みなさん、こんにちは!
科学コミュニケーターの山川です。
日本科学未来館は3月3日に新常設展示「“ちり”も積もれば世界をかえる –宇宙・地球・生命の探求」をオープンしました!
この展示は好奇心によって突き動かされた人類の営みである科学と、私たちの世界像の更新との関わりについて思いを巡らすことができる展示です。展示では今もまさに新たな発見を生み出そうと挑み続けている研究例として、地球深部探査船「ちきゅう」、小惑星探査機「はやぶさ2」、大型電波望遠鏡「アルマ」を紹介しています。
新展示のくわしい紹介もしたいところなのですが、今回のブログでは展示を見る前に知っておくとより楽しめる情報を、公開に先立って行われた内覧会の内容を踏まえて紹介します!
内覧会では、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の江口暢久氏、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の吉川真氏、国立天文台の平松正顕氏を講師として迎え、それぞれ新展示に関連して「ちきゅう」、「はやぶさ2」、「アルマ」のプロジェクトの概要をお話いただきました。
地球深部探査船「ちきゅう」の挑戦
「地球の深部には何があるの?」「生き物が生きられる条件は?」といった大地や生命の謎に、海底下の地層サンプルを採ってくるという手法で挑み続ける地球深部探査船「ちきゅう」。展示では、船体とドリルパイプの1/2000模型や、海底下の掘削に使用したドリルビットの実物から、「ちきゅう」の挑戦の壮大さも体感いただけます!
地球深部探査船「ちきゅう」で掘り進め!未来のサイエンス
海洋研究開発機構JAMSTEC 江口 暢久氏
「ちきゅう」はドリルで海底を掘り進み、地球深部のサンプルを採取できる調査船です。1950年代終わりから60年代初頭、地球の表面を覆う地殻の下にあるマントルへの強い好奇心をもったアメリカの海洋研究者たちは、科学的な調査のための深海掘削を始めました。海洋は陸上よりも地殻が薄いので、海洋掘削はマントルまで掘る距離が短くてすむという利点があります。
マントルを知るために海底から掘り進もうと発案した一人であるウォルター・ムンク氏は、90歳を超えてからヘリコプターに乗って「ちきゅう」をわざわざ訪れ、「この船でしっかりやってくれ」と思いを託しました。海洋掘削計画は、アメリカの宇宙計画の時期と重なったり、冷戦の影響を受けたりして中断することもありましたが、プロジェクトの形を変えながら、現在も国際深海科学掘削計画という名で続いています。始まった当初はマントルまで掘ることが目的でしたが、海洋底の掘削からは地球や生命について様々な知見がもたらされることがわかり、現在は目的も多岐にわたっています。日本は1975年からプロジェクトに参加し、2005年には「ちきゅう」を就航させました。現在は、アメリカの船、日本の船「ちきゅう」、ヨーロッパの船の3隻で世界中の海で科学掘削を行っています。「ちきゅう」はこれまで、日本の近海の様々なところで掘削を行ってきました。
「ちきゅう」の掘削が導いた大きな成果の一つに、震災後に行った東北地方太平洋沖地震調査掘削での断層研究があります。そこでは、津波を引き起こした断層は非常に滑りやすいものでできており、温度から摩擦を計算するとスキー板と雪の間程度の摩擦しか生じていなかったことがわかりました。
「ちきゅう」の活動は、防災という意味でも、私たちの世界観を広げる活動という意味でも、今後も目が離せませんね!
小惑星探査機「はやぶさ2」の挑戦
「地球はどうやってできたの?」という大昔から人類が抱いてきた謎。この謎に迫る一歩として、「はやぶさ2」が小惑星のカケラを持ち帰る挑戦をしました。小惑星は太陽系ができた初期の状態が保持されていると考えられています。展示では、ミッションの中で小惑星の人工クレーター生成に使用した爆薬部や再突入カプセルの模型を間近で見ることができます。
小惑星探査機「はやぶさ2」の成果と今後
宇宙航空研究開発機構JAXA 吉川 真氏
「はやぶさ2」は「はやぶさ」に続き世界で2番目の小惑星サンプルリターンに挑みました。挑んだ星はリュウグウという炭素を含んでいる小惑星です。この計画では、太陽系初期の有機物、つまり生命に関係するような物質を調べたいというのが最も大きなテーマです。また、「はやぶさ」での経験を生かして、小惑星との往復を確実に行う技術の確立も工学的な大きなテーマでした。これまでに月より遠くの天体へ行き、着陸をしてから戻ってきた探査機は「はやぶさ」だけだったことから、これは日本が誇れる技術と言えます。「はやぶさ2」は小惑星滞在の504日の間に、ローバーや着陸機の分離、平らな広い場所がない中でのタッチダウン、世界初の人工クレーター生成、地下物質を採取するためのタッチダウンなど、様々なミッションを成功させました。映像などの分析から、リュウグウはがれきの寄せ集めのようなラブルパイルという構造をしていること、そろばんの玉のような形をしており昔は自転周期が短かったと予想されること、表面の岩石には水が含まれていることなどがわかっています。さらに、昨年12月には無事に再突入カプセルが地球に帰還し、合計5.4gのサンプルが手に入りました。今後、国内外での分析が進みさらに新たな知見が得られるでしょう。また、「はやぶさ2」本体は更なる探査として「1998KY26」という天体に向かい、新たな知見をもたらすことが期待されます。
探査機「はやぶさ2」に詰め込まれた正確性が高い技術にも驚きでしたが、今後の分析から得られる理学的な成果にも期待が高まります!
