夏だ! 海だ! マイクロプラスチックだ!

日本各地、暑い日が続いていますね。そんな暑い夏に行きたくなる場所といえば......海!みなさんは海に行ってなにをしますか?海水浴、スイカ割り、浜辺でのんびり......人によって楽しみ方は違うと思いますが、ここに「マイクロプラスチックを拾う!」というアクションを加えてみるのはいかがでしょうか?あなたの拾ったマイクロプラスチックが、地球の大問題を解決する大事な一歩に貢献できるかもしれません。

そもそもマイクロプラスチックってなに?

マイクロプラスチックとは、5 mm以下のプラスチックのこと。プラスチックのゴミがきちんと回収されずに雨に流され川に入ってしまうと、海に運ばれます。その一部は波に乗って砂浜にたどり着きます。もともとは大きなサイズだったペットボトルなどのプラスチックも、海の中や砂浜で、紫外線を浴びてボロボロになっていきます。プラスチックの洗濯ばさみも、外にずっと出していると、陽に当たり続けてだんだんボロボロになっていきますよね。それが海や砂浜で、さまざまなプラスチックゴミで起きるわけです。そのサイズが5 mm以下になったものが「マイクロプラスチック」。ですが、ボロボロに小さくなっても、プラスチックはプラスチックのまま。生き物がマイクロプラスチックから栄養を吸収したり、分解したりすることはできません。

(作成:科学コミュニケーター 田中沙紀子)

このままだと、海の生き物も、私たちも危ない?!

ですが、海の生き物はプラスチックを食べてしまいます。実際に、魚や貝、動物プランクトン、海鳥などの体からはさまざまな種類・大きさのプラスチックが見つかっています(1,2。目に見えないほど小さなプランクトンも、小さなマイクロプラスチックなら食べられるわけです。

プラスチックには、その表面に有害な化学物質を吸着しやすいという特徴があります。そして、プラスチックをたくさん食べた海鳥の体では、化学物質が多く蓄積しているという報告があります(3。海の生き物がプラスチックを食べてしまうと有害物質が体に取り込まれると懸念されるのです。そしてこれは海の生き物だけの問題ではありません。海の生き物を食べる私たちにも影響すると考えられます。人体への悪影響についてはまだきちんと調べられてはいませんが、人の便からもマイクロプラスチックは見つかっています(4,5

いま、海に流入するプラスチックの量は、年間およそ800万トン(6。ジャンボジェットの重さにして5万機分にも相当します(7。この大量のプラスチックは、元をたどればすべて私たち人類が作り出したもの。このままプラスチックゴミが海に流れ込み続けたら、海はどうなってしまうのでしょう?プラスチックゴミの問題を解決できるのは、プラスチックを作り出した私たち自身だけではないでしょうか。

どこに、どのくらい、どんなプラスチックがあるのだろう?

そんな海や砂浜のプラスチック問題を解決するために、まず大事なことのひとつは現状を把握すること。ですが、どこに、どのくらい、どんなプラスチックがあるのか、そしてそれらがどこからやってきたのかは、あまりわかっていません。そんな中、神奈川県の相模湾の海岸に注目してマイクロプラスチックの実態を明らかにしよう!というプロジェクトが動いています。主導するのは、神奈川県環境科学センターの三島聡子さんです。このプロジェクトについて、科学コミュニケーターの田中が、三島さんに伺ってきました。

神奈川県環境科学センター 三島聡子さん
(写真提供:神奈川県環境科学センター)

クラウドファンディングで、資金と関心・参加者を集める

三島さんたちのプロジェクトでは、クラウドファンディングを活用中。研究支援に特化したクラウドファンディングサイト「アカデミスト」で『相模湾のマイクロプラスチック汚染実態を明らかにしたい!』と題して、プロジェクトに賛同して資金を支援してくれる人を募集しています(8/19に締め切りました)。また同時に、無償で海岸のマイクロプラスチックを採集してくれる人を募集中です(8/19以降も募集しています)。なぜこれが必要なのでしょうか?

2017年度から、三島さんを中心としたセンターの職員のみなさんで、相模湾のいくつかの海岸でマイクロプラスチックの調査を行ったそうです。その結果わかったのは、海岸によってマイクロプラスチックの量も種類も異なるということ。相模湾全体の現状を知るためには、各海岸で、たくさんの数の調査を行わなければならないというわけです。しかし、そのためにはセンターの職員だけでは限界があります。そして分析にはお金がかかるので、研究資金の支援があると、スムーズに研究を進めやすくなるといいます。「マイクロプラスチックは元をたどれば私たちが出したゴミ。嵐の日に外に出しっぱなしにしたプラスチックの洗濯ばさみや植木鉢が風に飛ばされたら、最終的に行きつくのは海や海岸なんです。このプロジェクトへの支援・参加を通して、多くの人にプラスチックの問題を考えてほしいし、少しだけプラスチックの使い方を変えてもらえたら嬉しいです。天気が荒れる日はプラスチック製のものを家の中にしまう、というだけでも意味があるはずです」と三島さんは語ります。

<8月13日追記>
クラウドファンディングは、支援金額の目標を達成したそうです。三島さんより、ご支援への感謝の言葉が届きました!「クラウドファンディングは、8/9をもちまして、1,050,300円となり、目標達成できました。ご支援ありがとうございました」

マイクロプラスチックをどうやって調べるの?

