あれから50年、新たな宇宙探査時代に考えるこれからのこと【月面編】

こんにちは、科学コミュニケーターの中島です。シリーズでお送りしていた「あれから50年、新たな宇宙探査時代に考えるこれからのこと」ブログですが、今回が最終回です!

まずは前回までの問いを振り返ってみましょう。
(対象は、小学2年生~社会人の来館者 60名)

1:皆さんは宇宙に興味はありますか?
2-1:あなた自身は、宇宙に行ってみたいですか?
2-2:自分が宇宙に行く、もしくは行かないとしても、最も気になる点はどこですか?
3-1:人類は、地球を飛び出しどこかを目指してほしいですか?
3-2:人類が宇宙に行く、もしくは行かないとしても、最も気になる点はどこですか?
4:月面に1年住むとしたら何が必要ですか?

今回の【月面編】では、問4の結果をご紹介します!

問4:月面に1年住むとしたら何が必要ですか?

食べ物、友達、覚悟・・・などさまざまなご意見が出ました。それらは以下のように大きく5つのグループに分けられました。

① 飲食物
② 生活する環境
③ 医療・健康
④ モチベーション
⑤ 人とのつながり

では、それぞれのご意見をグループごとに見ていきましょう!

① 飲食物~生きるために~

もっとも多かったのが、「水」や「食べ物」。必要な理由のほとんどは、月面で生き延びるためですが、食べること自体も楽しみになるだろうから好物やおふくろの味、また、いつも旅行先に持って行く梅干しや昆布、納豆は不可欠!と答えられる方もいました。

では実際に、宇宙で活動する宇宙飛行士はどんな食事なのでしょうか。
高度400km上空を周回する国際宇宙ステーション(ISS)における食事は、"レトルト食品"や"缶詰"、そして乾燥状態から水やお湯で戻して食べる"加水食品"などです。もちろん、クッキーやナッツ、羊かんなど地上で食べるものと状態が同じ"自然形態食品"と呼ばれるものもあります。金井宣茂飛行士は、ユーリ・ガガーリン氏が人類で初めて宇宙飛行を行った記念の日に、他のクルーとともにロシアの宇宙食「モスクワ・ケーキ」でお祝いをしたそうです。チューブ入りのケーキは、どんな味だったのでしょうか・・・。

モスクワ・ケーキ(©JAXA/NASA)

ISSは地球からの物資支援もあります。日本の補給船「こうのとり(HTV)」もその1つ。実験用サンプルや実験装置に加え、食料や衣類などの生活物資も運びます。野菜や果物などの生鮮食品も運ぶため、飛行士たちは心待ちにしているそうです。これまでも、宮城県のパプリカや岡山県のマスカットなどが届けられ、嬉しさのあまり生の玉ねぎを丸かじりする飛行士も。やはり、食べ物が気持ちのリフレッシュにもつながるんですね。

フレッシュな食べ物でリフレッシュ!(©JAXA/NASA)

また、地球からの物資支援がないことを想定し、「食べ物を作る仕組み」が必要なのではと考えた方もいました。実は現在、人類が将来月面上に定住することを見据えた「月面農場」というものが検討されています。ロボットのような無人化技術や最新の農業技術などを用いることで、限られた人数でも負担の少ない食料生産を可能にしようとしています。こうした工夫は月だけでなく、地球においても将来の農業従事者の減少に応じた新たな農業のかたちとして応用できるだろうと研究が進められています。

② 生活する環境~快適に過ごすために~

「家」や「電気」などです。1年間月面で暮らすとなると、居住スペースが必要です。地球とはまったく異なる慣れない環境なので、キッチンや寝室などの最低限住めるだけの建物では、心が落ち着かないかもしれません。快適にくつろげる家にするには、何が必要なのでしょうか。畳の部屋?植物やお花?使い慣れた家具や寝具?毎日何気なく過ごす家ですが、安心してくつろげているのはなぜかを考えてみると、自分にとっての住む場所における"大切な何か""必要な何か"が見えてくるかもしれません。と言っても、案外"住めば都"かもしれませんね。

月面基地のイメージ図(©JAXA)

③ 医療・健康~月面ライフを楽しむためにも~

何人かの方からは「医療」や「健康」という回答がありました。「医療」と答えたお一人は、あるご夫婦の奥様で、旦那様が定期的に診療を受けなければならないからとの理由でした。自分だけでなく、大切な人と生きるために、大切な人に必要なものは何かという視点で考えてくださいました。確かに、人類が生き延びるために不可欠なものといえば衣食住ですが、個々人での必要なもの、大切なものは違います。旦那様との月面での生活を想像し、答えてくださった奥様には心がほっこりしました。

また、体調を崩した時のための医療ではなく、健康に暮らすための「丈夫な体」や健康を保ち続けるための「健康サポート」と答える方もおられました。月面ライフを楽しむには、適度なトレーニングや栄養バランスの良い食事も大切な項目でしょう。そして、心の健康を気遣い「音楽のライブ会場」というご意見も。大学生からのお答えで、 ライブ会場があれば、月面にいる人たちと一緒に盛り上がって気分転換にもなり、喧嘩もなく過ごせるのではと考えたそうです。自分だけがリフレッシュするのではなく、一緒に暮らす人たちとコミュニケーションをとり、皆で楽しく過ごせる場を、と周囲の人々のことまで配慮したご意見でした。

