小惑星探査機「はやぶさ2」地球へ帰還中①

あのとき、管制室では何が起こっていた?

2月23日(日)、日本科学未来館イノベーションホールにて、トークセッション「小惑星探査機「はやぶさ2」地球へ帰還中〜プロジェクトを率いるキーパーソンとクールに熱く語り合う」を開催しました。

はやぶさ2の話、しかもプロジェクトマネージャの津田雄一先生がいらっしゃるということで、大勢の方にお越しいただきました。(立ち見でご辛抱いただいた皆様、申し訳ありませんでした!)

そのイベントの様子を2回に分けてご紹介します。この記事ではイベントの前半部分をお伝えします。

*はやぶさ2ミッションについては、こちらの記事をご参照ください。

はやぶさ2、まもなく小惑星リュウグウに到着!
https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/201806252.html

最初に、津田先生からご挨拶。「はやぶさ2は去年たくさんの成果をあげることができ、今も順調に飛行中です。今日はみなさんと一緒に考えていくコーナーもあるので楽しみにしています」。

続いて、科学コミュニケーターの松島が、はやぶさ2のミッションをおさらい。ふだんは未来館5階のコ・スタジオで行っている科学コミュニケータートークのスペシャル版です。「小惑星には太陽系ができたころの物質がまだ残っているかもしれない」「約86万個もある小惑星の中からリュウグウが目的地として選ばれたのは、炭素や水が多く含まれていそうで、かつ地球に近い、つまりはやぶさ2の性能で行って帰ってくることができる小惑星だから」などの点を、津田先生のコメントを交えながらお話ししました。

第1部〜はやぶさ2のミッションをみんなで振り返ろう!

イベントの前半では、はやぶさ2の打ち上げから帰還までの記録映像を見ながら、皆でミッションを振り返りました。それぞれのプロセスで、津田先生ひきいるチームが何を考え、どう感じていたかを先生ご自身からお話ししていただきました。

2018年6月27日に、はやぶさ2が小惑星リュウグウに到着

「リュウグウがこんな形、こんなにでこぼこだとは全然想像していなかったので、皆ものすごく驚きました」と津田先生。

9月21日に小型ローバー MINERVA-Ⅱを投下

「初代はやぶさではイトカワに到達させることができなかったので、そのリベンジでした。今回はうまくいって、MINERVA-Ⅱが撮った画像が1枚1枚送られてくるたびに、チームメンバーはうれしくて大騒ぎしていました」と先生は振り返ります。喜びが伝わってきますね。

10月25日に着陸の目印になるターゲットマーカーを投下

「当初はこの時にターゲットマーカーを落とす予定はなかったのですが、リュウグウの地形があまりにも厳しかったので、まずはターゲットマーカーだけをきちんと降ろそうと計画を変更しました。このターゲットマーカーがその後のタッチダウン(着陸)の時に大活躍しました」。津田先生は模型を使って説明してくださいました。

ここで、「実際に苦労した」という着陸地点を選ぶ議論を一緒にやってみました。

ターゲットマーカーは狙っていた地点(右図内、左上の円の中心)から15 m離れたところ(TMと書かれた点)に着地。

赤のエリアと、緑のエリア、どちらに着陸しましょうか?

津田先生の「せーの」の掛け声とともに、皆さんに札を上げてもらいました。赤エリアが良いと思う人は赤い札、緑エリアが良いと思う人は青い札です。会場の意見はちょうど半々くらいに分かれました。

「ターゲットマーカーの着地点は、もともと50 mくらいは狙った位置からずれることを想定していたのです。だから、15 mのずれですんだのは技術的には大成功。とはいえ、許容範囲の白い円からは外れてしまっています。赤のエリアは広いけれどターゲットマーカーからは遠く、緑のエリアは狭いけれどターゲットマーカーに近い。どちらもいいし、どちらもダメです。誰も正解がわかりません。プロジェクト内でも意見が分かれました」(津田先生)

議論の末、実際には、ターゲットマーカーに近い方が着陸位置のずれが小さいので、緑のエリアが選ばれました。スラスターを吹く時間が長ければ長いほど誤差が生じやすくなるため、遠くの赤エリアをねらうと誤差が大きくなりかねないからです。

年が明けて、いよいよ2019年2月22日のタッチダウン1回目

"頭はクールに、心は熱く"タッチダウンに挑みます。

「降下中にはやぶさ2が自分の高度を間違って認識するトラブルがあり、予定から5時間遅れました。原因を究明して当初の時間通りにリカバリーしました」と津田先生。

「地上からの信号は間に合わなくなるので、最後のGOコマンドが打たれると、あとは全部はやぶさ2が自分で判断して動く自律運用になります。もうはやぶさ2に任せるしかなく、我々は見守るしかないという状態でした」。当時の緊張感が伝わってきます。

「着陸の瞬間は、はやぶさ2が上昇・下降していることを示す電波の信号しかわからないのですが、後から画像や映像のデータが送られてきて徐々に何が起こったのかがわかってきます。データが届いて喜ぶタイミングが何回もありました」(津田先生)

4月5日の人工クレーター生成実験

「世界初の試みで、小惑星に弾丸を打ち込む衝突器そのものも開発が難しくて苦労しました。小惑星の地下の情報を得られると、格段に情報量が増えます。あわよくば地下の物質も取ってこようという作戦でした」。

その場の雰囲気はどうだったのでしょう?津田先生は「本当は緊張しているのですが、佐伯プロジェクトエンジニアは場を和ませて皆をリラックスさせる努力をしていました」と振り返ります。

7月11日にはタッチダウン2回目も成功

津田先生によると「すでにタッチダウン1回目を成功させているので、もし2回目を行って失敗したら1回目の成果も無駄になってしまうかもしれない。JAXAからは2回目をやるリスクを取ることについて反対する意見もありました。チームメンバーは2回目をやりたいと思っていましたが、事が重大すぎて、チームだけでは決断できない状態、決めてはいけない雰囲気になっていました」といいます。それでも「2か所からサンプルを取れたら、10年20年分、ほかの国よりも先を行ける、工学チームを信頼して任せたいと理学チームも後押ししてくれて、2回目を実現できました」。

そういう事情もあったので「タッチダウン成功がわかった時は本当にうれしかったですね」と先生は当時を振り返ります。「この時の着陸精度(狙った位置からのずれ)は60 cm というすごいものでした」

そして、リュウグウでのすべてのミッションを終えたはやぶさ2は昨年11月にリュウグウを離れ、今地球に向かっています。


津田先生が当時の様子を語ると、参加者は大きく頷きながら聞いていました。いくつもの大変なミッションを行っているのにもかかわらず、チームメンバーはいつもいきいきした表情をしているのが印象的でした。


次の記事では、イベントの後半部分「これからの小惑星探査についてみんなで考えよう」をお届けします。

小惑星探査機「はやぶさ2」地球へ帰還中② 「次」があるなら何をしたい?
https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/202003252-1.html

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