3/8ニコ生オンラインイベント報告

がんとの向き合い方はどう変わる!?AIがもたらす未来の医療とその課題について考えました<後編・アンケートとディスカッション②>

3/8にニコニコ生放送で実施したイベント「どう変わる!?がんとの向き合い方――人とAIでひらく新たな医療」について、3本のブログで紹介をしています。

前編では文部科学省新学術領域研究「システム癌新次元」の代表である宮野悟先生によるプロジェクト紹介、愛知県がんセンター研究所の山口類先生と国立がん研究センターの中田はる佳先生による情報提供をご紹介しました。中編では「AIによる治療薬の提案」についての視聴者の皆さんへのアンケートとディスカッションの結果をまとめています。お時間のある方はぜひ過去のブログもご覧ください。

前編:https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20200828ai38.html

中編:https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20200901ai38-1.html

そして最後になるこの後編では、中田先生のお話を受けてのアンケートになります。

中田先生のお話では、未承認薬を日本で使用する制度があるものの、それが必ずしもメリットばかりではない、ということでした。

イベントの冒頭で、以下の4つの立場になったつもりで後ほど意見をお伺いします、とお話をしていました。ここで皆さまにお聞きしていきます。

まず、設定した状況は、中田先生のお話に出てきた下記のような状況。

使用できる薬を使って治療を行ってきたけれどうまく効果を得られず、残りは新薬候補のZしかありません。

このようなときに、新薬候補Zを使用するかどうかについて自分がそれぞれの立場だったとして考えていきました。

選択肢は3つ、①新薬候補Zを使わない、②新薬候補Zの治験があるなら参加する、③他の方法でも(例外制度を利用して)新薬候補Zを使えるならば使う、として選択していただき、その理由についてコメントをいただきました。

 

まず、患者さんの立場だとすると、あなたはどういう選択をするでしょうか。

アンケートの結果は下記でした。

①新薬候補Zを使わない:19.0

②新薬候補Zの治験があるなら参加する:58.7

③他の方法でも新薬候補Zを使えるならば使う:22.2

 

②が最も多く、半数以上の方が②を選択する結果となりました。

また、視聴者の皆さまからのご意見は下記のようなものがありました。

・藁をもつかむ気持ち

・他の国で承認されているなら

中田先生「選択肢を探し続けるという意味では例外制度を使用したいと思うのかもしれません。また他の国で承認を得ているなら、人間が使ってもある程度は安全であるといえそうなのでチャレンジしやすいのかもしれないですね」

 

・(③について)経済的なところが気になる

中田先生「経済的に患者さんの負担が一番大きいのは例外制度です。あくまでも例外なので保険の制度には当てはまりません。治験は原則として製薬企業が経済的な負担をしてくれるが、それは将来たくさんの人が薬を使うようになり、利益としてかかった費用を取り戻せる見込みがあるからなのです」

 

他にも下記のようなコメントがあがっていました。

 ・それしかないなら多分使う

 ・自分で調べまくって、お医者さんにも聞きまくって考えたい

 ・治験参加もある意味情報共有だからね

 ・経済的な問題になってくると身内にも迷惑をかけることになるから悩みどころ...

 ・2、金銭的な負担が軽く、手段が広がるならば。がんだと将来の経済的安定がわからないのでおいそれと莫大なお金を注ぎ込む勇気はない……

 ・考えられる副作用の度合いにもよるしな

 

今度は患者さんの条件を具体的に設定して考えていきました。

まずはあなたがこのような背景を持つ患者さんだったら。

視聴者からは「保険に入っているかどうか」「働いているなら使う」といったコメントも寄せられていました。費用の面、確かに気になるところですよね。

山口先生「自分に近い状況ですが、自分だったら新薬候補Zにチャレンジするでしょう。医師がどういう判断をしてこの治療法が良いと提案してきたかを聞いて考えたいです」

 

それでは今度は患者さんの設定を変えてみます。

もしあなたが下記のような状況だったら、どのような選択をするでしょうか。

視聴者の皆さまのコメントでは「使わない」という意見が多い様子。

 

・副作用が心配

中田先生「治験だと開発段階である程度副作用が想定されていますが、例外制度だと決められた条件以外の人が使うことになるので想像しにくい副作用が出てくる可能性もあります」

 

この他にも下記のような、たくさんの意見をいただきました。

40代)

 ・つらいなー

 ・金銭的負担の少ない方法を選ぶ....

