オープンラボ夏休みスペシャル!【8月の見どころ紹介】

こんにちは!日本科学未来館 科学コミュニケーターの梶井です。

関東では梅雨も明け、いよいよ夏本番という雰囲気になりました。皆さんは夏休みシーズンをいかがお過ごしですか?

以前の記事から引き続き、未来館で今年の7月と8月に開催している特別イベント「オープンラボ夏休みスペシャル!」の見どころをお伝えいたします!

※ 定員などの内容詳細は以下のイベントページからご確認ください。
https://www.miraikan.jst.go.jp/event/1907261024447.html
(リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)

ふだん入ることのできない未来館「研究エリア」という場所で、本物の研究現場や先端研究に触れ、研究者とお話しするという通常なかなか体験できないことができるこのイベント。

7月と比べると、8月は内容も大きく変われば、研究分野も「化学」「生物学」「ロボット工学」などなど、幅広くなります。

前回の記事では、イベント担当の科学コミュニケーターを取り上げ、研究者と話すことの面白さをお伝えしました。今回の記事は、8月のイベントに登場する2人の若手研究者にスポットを当てたものになります。

今まさに未来を切り開いている若手研究者。その研究に対する想いを通して、皆さんが本イベントでどのようなことが経験できるのかをお伝えいたします。

それでは1人目!ヒューマノイドプロジェクト(東京大学 大学院情報理工学系研究科)より、博士後期課程3年生 東風上奏絵(こちがみ・かなえ)さん!

画像: (左)人型ロボットのPepper、(右)東風上さん。「顔出しはちょっと......」ということで来館者の方とお話ししているイラストを描いていただきました。

梶井:
ヒューマノイドプロジェクトでは、床を掃除するといった何か特定のことだけを上手にするロボットではなく、人間のように1体で何でもできることを目指した人型ロボットの研究をしていますよね。プロジェクト内ではいろいろな研究が進められていますが、東風上さん自身はどのような未来を思い浮かべて、どのような研究をしているのですか?

東風上さん:
人間といろいろなロボットが共存する社会を夢見て研究をしています。そのために、人型ロボットに必要な行動のデザインなどをしています。例えば、Pepperをどこかに運ばないといけない時に、ガラガラとPepperを押して運ぶのと、手を引いて一緒に移動するのではどちらが嬉しいですか?人とロボットの共存のために大切だと考えられる人型ロボットの行動はどのようなものか?人がロボットの行動にどう感じたかを調べることで、ロボットのより良い行動のデザインを進めています。「ロボットが新たに何か1つの行動をできるようにする」という研究自体、もちろんすごく大変で、価値のあることです。ですが、それが「どのように行われるか」という点も、ロボットが社会に浸透していくために、最後は大事になるだろうと私は考えています。具体的に、今は、人間とロボットが一緒に何かを発表したり、人間とロボットが手を引いて一緒にどこかに行ったりといった行動のデザインをしています。

写真: 自らコードを組んで行動をデザインしたPepperと手を引き合って歩く東風上さん

梶井:
研究者の中でもロボットに対してさまざまな考え方があるかと思います。東風上さんは、「行動がどのように行われるか」ということと「ロボットと一緒に」という考え方を大事にしたいと思っているのですね。そのきっかけは何だったのですか?

東風上さん:
もともと人見知りで、子どものときに周りの子たちと仲良くしたいのに仲良くできなかったのです。でも、動物とはコミュニケーションが取れた気がして、気持ちがすごく楽になりました。ロボットであれば、動物よりも言葉でのコミュニケーションも可能になり、人間っぽさを出すことができます。友達になってくれるロボットがいたら、昔の私と同じような子も、ロボットとの会話を通してコミュニケーションに自信を取り戻し、最終的には人間同士の交流に戻ることができるのではないかと思っています。これが、私の研究へのモチベーションとしてあります。なので、特に子どもと触れ合うことを期待して研究しています。

梶井:
博士後期課程といえば、研究漬けの毎日で大変なはずですよね。なぜ今回のイベントのように研究者でない人と話すことを大事にしているのですか?

東風上さん:
研究室だと特定の考え方を持った人が多い気がしているので、未来館のような開かれた場所でいろいろな人の意見を聞くことができるのは良い機会なのです。例えば、手をつないで歩きたいという私の考え方に対して、「それはすごくいいね」という意見もあれば、「勝手に動いてくれた方が嬉しいよ」という意見もあるかと思います。皆さんが人型ロボットに対して何を求めていて、何を期待しているのかというところを聞いて、「未来でロボットと共存するときに大事なポイント」を考えたいです。

梶井:
当日は参加者とどんなことを話してみたいですか?

東風上さん:
当日のフリーウォークでは、ロボットの操作やロボットとの遊びといった「ロボットとのふれ合い」を通して、ロボットと共存する未来について想像していただければと思っています。「ロボットはコミュニケーションやふれ合いができる友達」のような存在になってほしいと私は思っていますが、皆さんはどう思いますか?

梶井:
東風上さんには、実は、もっともっとディープな話題や熱い想いをたくさんお話しいただきましたが、すべてをここで紹介することができず......!東風上さんはヒューマノイドプロジェクト内だけでなく、常設展5階 コ・スタジオで行われるトークにも登場予定です。皆さん、ぜひ直接話してみてください。

続いて、光電変換プロジェクト(東京大学 大学院工学系研究科)より特任研究員 中川貴文(なかがわ・たかふみ)博士、お願いします!

