火星探査機パーシビアランス、探査スタート!【後編】

知ってそうであまり知らない?おとなりの惑星「火星」

©NASA/JPL-Caltech/ASU/MSSS

419日(月)、NASA(アメリカ航空宇宙局)の火星探査機パーシビアランスに搭載されていたヘリコプター「インジェニュイティ」が火星の空を舞いました。火星飛行の成功がわかると、NASAのスタッフルームには拍手と共に、大きな歓声が響き渡りました。世界初のその偉業はYouTubeで全世界へと生配信され、スタッフの方々の歓喜する姿に私の胸も熱くなりました…!

“創意工夫”という意味の名前をもつ「インジェニュイティ」はその後も幾度と飛行を成功させ、パーシビアランスの探査も順調に進んでいるようです。最近では、中国の探査機も無事火星に着陸したこともあり、世界中から火星への注目が集まっています。

火星と地球の似ているところ、違うところ

さまざまな探査機によって調査が行われている火星は、将来有人探査も予定されています。有人火星探査といえば、2016年に公開された映画『オデッセイ』を思い出される方もいるでしょうか。火星にひとり取り残された主人公が、植物などを育てながら懸命に生き抜くストーリーです。作中では、巨大な砂嵐に見舞われる場面もありましたが、そもそも火星ってどんな天体なのでしょうか。

今回は、知ってそうであまり知らない「火星」について、地球と比較しながら5つの観点(気温、1日と1年の長さ、大気、気象、空の色)でご紹介します。

もし、人が火星に行くとしたら…そんなことを想像しながらご覧ください。

気温

火星の平均気温は-63℃、最高気温と最低気温はそれぞれ30℃と-140℃です。地球は平均約14℃ですから、決して住みやすい天体とはいえません。外を出歩く際には、念入りな防寒対策をお忘れなく!

(©NASAの画像に、温度の書き方を筆者が一部修正)

パーシビアランスには、大気中のチリや天気を観測する装置が搭載されており、現地の天気のようすが地球へと日々届けられています。この観測技術は、将来有人探査における天気予報にも役立てられると考えられています。火星の大地で「今日は良い天気~」と大きく背伸びをするのは、一体どんな天気の日なんでしょうね。

パーシビアランスがいるジェゼロ・クレーターの天気はこちらから(https://mars.nasa.gov/mars2020/weather/

1日と1年の長さ

火星の1日は、Sol(ソル)という単位を使って表します。地球の1日は24時間なのに対し、火星の場合は1Sol=約24時間37分です。地球よりも1日が40分ほど長めです。さらに、1年の長さは687日で、地球とは2倍近く異なります。ちょっと気がかりなのは、40分延びた分の時間の使い方です。お仕事の時間が増えるのか、それともプライベートな時間が増えるのか…私は後者を強く希望します。だって…火星で遊びたいから!

火星には、季節もあります。地球と同じように地軸を傾けながら太陽の周りを公転しているためです。楕円軌道を描くため、それぞれの季節の長さは異なります。現在パーシビアランスは、最も長いシーズンである春を満喫中とのこと。

地球と火星の半径はそれぞれ6,378.1kmと3,396.2km
長い春、何して過ごす?

大気

大気はとても薄く、大気圧は地球の約1/160です。そして、その薄い大気の96%を占めるのが二酸化炭素。パーシビアランスに搭載された装置MOXIEは、約1時間かけて大気中の二酸化炭素から約5.4グラムの酸素を生成するのに成功しました。宇宙飛行士が約10分間活動するのに必要な酸素量に相当するのだそう。今後、複数名の宇宙飛行士による滞在を想定すると、大量の酸素が必要です。猫の手も借りたい、ならぬ、植物の手も借りて酸素を作り出す循環システムが必須になりそうです。

気象

火星では、ドライアイス(二酸化炭素の氷)の雲や水が氷となってできる雲が発生したり、風も吹いたりします。さらに、「ダストストーム」と呼ばれる砂嵐が頻繁に発生します。地球でも砂嵐は発生しますが、火星の巨大なものだと、まき上げられたチリや砂が火星全球をおおってしまうほどです。かつて、そのような巨大砂嵐が原因で、火星探査機オポチュニティは太陽光パネルでの十分な発電が行えず、長い眠りから目を覚まさなかったということもありました。

2018年に発生した巨大砂嵐の前(左)と後(右)(©NASA / JPL-Caltech / MSSS)

空の色

下の画像は、パーシビアランスから届いた火星のようすで、地面も空も赤っぽい色をしています。地面の色が赤っぽいのは、酸化鉄(赤さび)を含む土や岩石におおわれているためです。ではなぜ、空は地球のように青色をしていないのでしょうか。