 ・しかもそれを信頼するか、だね

 ・子どもにお金かかるものね

 

70代)

 ・貯金を医療じゃなくて他の楽しみに使う

 ・本人が嫌がっても、家族が無理やり治療させる場合もある

 ・治験でデータは残したいな

 ・闘病の果てに何があるのかな

 ・自分だったら治験が適用されるなら新薬でもためすなぁ

 ・使わない。その分家族にお金残すかも。

 ・わしゃ生にしがみつく

 

では、次は立場を変えて、患者さんの家族だったらどうするでしょうか。

 

アンケートの結果は下記でした。

①新薬候補Zを使わない:12.8

②新薬候補Zの治験があるなら参加する:59.6

③他の方法でも新薬候補Zを使えるならば使う:27.7

患者さんの立場のときと比較すると、①が減って③が増えたような印象です。②に関しては同じくらいの割合となりました。

 

・本人の意思を尊重する

先生方も納得の様子。同様に考える方は多くいらっしゃるようです。

では、例えば本人が治療を拒否したらどうでしょうか?

山口先生「状況によって、薬の効果と副作用とのバランスで、もしかしたら治療をあきらめる、ということはあり得るかもしれません」

 

・家族だと冷静になれない

宮野先生「自分も家族として経験し、相当に焦りました」

これに関して他の視聴者からも、「(本人は)嫌がっても(家族としては)生きてほしい」など同様な意見があがっておりました。

 

他にも下記のようなコメントをいただきました。

 ・これが一番難しい設問

 ・家族とはいえ選択はしたくないな

 ・本人次第だけど3を選ぶ

 ・自分が働いても3

 ・副作用強そうだとかわいそうになっちゃうし

 ・本人の意思次第はあるけど、方法があるなら最後までしがみつきたいかな

 ・自分の気持ちを無理強いだけはやめて欲しいな

 

さらに立場を変えて考えてみましょう。

今度は病院スタッフだとします。そのとき、あなたはどういう選択をするでしょうか。

宮野先生「同僚の医師と話しますが、大前提として医師の患者を治したい気持ちはもちろんあるものの、病院の経営を維持していくことを考えると、難しい場合もあるのかもしれません」

中田先生「患者申出制度は、申出を受け付けられる病院が決まっているので、研究のできる体制があるかどうかにもよります。一方で、研究計画を作るなどの整備が大変で病院側の負担も大きいのです」

 

さて、アンケートの結果は下記でした。

①新薬候補Zを使わない:4.1

②新薬候補Zの治験があるなら参加する:73.5

③他の方法でも新薬候補Zを使えるならば使う:22.4

他の立場と比べて②が最も多く、①がほぼない結果となりました。

 

・リスクが大きい人には勧めにくい

中田先生「医師としてもできるだけ多くの選択肢を出したいという思いはあっても、状況に応じた提案をしていくということも必要です。人によっては痛みを取るだけの治療を希望される人もいるので、患者の希望は丁寧に聞いていくことになります」

視聴者さんからは下記のようなコメントがありました。 

 ・患者さんの意思を第一に、自分は3を進めると思う

 ・提案するのにも責任が伴う

 ・情報としては3、推奨は2までかな

 ・医療者の立場で、大きなリスクがある3番の選択は難しいと感じた。

 ・お勧めするわけではないが治験がありますよ、ていう言い方もある

 ・それでも救いたいけども、リスクが大きいのは厳しいよなぁ

 ・お金がかかる提案だと、患者の家族関係が崩壊する可能性も

 ・追い詰められている患者だと、どんなにリスクがあってもやるだろうから無責任に提案できん

 

それでは今度は再び立場を変えて、あなたが製薬会社の社長だとします。新薬候補Zの例外使用を希望する患者に、あなたは新薬候補Zを提供するでしょうか?

