研究エリア公開ミーティング vol.2 議事録

今だからこそ考えたい!「コミュニケーションに"顔"は本当に必要だろうか?」

マスクをつけながらの会話や、オンライン会議……。新型コロナウイルスの影響で、お互いの顔が十分に見えないコミュニケーションの機会が増えましたね。みなさんは慣れましたか?

実はこのテーマについて、87日(金)のオンラインイベント「研究エリア公開ミーティングvol.2 コミュニケーションに“顔”は本当に必要だろうか?」にて熱い議論が行われました!

  イベントの紹介ページはこちら
  https://www.miraikan.jst.go.jp/events/202008071467.html

イベントにお呼びしたのは、未来館の「研究エリア」に所属する二人の研究者。アンドロイドをはじめとする人間型ロボットの開発者である石黒浩先生と、五感を通したコミュニケーションを研究する心理学者の田中章浩先生です。お二人の研究分野は異なりますが、顔やコミュニケーションにまつわる研究をされているという意味で、実は共通点があるのです。このブログでは、先生方のお話で特に印象に残ったことを紹介します!

  未来館の研究エリアについてはこちら
  https://www.miraikan.jst.go.jp/research/facilities/

顔が見えないことは、悪いことだけじゃない!

よりよいコミュニケーションをとるには、お互いの顔が見えていたほうがいいのでは……。私はそのように考えがちでした。しかし「顔が見えないことは何より楽だし、脳にも負荷をかけずに済むこともあるんです」と田中先生。相手の顔を見ながらの会話というのは、話の内容だけでなく、相手の表情や視線といった様々な情報を同時に受け取り、脳で処理をしなければならない状況です。しかし顔が見えない状態ではその必要がありません。脳のリソースが余ることでリラックスができたり、コミュニケーションの内容により集中できたりするかもしれません。

また、「顔の見え方」にも私たちのコミュニケーションを左右する要素があるようです。石黒先生からは「顔の圧力」という何とも印象的なワードが! リアルな空間で会っているなら、何となく目をそらしたり、相手との距離を調整したりできますよね。しかしオンライン通話ではふつう画面いっぱいに相手の顔が映ります。自分の視野の多くを相手の顔が占めることになり、相手の「顔の圧力」が眼前に迫ってくる……ある意味で「暴力的で健全ではない状況だ」と石黒先生は言います。

なるほど、相手の顔が見える、見えないという単純な二元論ではなく、それぞれの状況に適した「顔の見え方」があるようです。

イベント中にも、田中先生がカメラに近づかれたときには距離感が急に変わってちょっとびっくりしました (笑)
まさに「顔の圧力」! ナイスな実演、ありがとうございます!

コミュニケーションは想像が大半!

「顔の見え方」が少し変わるだけでもコミュニケーションの内容が左右されるという話に続き、石黒先生からは「そもそも実際に“何を見ているか”よりも、頭の中で“何を想像しているか”が大事なんです」という、さらに印象的な発言が。もちろん表情のような視覚情報はコミュニケーションを行ううえで大事な要素ですが、そもそも私たちのコミュニケーションは、相手から受け取った情報を自分の「想像」というフィルターを通して解釈することで行われているという大前提があります。

たとえば相手の表情が見えないなど「情報が足りない」状況では、私たちは想像によって不足部分を補います。そのとき、たいていは自分に都合のいい想像、つまりポジティブな想像をするのだと石黒先生は考えます。この話を受けて視聴者からは、スキー場でゴーグルをつけた状態や、剣道の面をかぶった人がカッコよく見えるといったコメントがありました。確かに、私たちは顔の見えないパーツを無意識に想像で補っていますが、その想像はポジティブなものに偏っているのかもしれません。もはや「コミュニケーションのほとんどは想像だ」というのが石黒先生の主張です。

どうでしょう………カッコよく見えますか?

石黒先生が開発した「ハグビー」には、このような想像の余地、つまり私たちが相手について足りない情報を想像で補うという特性が活かされています。ハグビーは、人間をイメージさせる最もシンプルな形状をしており、クッションのようにやわらかい素材でできています。使い方は、頭部のポケットに携帯電話などを入れて、ハグビーを抱きながら通話をします。すると相手の声を聞き(聴覚)、相手に触れているような感覚(触覚)を覚えることで、相手の存在を感じることができます。

ハグビーを使っている様子

これを子どもたちに体験させ、その様子を絵に描いてもらったところ、子どもたちはハグビーにはないはずの目や鼻を書いていたというのです。これはまさに見えない部分を “想像している” 証拠! ハグビーの場合は、聴覚と触覚の2つの感覚によって相手の存在を感じさせています。このように人間の存在感を出すために使われる感覚は、1つではダメで2つ以上は必要とのこと。しかしその数も多ければ多いほどよいのではなく、人それぞれの状況や目的によって必要な情報量が異なるということは、石黒先生も田中先生も同感のようでした。

組み合わせの妙

イベント終盤の議論は、顔や表情の枠を超え、声も含めたさまざまな感情表現の話に。田中先生は、「組み合わせの妙」にこそ人間らしさがあると言います。私たちの感情は、目や口といった顔の表情だけでなく、声色、ジェスチャー、相手との距離などの組み合わせによって表現されます。さらに、視線を向けてすぐに話しだすのと、じっと見つめた後に話し始めるのでは相手が受け取る印象も異なるなど、時間的な要素もあります。

こういった各種の情報の絶妙なバランスが私たちの表現をつくりだしているのですが、オンライン通話の場合では声の遅延などのわずかなズレでバランスが崩れ、コミュニケーションの内容に大きく影響しているようです。そしてコロナ禍はこのようなコミュニケーションの問題を深く調べるには適した機会だと田中先生は話していました。

オンラインでよくある、画像がガクガクしたり声が遅れることも、コミュニケーションの内容を左右するのですね!

石黒先生からは「基本的に人間は、いいことしようとしたり、ずるいことしようとしたりと多重人格的なところがあって、その葛藤の結果として自分の行動を決めている」という指摘がありました。その結果として「目は怒っているが口は笑っている」のような、感情の混ざった表情が現れるといいます。実際にこのような表情をアンドロイドにさせると、より人間らしく見えるのだそう。

先生方のお話をお聞きして、ふだん何気なくしている感情表現にこんなにも多くの要素が関わっているのだと、私は大変驚きました!

おわりに

今回のコミュニケーションにまつわる話題の数々は、科学「コミュニケーター」の私としては肝に銘じておかなくてはいけないことばかりでした。このイベントをご覧になった方は、私たちが日々行っているコミュニケーションの奥深さに改めて気づかれたのではないでしょうか?

ブログではご紹介しきれなかったお話も多くありますので、まだご覧になっていない方はぜひアーカイブ動画で先生方の対談をお楽しみください!

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