大型電波望遠鏡「アルマ」の挑戦
「空の向こうには何があるんだろう?」「銀河や星はどうやって生まれたの?」みなさんも空を見上げながらこんなことを考えたことがあるかもしれません。これらの謎にアルマ望遠鏡は、目では見えない宇宙から届く電波を観測するという手法で挑んでいます。12mの巨大な望遠鏡に組み込まれた数㎜の小さな超電子回路というスケールの差も展示で体感してみてください。
暗黒の宇宙に私たちのルーツを探る アルマ望遠鏡
国立天文台 平松 正顕氏
アルマ望遠鏡は日本を含む22カ国・地域の国際チームが運営している南米チリに建設された電波望遠鏡です。宇宙には大きさ1㎛にも満たない星間塵や、星や生命の材料にもなるかもしれないと考えられている星間分子や星間原子などの小さな物質が存在しますが、これらの物質の温度は-260℃程度と非常に低く、光を出すことができません。しかし、微弱な電波は出していて、アルマ望遠鏡ならばその電波をとらえることができます。そこから新たな情報が得られるはずです。アルマ望遠鏡が挑んでいる謎は「銀河はどうやって生まれたのか?」「惑星はどうやって生まれたのか?」「生き物の材料は宇宙にあるのか?」の大きくわけて3つです。2011年の観測開始からの10年間でアルマ望遠鏡は天文学を大きく発展させてきました。例えば、アルマ望遠鏡は若い星の誕生の現場を詳細に見ることが得意です。それまでの望遠鏡では、星ができている周りに惑星の材料になるちりが集まっていることは観測できても、ぼやけてしまいその構造は見て取ることができませんでした。一方、アルマ望遠鏡で同じ星を観測すると、ちりが形成している円盤の模様がくっきりと見え、分布が明らかになりました。ちりの分布が詳しく見えると、そこには分布に多様性があることがわかり、「何が要因となっているのか?」という新たな好奇心も生まれています。そのほか、有機分子の検出や、遠い昔にできた銀河における分子の検出などにおいてもたくさんの成果をあげています。今後は性能を徐々に上げながら観測を続けていくという計画もあります。
遠い星の誕生の現場や、生き物の材料の起源など、長年人類が抱いてきた謎が少しずつ明らかになるのはワクワクしますね!さらに性能を上げる計画があるというのも非常に楽しみです。
今回ご紹介した内容は「ちきゅう」「はやぶさ2」「アルマ」の活動のほんの一部にすぎません。展示では、皆さんをワクワクさせる仕掛けをたくさん用意して、これらの研究について紹介していますので、ぜひ展示も体験しにきてください!
最後に、もう一つ展示に関する情報として、内覧会で館長(当時)の毛利衛が語った新展示に込めた想いを紹介します。
毛利より新展示に込めたメッセージ
「科学は周りのことをきちっと理解するという意味で役に立つ」
新展示には皆さんに改めて基礎科学の価値を考えてほしいというメッセージが込められています。毛利は、科学界を含む社会全体で短期的な利益をもたらす活動が重要視される傾向が強いことを指摘し、様々な視点をもって価値を考えることの重要性を再認識してほしいと強調しました。さらに、科学は基礎であろうと応用であろうと関係なく、周りのことをきちっと理解するという意味で役に立ち、そういった長年の科学の積み重ねによって私たち人類は生き延びてくることができたのだと話しました。
また、科学を進めるうえでの駆動力にもなっている、人間に特徴的な「好奇心」にも触れ、本展示はそういった人間の根源にも関わっていると紹介しました。
今回の展示は、これまでの未来館の展示とは少し違って「科学とはどんな営みなのか」ということを表現しています。研究の駆動力となっている好奇心は、皆さんが日ごろ抱いている好奇心ともつながりがあるかもしれません。ぜひ、展示を見て今後の科学はどうあるべきなのかを考えてみてください。
考えが浮かんだら科学コミュニケーターがフロアにいますので、話しかけてくださいね!