なお、新薬候補Zには社運がかかっているので無事に承認を待ちたいところなのですが、提供を断ると炎上するかもしれません…

さて、こういう状況で、どのような選択をするでしょうか?

 

アンケートの結果は下のようになりました。

①新薬候補Zの例外使用に協力する:42.0

②新薬候補Zの例外使用に協力しない:58.0

なんと、見事に半々に分かれました。患者さんを助けたい気持ちはもちろんあるものの、副作用や炎上のリスクを考えるとなかなか難しいですよね…。

 

・炎上が怖い

中田先生「実際にアメリカで炎上した例があるのです。ある難病を持つお子さんを助けるために、家族が薬を探し回る中で製薬会社に例外制度の使用を申し出たが断られてしまい、SNSでキャンペーンを行って製薬会社に圧力をかけた、という事例がありました。

この事例では結果的に治験を行うことになったのですが、ソーシャルメディアが発達している現代において、例外制度への協力を断ると製薬企業の社会的な評価を下げかねないのです」

宮野先生「別の事例ですが、白血病の研究をしていた研究者が白血病にかかってしまい、治療後に再発をしてしまいました。治療法がなく、生きられる可能性もわずかな中、遺伝子を調べて問題があると思われる変異を見つけました。それに効果のある薬があったものの、それは腎臓がんの薬。1日で330ドルほどととても高額ではあるものの、生き延びる可能性にかけこの薬を使い始めたところ効果は出てきたのです。

しかしお金が続かないため、製薬会社に連絡をして『腎臓がんの薬だけど白血病の自分にも効果がありそうだ。研究として記録をしていくので、支援をしてもらえないか』とお願いをしたのですが、断られてしまいました。しかし、彼の研究室のボスが『研究費を出すから続けよう』と支援してくれて薬を使い続けることができ、彼も薬のおかげで元気になりました。そして元気になった彼がメディアに出てこのことを話すと、製薬会社は『ぜひ協力させてほしい』と言ってきた、といったこともありました」

これらの実際にあった事例のお話を聞くと、いろいろ考えてしまいますね…。そしてSNSが発達した現在、良くも悪くも情報が一気に広まっていき、社会的な評価が下されてしまうということが実感できるお話でした。

 

なかなか考えることが難しかったこの立場、他には下記のような意見が出ていました。

・誓約書必須じゃないと、提供するリスクもとりにくい

・断らないで副作用出てもなー

・失敗しても炎上しそう

・創薬側も利益もほしいだろうけども、治す薬を届けたい気持ちもあると思うよ

SNSのことを考えたら何もできなくなりそう

・それで助かる人がいるのに、薬を出さずして見捨てることは、薬を作る意味がないと個人的に思う

・提供して実績が出れば企業イメージも良くなるかも、難しいけど

・社長は社員の生活を守らないといけないな

・希少疾患なら、とはちょっと思うけど

・患者さんの気持ちはわかるけど、医療者側にすべての負担が行く図式はなんとかならないかなー

・製薬会社名を伏せて提案するってできないのかな

・薬も大事だけど気持ちを上げる事はもっと大事

 

さて、ここまで3回のブログでイベントの様子をお伝えしてきました。

AIを使うことで医療の発展が期待される一方で、そこに至るまでには課題もまだまだあります。また、立場によってはAIからの提案に対する選択も変わりうる中で、一つの結論を出すことはとても難しいでしょう。

答えの出しにくい難しい内容だったとは思いますが、皆さまのコメントから、必死に悩み考えてくださっている様子が伝わってきました。すべてのコメントを紹介できないことが本当に残念ですが、イベントやこのブログで私と一緒に悩み考えてくださった皆さまに心より感謝しております。

今や2人に1人はがんにかかると言われている中で、自分や周りの人がいつがんにかかってもおかしくはありません。自分が当事者になったときの将来のがん医療について、このイベントで少しでも考えることができたなら幸いです。

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