次に、どうやってマイクロプラスチックを採集して分析するかの流れを教えていただきました。採集方法は、誰でもできるよう、事前調査の時に模索して決定したそうです。採集したマイクロプラスチックがどの素材のプラスチックであるかを特定するには、実験室にしかない分析装置が必要ですが、見た目だけでわかりやすいものもあります。相模湾はちょっと遠い......という方は、お住まいの近くの海で拾ってみるだけでもおもしろい発見があるかもしれません!

それでは、まずは採集の手順。必要な道具は、参加者に無料で貸し出しています。その道具を持って、海岸へ行きましょう(*注)。海岸のゴミが流れ着いてたまっている場所をみつけ、40 cm四方のロープの枠を置いて固定します。その中の砂を深さ3 cm程スコップで集め、2つのふるいを重ねたところに入れていきます。上のふるいは5 mm、下は2 mmの目。こうしてふるいにかけると下のふるいには2~5 mmの大きさのものが残ります。今回はこのサイズのマイクロプラスチックのみに注目。ふるいに残ったものをバットに広げ、プラスチックと思われるものを取り出します。カラフルな色のついたものは、だいたいプラスチックなのだそう。他にも、白やグレーのものもあります。どんなマイクロプラスチックが採れたか、ぜひ観察をしてみてください。人工芝の破片やクッションビーズの中身は、比較的よく見つかるそうです。

採集の手順
(写真提供(1~4):神奈川県環境科学センター、写真撮影(5,6)・作成:科学コミュニケーター 田中沙紀子)
よくみつかるマイクロプラスチック。左から2つずつ、クッションビーズの中身、被覆肥料の殻、人工芝。
(写真撮影:科学コミュニケーター 田中沙紀子)

採集したマイクロプラスチックはセンターまで持ってきてもらい、次は分析です。ここからはセンターの職員さんの作業。まずは顕微鏡で、大きさを測定しつつ写真を撮ります。その後、素材を特定するために赤外線を照射する装置にかけます。赤外線の吸収の仕方を見ると、その特徴からどんなプラスチックなのかがわかります。

(写真撮影・作成:科学コミュニケーター 田中沙紀子)

実際に分析をする上での苦労についても聞いてみると、「小さいものをひとつひとつ見ていくので、かなり細かい作業です。もっと楽に、一気に測定できる装置もあるのですが、高くてなかなか買えません」と教えてくれました。効率的に研究を進めるにはお金がかかるのです......!

こうして分析したマイクロプラスチックの材質や形態は、採集してくれた人に個別でお知らせしているそうです。自分が拾ったものがどんなマイクロプラスチックだったかわかるとは、興味深いですね!そして、たくさんの人が拾ってくれたマイクロプラスチックの結果を集めて、三島さんたちは相模湾全体のマイクロプラスチック分布マップを作ります。細かいマイクロプラスチックをひとつひとつ扱う根気のいる作業ですが、協力してくれるみなさんのためにも、相模湾のマイクロプラスチック問題解決、ひいては地球全体のマイクロプラスチック問題解決につなげるためにも、がんばってください!そしてこのブログを読んでいるみなさんも、ぜひ採集やクラウドファンディングの支援に参加してみてはいかがでしょうか?

市民の力を合わせて、みんなで研究!

このプロジェクトのように、研究者ではない市民のみなさんの力を合わせて研究を進めていく動きを「市民科学」または「シチズンサイエンス」といいます。研究者だけでは人手や資金などの制限で取り組めない研究もたくさんありますが、みなさんの力が集まれば、それを解決できるかもしれません。研究者と一緒に未知のなにかを解明するって、なんだかわくわくしませんか?未来館ブログでは、今後もシチズンサイエンスについて紹介していきたいと思いますので、ぜひご注目を!そして興味を持ったプロジェクトがあれば、ぜひ参加してみましょう!

(*注)海水浴場は、たくさんの人が入ってくるため、正しく現状を把握できない可能性があります。そのため、海開きをした場所は避けて、採集してもらっているそうです。

【謝辞】
本記事を執筆するにあたり、取材にご協力くださった神奈川県環境科学センターの三島聡子さん、マイクロプラスチック研究チームのメンバーの方に、この場を借りて厚く御礼申し上げます。

【参考文献】
1. 山下麗ら, 日本生態学会誌 66:51-68(2016)
2. J. P. W. Desforges et al., Arch. Environ. Contam. Toxicol., 69(3):320-330 (2015)
3. Rei Yamashita et al., Marine Pollution Bulletin, 62(12), 2845-2849 (2011)
4. 欧州消化器病学会プレスリリース「UEG Week: Microplastics discovered in human stools across the globe in 'first study of its kind'」(閲覧日:2019年7月29日)
5. B. Liebmann et al., Conference on Nano and microplastics in technical and freshwater systems, Microplastics 2018 (Poster) (2018)
6. J. R. Jambeck et al., Science, 34(6223):768-77 (2015)
7. WWFジャパン「海洋プラスチック問題について」(閲覧日:2019年7月29日)

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