「たんけんしよう! "赤ちゃんのおもちゃ"の世界」 イベントレポート

「赤ちゃんファースト」なおもちゃってどんなもの? 

突然ですが、みなさんが覚えている、一番初めの記憶はなんですか? 小学校の遠足? 幼稚園でひらがなの練習をしていたこと? では、自分が1歳だったときのことを覚えていますか?自分がハイハイしていたころの記憶がある人は少ないのではないでしょうか。

実は私たちが赤ちゃんだったあの頃、私たちの見ていた世界は、今私たちが見ている世界とは全く違うものだったようです。いったいどのように違うのでしょうか? そんなナゾを探るべく、未来館では昨年12月に、大人にとっての赤ちゃんの「不思議世界」を研究している山口真美先生とイベントをしました。このブログでは大盛り上がりだったイベントの様子をリポートします!

未来館の研究室ではどんなことをしているの?

フロアで活動をしていると、赤ちゃんを連れたご家族の方にもよく出会います。赤ちゃんがじっと私の顔を見てくれる時があるので、言葉がわからないとわかっていてもついつい話しかけたくなってしまいます。赤ちゃんには私の顔や未来館がどんなふうに見ているんでしょうか? 赤ちゃんはまだ言葉をしゃべることができないので、直接聞くことはできませんね。

未来館の研究エリアで「こどもからみる不思議世界探求」プロジェクトの研究室をもっている山口真美先生は、赤ちゃんから子ども、そして大人へ成長する中で、私たち人間の「目の前にある世界を見る能力(視知覚能力)」がどのように変わっていくかを研究されています。

ではどうやって赤ちゃんの見ている世界を研究しているのでしょう?

たとえば、赤ちゃんにパソコンの画面を見てもらい、パソコンの画像に移った写真や物体のどこを見ているかや、どれくらいの時間見ているかを調べます。先生によれば、赤ちゃんは興味のあるものや認識できるものなどに対しては「こっちを見てね!」と言わないでも見てくれるようです。

視知覚能力の研究の中には赤ちゃんの視線の追跡や計測によって、赤ちゃんがどんなものに興味をもつのか、異なる二つの写真の違いに気づけるか、その違いに気づくまでの時間などを調べている研究があります。

画像:赤ちゃんがPCを使った実験に参加する様子。実験者はPC側から赤ちゃんの視線を観察します 。

山口先生のプロジェクトではこのような方法でわかったことを使って、赤ちゃんや子どもがどのように世界を見ているのかを調べるとともに、彼らにとってよりよい環境を、大人や社会と一緒に考える活動をしています。未来館ではとくに小学生とそのご家族を対象に来館者参加型の実験を開催しています。もし興味があったら未来館へ遊びに来てくださいね。

今回のイベントでは、そんな赤ちゃんの研究者による、赤ちゃんのための、「赤ちゃんのおもちゃ」を作るまでの制作秘話を見ていきました。

≪山口先生のプロジェクトについて、詳しく知りたい方はこちら≫

■「こどもからみる不思議世界探求」プロジェクト

https://www.miraikan.jst.go.jp/research/facilities/WonderfulWorldChildren/

■未来館での参加型実験の日程

https://ymasa.r.chuo-u.ac.jp/wwc/index.html

■どんな研究をしているの? 赤ちゃんの赤ちゃんシアター

https://ymasa.r.chuo-u.ac.jp/babytheater/movie02_01a.html

「うちゅうじんのたまご」開発秘話!

写真:山口先生の監修した、フレーベル館の「うちゅうじんのたまご」

イベントのはじめは、山口先生が監修したうちゅうじんのたまごの開発秘話と、開発のための土台となる赤ちゃんの視覚に関する研究を、クイズなどを用いながらご説明いただきました。

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このおもちゃは、ごつごつした手触り、はっきりとした発色、つるつるとした素材……。一般的にみかけるおもちゃとは少し違った雰囲気のおもちゃです。大人が見ると不思議に見えることもありますが、これには研究に裏付けされた理由があります。

私たち人間は生まれたときから視力がはっきりしているわけではなく、成長する中で徐々に視力があがっていきます。1歳になるまでの赤ちゃんの視力を疑似的に再現した動画を見ながら、説明いただきました。(気になる方は動画をご覧ください。)動画を比べてみると、赤ちゃんにとって見えやすい色や、光の見えやすさや遠近などにより認識しづらいものがあることに気付きます。赤ちゃんの世界から見てみると、好き嫌いの前に見えているかいないか、ということが大切なんですね。