そしてもう1つ、健康を保つためにと考えた小学生のご意見を紹介します。それは「青い空、天気」。なぜだか、おわかりでしょうか。大気のない月面で空を見上げると、そこに広がるのは漆黒の宇宙。それでは時間の感覚や生活リズムが崩れてしまいそうだと、時間の基準として青い空や移り変わる天気の必要性を挙げてくれました。建物の天井に人工的に青空を映し出すのではなく、地球のような自然に変化が見られるものが良いそうです。皆さんにも、お天気で明るい気持ちになったり、曇りでどんよりした気分になったりした経験はあると思います。私たちは日々変わる天気や、季節ごとの違いを当然のことのように捉えています。しかし、月ではそんな私たちの"当たり前"が当たり前でなくなる。そんなことを気づかせてくれたご意見でした。

空の移り変わりによって心動かされるのも地球ならでは

④ モチベーション~1年間月面で過ごすための目的を~

「月面にいる理由」「自分が面白くいるための何か」のように、1年間月面で生活するには何かしらのモチベーションが必要だろうとの声も多くありました。最低限の衣食住が揃っていたとしたら、ではどのようにして過ごすのかということです。単に"食べて寝て"だけを365日続けるとしたら...どうでしょうか。もちろん、本やゲームなどがあることで楽しく過ごせ、1年間月面にいるというモチベーションの維持にもつながる、という方もいらっしゃいました。しかし、そこで過ごす間のミッションのような、何かしらの目的があると良いと考える方も多かったです。ある大学生は、大学と同じで、途中で地球に帰りたいと思わせないような「打ち込める目標」が必要と答えてくれました。また、せっかく月にいるのだから「探究心」をもって研究してみたいと語ってくれた方も。自主的に行きたいと思って行くのか、それとも行かされて行くのか、それによってもモチベーションは大きく変わるでしょう。私ならば、さまざまな科学実験をして、その様子を定期的に地球の皆さんにお届けするというミッションに挑んでみたいです。ユーチューバー on the Moon、いかがでしょうか。

また、そもそも1年住み続けるのだという「覚悟」が必要という方もおられました。短期間の宇宙旅行と違って、地球とは異なる環境で長期間過ごすということ自体、相当な覚悟がないと気持ちを保てないような気がします。その覚悟を決めるにも、時間がかかりそうですね。

⑤ 人とのつながり~1人では生きられない~

①に次いで多かったのが「友達」「仲間」のような一緒に滞在する人、そして「電話」「インターネット」などの誰かとつながる手段です。

まずは、「友達」「仲間」。1人では不安、心細いと感じるため、話し相手として友達や仲間と一緒にいたいという理由がほとんどでした。何かあった時にも、友達がいれば頑張れる、1人より2人の方がいろいろなアイデアを出しあえサバイバルできるという答えもありました。未来館には「ぼくとみんなとそしてきみ」という常設展示があります。人間は、無意識のうちにも他のだれかと関係性を持ちながら生活している、ということを改めて捉え直すことができる展示です。2人以上になると、協力して新しい何かを創り出したり、くだらない話をして笑い合えたり...。その一方で、意見の食い違いで喧嘩や不穏な空気になることもあります。そんなことを繰り返しながら人間は社会を築いてきたのです。月面での生活でも、やはり自分以外の"だれか"の存在は大きいのでしょう。最近では、コミュニケーションがとれるロボット、自分の分身として遠隔で動かせるロボットなども開発されています。けれど、月面で一緒に暮らすなら、その"だれか"はロボットでは補えないという方もおられました。では、ロボットと生身の人間との違いは一体何なのでしょうか。皆さんは、"だれか"は、人間がいいですか?それともロボットがいいですか?

次に、「電話」「インターネット」。理由の多くは、地球とつながれる、というものでした。インターネットが普及したことで遠くの人ともすぐに連絡でき、メールやSNSなどで気軽に人とつながれる時代になりました。約38万kmという地球と月の距離も、遠いと感じることはないかもしれませんね。

さてここまで、「月面に1年住むとしたら何が必要ですか」という問いに対する来館者の方々のご意見を紹介してきました。いかがでしたでしょうか。月面という極限環境での生活を想像することで、自分にとって何が大切なのか、何を優先したいのかが少し見えたように感じます。生きるには、最低限の生活を送るには、ある程度の生活が保障された先に必要なものとは。読者の皆さんも、月面での生活を想像し、"自分にとって大切なもの"について考え、普段気づかない"何か"に気づいてみてください。

2019年7月20日、人類が月面に到達してから50年を迎えます。未来館では、これまでの有人宇宙探査を振り返り、これから人類はどこをめざすのか、そしてなぜ人類は宇宙をめざすのかについて考えるパネル展示を7月13日(土)〜9月16日(月)の期間で行います。普段なかなかじっくりと考えることがないテーマを、この機に共に考えてみませんか?


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・あれから50年、新たな宇宙探査時代に考えるこれからのこと【あなた編】
hhttps://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/2019041850-2.html

・あれから50年、新たな宇宙探査時代に考えるこれからのこと【人類編】
https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/2019051650-1.html

【参考資料】
・月面農場ワーキンググループ検討報告書
http://www.ihub-tansa.jaxa.jp/Lunarfarming.html

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