写真: 中川博士。手に持っているものが光電変換プロジェクトで研究中の太陽電池

梶井:
光電変換プロジェクトでは、太陽「光」を「電」気に「変換」する、太陽電池の研究をしていますよね。私たちが屋根の上や道路の脇などで見る濃い青色の「シリコン系」と呼ばれるものではなく、「有機薄膜太陽電池(OPV)」という、次世代の太陽電池(上写真で中川博士が持っているもの)を中心に研究しているかと思います。まずはOPVについてお願いします。

中川博士:
OPVは薄く、軽く、柔らかいという特徴から、現在のシリコン系太陽電池では使用できない場所にも設置することができます。さまざまな色を作ることもできるので、デザイン性の高さという意味でも設置場所の幅は広がります。例えば、家の壁やブラインド、リュックや日傘などなど、未来はあらゆる場所で太陽光発電が可能になっているかもしれません。 ですが、OPVには太陽光エネルギーを電気に変える能力(変換効率)が低いという課題があります。現在だと、シリコン系は販売されているもので20%以上ですが、OPVは研究室レベルで10%程度です。そのため、変換効率を上げる研究が進められています。ただ、個人的には、使い分けが大切だと思っています。

梶井:
中川博士はどのような研究をしているのですか?やりがいと合わせてお願いします。

中川博士:
私は、OPVに使われる有機分子の設計・合成から、それらを組み合わせて実際のデバイスにするところまで、全部をやっています(笑)。OPVは、いろいろな役割をもった物質が組み合わさってできています。例えば、電気の素である「電子」を投げるピッチャーのような役割の有機分子では、ピッチャーにどのような能力を持たせるか(ボールをすぐに投げたがるようにする、他のチームメイトの輪の中に入りやすくするなど)をゼロから設計して作るといったところから始めるので、完全に自分だけの太陽電池ができます。分子はナノメートル(10億分の1メートル)の粒々なので目には見えませんが、OPVとして実際に働いていることが見えるのは嬉しいです。合成から完成品までを自分で全部作ることができるということは楽しいことです。

梶井:
研究者ごとに、それぞれの役割を持った物質を別々に研究しているイメージでしたが、中川博士は全部に携わっているのですね。トークイベントや毎月のクラブ会員向け実験教室など、未来館のイベントに積極的にご協力いただいていますが、参加者と話していて面白かったことはどのようなことですか?

中川博士:
未来館の実験教室を通して、個人の感想ですが、2016年くらいから太陽電池を知っている子どもが増えたなあと感じています。太陽電池がどれくらい普及したかに関しては、発電量や普及率などのデータを見ればわかります。ですが、太陽電池が一般にどれだけ認識されているかを知る機会はあまりありません。来館者と直接対話をして、それをダイレクトに感じることができることは楽しいです。研究者は研究室に引きこもってばかりなので......

梶井:
基礎研究は一般の意見をアイデアに直結させることは非常に難しいかと思います。ですが、話すことで、その技術がお互いの目線からどのように見えているのかについて共有ができたり、研究者のモチベーション向上につながったりしているのですね。最後に、イベント当日の参加者はどんなことを体験できますか?そして参加者とのようなことを話してみたいですか?

中川博士:
化学実験を体験していただくことはできませんが、実際の研究現場を見ながら研究者たちと話すことができます。OPVの話をきっかけに、太陽電池だけでなく、エネルギー問題全体について考えていただけたら嬉しいです。日本は2030年の電源において、再生可能エネルギーの比率を22~24%にすることを目標にしています。そのうち、太陽光発電は7.0%です。もっと先の未来、私たちの生活はどれくらい自然エネルギーに頼ったものになると思いますか?エネルギー問題は、そもそも何が問題で、私たちはどのようなことを解決していかなくてはならないか、一緒に考えましょう。

写真: 実験中の中川博士 ※イベント当日、実際の実験を見ることはできません。

梶井:
それぞれが考える未来のエネルギーの在り方を語り合って、互いに刺激され合う場になれば良いなと感じました。次世代太陽電池の開発現場を覗きながら、エネルギー問題について研究者と考えたい方は、ぜひ光電変換プロジェクトへお越しください!


以上、8月のオープンラボ夏休みスペシャルについてでした!

研究エリアにいる若手研究者の想いはいかがでしたか? そして、それに対してどのような感想を持ちましたか?

「未来ではそんなことが可能になるのか!」「科学が進むとそんな価値観が生まれるかもしれないのね!」「ちょっと自分が思っていた未来と違うかも?」「この研究はこういう考えで進んでいたのか!」などなど、いろいろな意見があると思います。

イベント当日は、今回紹介きれなかった研究や研究者がたくさん登場します! 記事の内容だけでは気付けなかったことに気付いたり、別分野の研究に一度に触れることで「この研究とこの研究を組み合わせたら面白いかも?!」といったアイデアが生まれたりするかもしれません。

ぜひ、研究者と一緒に、これからの私たちの世界について科学的な視点で語り合いましょう!ご参加お待ちしています!

【関連リンク】

・本イベントのイベントページ
https://www.miraikan.jst.go.jp/event/1907261024447.html (リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)


・本イベント全体の紹介記事(科学コミュニケーターブログ)
https://blog.miraikan.jst.go.jp/event/20190702post-865.html (リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)


・本イベント7月開催分の見どころ紹介記事(科学コミュニケーターブログ)
https://blog.miraikan.jst.go.jp/event/201907177-2.html (リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)


・本イベントの報告記事(科学コミュニケータブログ)
→ 今年の秋に掲載予定です。今しばらくお待ちください。


・日本科学未来館 研究エリアについて
https://www.miraikan.jst.go.jp/research/facilities/

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