介護現場に、ある日突然AI研究者があらわれた! ~AIで「よい介護」を読み解く試み~

こんにちは! 科学コミュニケーター、漆畑文哉です。

今回は12/15(日) 【Miraikanフォーカス】トークセッション「AI×超高齢社会 ~データでかわる? 介護の現場」の見どころをほんのちょっと先取りしてみなさんにご紹介します!

■ イベントWEBページ:https://www.miraikan.jst.go.jp/event/1912151425257.html

2019年度から日本科学未来館では科学と社会にまつわる大切なトピックを扱う注目テーマ「Miraikanフォーカス」が始まりました。今年度のテーマは「AI(人工知能)」。

今回のトークセッションで扱う話題は「超高齢社会」。今回は介護の質をさらに向上させようと開発が進められているAI技術にフォーカスします。介護の質に今どんな課題があるのか、解決のためにどんなAI技術が研究されているのか、登壇者である静岡大学のAI研究者・石川翔吾氏、石川氏の研究に協力をしている介護支援の達人・高齢者福祉サービスあおいけあ経営者の加藤忠相氏からお話を伺います

・・・が、今回のトークにはもう一つ見どころがあります。それは登壇者お二人の関係です。お二人は単なる調査する/される、AIを作る/使うという関係ではなく、もっと深いつながりでAIによる介護現場の課題に挑戦しているのです。

経歴も専門も全く違う二人がどのように出会ったのか。企画の打合せのお話を少しお見せしましょう。

登壇される石川翔吾氏(右)と加藤忠相氏(左)

ある日突然AI研究者が現れた

※会話中は敬称略

―――加藤さんが静岡大学の石川さんの研究チームと関わり始めたのはいつ頃ですか?

加藤 8年くらい前に、突然来られましたよ。

―――突然?!

加藤 研究職の人ってけっこう来られるんですけど、一番押しが強かった(笑)

―――8年って長い付き合いですね!

加藤 でも最初は石川さんたちが何を言ってるのかホント分からなかったですよ(笑)

―――石川さんはいろいろな施設をお調べになったうえで加藤さんを訪ねたのですか?

石川 そのときは僕らも介護業界のことを全く知らない状態でした。出会ったのは知り合いの精神科医の先生の紹介がきっかけです。それからずっと加藤さんは私たちからAIの話をシャワーのように浴びせられ続けているっていう(笑)。

加藤 そんな感じ(笑)。最初はホントに何を言ってるのか分からないところからのスタートでした。でも、それってどの業界もそうですよ。たとえば介護と医療だって、使っている専門用語が違う。話しているうちに、こっちが当たり前だと思っていた言葉が研究者には全然伝わっていなかったり、研究者が当たり前だと思っている言葉が、実はすごく難しいとか、話してみて初めて見えてくるんですよ。話しているうちに徐々に分かってくる。そこが大事じゃないかなと思っているんです。

加藤氏の経営するあおいけあは介護業界で注目されています。NHK「プロフェッショナル」に取り上げられたほか、映画のモデルや介護関係者の視察も多いそうです。そんな加藤氏も、AI研究チームと話をするうちに、AIをはじめ医療や脳科学の話まで初めて知ることが多かったそうです。

介護の達人が考えるように、AIに考えさせる挑戦

AIの研究に協力している加藤氏ですが、実際に行っている介護の中では、AIはおろか、他のテクノロジーを使っている様子も見られません。どういうことなのか、聞いてみました。

―――新しい介護支援技術を提案しに来られる研究者は多いのですか?

加藤 多いですね。iPadを使ったものとか、高齢者の見守りセンサーとか。でもね、うちではいらないものが多い。研究者は介護現場に必要だろうと思い込んで、作ってくるんだけど。でも石川さんたちは、こういうことだからこういう情報が必要でしょうって話をしてくれるので、こっちも分かる。

―――石川さんたちの研究では、施設の中にカメラやセンサーを使っていますよね?