図:1歳になるまでの見え方を動画で見てみる
協力:坂元咲智、橋本のぞみ、吉野優作、野口靖、東京工芸大学色の国際科学芸術研究センター

また、大人と赤ちゃんでは視力だけでなく、物事の認識の仕方も違います。例えば「影」です。影を影として、物体と同じ形をしていることを認識するのは何か月くらいなのでしょうか。実験では5-6か月の赤ちゃんと7-8か月の赤ちゃんに実験に参加してもらった結果、7-8か月の赤ちゃんが影の形の違いに気付きました。それでも右図のように白い縁取りがあると影の形の違いには気付かなかったそうです。

先生のお話を聞いて、影だけではなく「光沢」や「立体感」など、私たちがいつのまにか理解している、「世界の見方のルール」がたくさんあることがわかりました。

図:物体と影の認識の仕方を調べる実験を紹介

「うちゅうじんのたまご」は、そんな赤ちゃんが見ている世界各国の研究を通してわかったことを駆使して完成しました。大人からみると「奇抜な色だな~」と感じますが、赤ちゃんにとっては見やすく、それぞれの見分けがつきやすい色を選んで作られているのです。大人から見ると淡いパステルカラーのおもちゃもかわいいですが、赤ちゃん研究者がつくったおもちゃは、遊ぶ人が楽しく遊べる、こだわりの一品なんですね!

おまけ:トーク中にはクイズもたくさんありました。一生懸命考えてくれてありがとう!

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おもちゃ体験会

トークの後には赤ちゃん研究をもとに作られたおもちゃや絵本の体験会、赤ちゃんの泣き声から感情を推測するアプリの体験会を行いました。自由に遊べる体験会でしたので、ここでは簡単に写真でその様子をお届けします。

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赤ちゃんが泣くことも大歓迎! 泣き声推測アプリも活躍。泣き声を音声認識して、赤ちゃんが何を考えているかをAIで予測します。

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「うちゅうじんのたまご」の作り方や、試作品の写真も紹介していただきました。開発のこだわりポイントやどのように作られているかも詳しく説明していただき、プチ工場見学のようでした。

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触感が異なる6種類のマット。ごつごつ、ふさふさ、ふにふに……。どれが好きかはひとそれぞれ。順番を変えながら何週も体験もできます。大人にも子どもにも大人気!

 

みんなのアイデア募集コーナー

研究者に作ってほしいおもちゃのアイデアを聞くコーナーも用意。好きな乗り物やロボットからアイデアを考えてくれた子や、山口先生が監修したしかけ絵本を見て、ふせんとペンだけでぐるぐる回る仕掛けを作ってくれた子もいました。どれも大人には考えつかないアイデアが満載で、山口先生もフレーベル館の方も驚いていました!

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みんな真剣にほしいおもちゃや好きなもののイラストを描いてくれ、たくさんの意見があつまりました。

おわりに

子どもも大人もそれぞれが興味のあるコーナーで山口先生や企業の方とお話ししたり、真剣に絵本を読んだり、クッションで遊んでいる子がいたり…。 参加いただいた方には終了時間ぎりぎりまで遊んでいただきました。

また、ある参加者の大人の方からは、 「納得することが多かった」 と感想をいただきました。どうやら普段お子さんが明るい色の洋服を好む傾向があったり、赤ちゃんが泣くタイミングでなんとなく言いたいことが推測しているようです。研究者ではない私たちでも、お互いを知ろうとする気持ちがあれば「相手が見ている世界」の違いを感覚的に理解できている部分もあるのかもしれませんね!それに加えて先生の研究している認知心理学によって相手のみている世界の理解が深まれば、言葉がわからない相手にも正しい思いやりをもてるヒントや後押しになるのではないでしょうか。

さて、みなさんも赤ちゃんの不思議世界に興味がわいてきたんじゃないでしょうか?

イベントや先生の研究に興味をもってくださった方は、周りの赤ちゃんの視線をよく観察してはいかがでしょうか。また、本屋で売っている絵本やおもちゃが「なぜこの形や色、肌ざわりなのか」を考えるのも楽しそうですね。未来館では今後も山口先生と一緒にイベントをしていく予定ですので、そちらにもぜひご参加ください!

 

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