日本科学未来館。)
(https://www.cao.go.jp/midorisho/houdo/houdo190517.html)

☆8月3日(土)未来館でのトークセッション
(主催:日本科学未来館)
※なお、4日(日)には同じくみどりの学術賞を受賞された輿水肇先生がご登壇されます。こちらにもぜひお越しください!
(https://www.miraikan.jst.go.jp/info/1904011324101.html)

皆さまのご参加、お待ちしております!!

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