石川 はい。最初の5,6年くらいは特に僕らが、介護現場のスタッフが介護のときにどう考えているのかを理解する期間でした。

加藤 目の側にカメラを付けさせられ、職員がどこを見ているのかを研究されたりとか、会話の内容を全部録音されて書き出して分類したりとか。どこでどんな会話が行われているのか、他の施設と何が違うのか比べることがありました。いろいろやっていますね。

石川 人工知能の考え方はいろいろあるんですが、僕らは「人工知能を使うと物事に新しい意味づけできること」がポイントだと思っているんです。取り組んでいることの一つは、介護の達人の頭の中を整理して、データの意味をAIに解釈させること。といっても頭の中を直接のぞくことはできないので、代わりにスタッフが書き残した介護記録を使います。加藤さんの施設ではスタッフと利用者の関係性が良好なので、利用者本人に関する記録を多く集めることができます。そして、その記録がちゃんとケアにつながっている。記録がとても意味のあるものになってるんです。記録で人工知能をつくるのは、記録の見え方をどんどん増やすことができるからなんです。

他の介護現場でも記録は取られているものの、実際の介護にはあまり活用されていないという。書く労力のわりに役立っていない施設では、記録を取ること自体が苦痛な作業になってしまっている、と加藤氏は指摘します。

介護に関して全くの素人である私も介護記録の見本を拝見しました。一見すると食事の時間や利用者の人柄などが書かれた「日誌」のようで、ここから介護の達人がどんな情報を読み取って活かしているかは全く見当がつきません。

AIをつくる上で石川氏はまず、日誌形式の情報をその日の行動(食事、睡眠の時間など)やパーソナルな情報(生活歴、性格、感情など)といった一つひとつのデータに分解し、全体の構造を見つけることから始めました。次に、カメラやセンサーで得られた介護をする人と受ける人とのコミュニケーションのデータと合わせ、介護の達人が「考えたこと」から「したこと」を意味づけしていきます。現在はコミュニケーションの良し悪しを自動で判別し評価できるところまできました。

一つひとつのデータのつながりを探す過程で、これまで誰も気づいていなかった新たなつながりが見えてくることがAIをつくる醍醐味だと石川氏は言います。今は人間の思考をベースに紐付けていますが、いずれはAIが「推論」し、本当の意味で「介護の達人のように考える」こともできるようになるかもしれません。

AIが完成した時、介護をする人はどう変わる?

「介護の達人のように考えるAI」で、石川氏は介護をする人と受ける人とのコミュニケーションを橋渡ししたいと考えています。そのことを加藤氏はどう思っているのでしょうか?

―――すでに介護記録をケアに生かすことができている加藤さんが、あえてAIの研究に協力しているのはなぜですか?

加藤 僕は介護をする人の意識が変わることが、本当に「良い介護」を行う上で大事だと思っています。

―――介護をする人の意識?

加藤 一般的に介護って誰も幸せになっていないと思われている。子供は親を介護に委ねるとき「おふくろに悪いな」みたいに罪悪感をもっているし、自分が年をとったら受けたくないと思っている。でも、そうじゃないと僕は思っているんです。ただ、僕はこんな介護をやっています、という話はできても、環境の違う他の施設では実践できないかもしれない。何が「良い介護」なのかは、介護を受ける人の状態や周りの環境によってみんな違うから、定義を一般化できない。何が「良い介護」かは、介護をする家族や施設経営者が自分で考えなくちゃいけない。

―――介護をする人が「良い介護」を考えることをAIが助けるということですか?

加藤 僕がやっている介護を、石川さんたちのつくるAIからは別の説明ができるかもしれない。いずれは、自分の親だったらこういう介護がいいよねっていうことをAIが提案できるようになるかもしれない。提案なら別に僕じゃなくていい。AIやいろんなテクノロジーが開発されて、その人の望む介護を周りの人が誰でもできるようになってくれたらと思う。

人間に介護されたいと思う人がいる限り、介護の仕事がAIやロボットに全て置き換わることはないと加藤氏は言います。また、AIの仲立ちで誰でも達人の介護ができるなら、これからの時代は人とのつながりや助け合いを大切にしたいと考えている人にとって介護はもっと楽しくて生きがいを感じられる仕事になるだろうと期待を込めて話してくだいました。

さて、その介護記録をもとにしたAIとはどんなものでしょう。 そしてAIは介護の仕事を変えるでしょうか?

あなたはどう思いますか? イベントでは参加者も登壇者と一緒になって議論します。12/15(日)開催の【Miraikanフォーカス】トークセッション「AI×超高齢社会 ~データでかわる? 介護の現場」にぜひご期待ください。みなさまの参加をお待ちしております。

■ イベントWEBページ:https://www.miraikan.jst.go.jp/event/1912151425257.html

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