よく眺めてみると、空飛ぶインジェニュイティが!(©NASA/JPL-Caltech)

太陽から届く光はさまざまな波長を含んでいます。その光が、大気中にある窒素や酸素などの小さな分子にあたると、進む方向が曲げられる散乱という現象が起こります。散乱の起こりやすさは光の波長によって異なり、波長の長い赤色よりも短い青色の方が散乱されやすい特徴があります。

ではここで、月と地球の空を考えてみましょう。月にはほとんど大気がありません。そのため散乱が起きず、太陽があたる時間帯でも空は黒く見えます。一方、地球の日中の空は青色をしています。それは、散乱によってあちこちで進路を曲げられた青色の光が目に届くためです。

日中の空(参考文献「光とは何か」の作中の図をもとに筆者が作成)

地球では、夕暮れになると空は赤く色づきます。日中に比べると太陽の高さは低くなり、太陽の光が目に届くまでにより長い距離の大気を通過する必要があります。波長の短い光は、太陽に近い大気で散乱されてしまいますが、波長の長い赤色の光はほとんど散乱されずに目に届きます。そのため、夕暮れの空は赤く見えるのです。

夕暮れ時の空(参考文献「光とは何か」の作中の図をもとに筆者が作成)

火星の話に戻りましょう。火星の大気は地球に比べて大変薄いため、大気分子による散乱は地球ほどは起こりません。しかし、大気中には風によって巻き上げられたチリが多く含まれています。粒の大きさは大気分子よりもはるかに大きく、その粒子サイズだと波長の長い光は散乱されやすく、反対に波長の短い光は散乱されづらいという特徴があります。ですので、火星の空の色は地球とは反対に、昼間は赤っぽく、夕暮れは青く色づいて見えるのです。

♪~夕焼け小焼けで日が暮れて~・・・“青色”の夕焼け、いつか自分の目で見てみたいものです。

2015年に火星探査機キュリオシティがとらえた火星の夕日(©NASA/JPL-Caltech/MSSS/Texas A&M Univ.)

NASAでは、さまざまな天体で日が沈むようすのシミュレーションを行い、結果を公開しています。金星や天王星、土星の衛星タイタンでは、どんなふうに空が移り変わっていくのでしょうか…

©NASA's Goddard Space Flight Center

火星を知ることは、地球を知ること

火星探査は、火星という天体の謎を解き明かすと共に、私たちが住む地球の理解にもつながるといわれています。多くの自然の中で、多種多様な生き物が命をともにしている天体は、今のところ地球だけです。当たり前のようで、決して当たり前ではない地球の豊かさを、いつまでも絶やすことなく存続させるために、私たちには何ができるのでしょうか。時折、火星や他の天体に目を向けて地球と比べてみることも、地球を豊かに保ち続けることの一歩になるかもしれませんね。


おまけ ~地球からはなれた場所で暮らすために、必要なものは~

火星に人が行くとなると、往復2~3年はかかるといわれています。数日で行き来できる月とは大きく異なり、長い旅路になります。皆さんがもし、火星をめざす宇宙飛行士だったら、水や食料以外に何を持って行くでしょうか。

2年前、よく似た質問「月に1年住むとしたら何が必要になるか?」を来館者に投げかけたことがありました。「友達」「インターネット」などいろんなご意見がある中で、ある男の子は「青い空、天気」と答えました。理由は、大気のない月面で空を見上げると真っ暗で、時間の感覚や生活リズムが崩れてしまいそうだから、だそうです。火星に行けば空の色の移り変わりはあるものの、長い旅路の中では青空が恋しくなりそうです。

例えば、この写真のように宇宙船の中から天窓のように青空が見えたとしたら、少しは青空ロスが和らぐでしょうか。

(©三菱電機照明)

じつはこの青空、本物の空ではありません。三菱電機が開発した青空照明®misola(みそら)」というLED照明です。misolaは、特殊な「散乱パネル」を用いることでLEDからの光を散乱させ、まるで本物のような青空を表現することができます。なんと、日の出から夜までの空の移ろいも表現することも可能です。

そして最近、未来館の窓のない部屋にもmisolaが設置されました!スタッフしか入れない場所なので、みなさんに代わって潜入してきました!

見上げると、そこには澄み渡る青空

まさに、普段見ている青空そのもので、興奮のあまり「青空だ、青空だ!」とジタバタはしゃいでしまいました。長い旅路にこれを持って行けたとしたら、どれだけ宇宙飛行士の心を癒すことができるでしょうか。

misolaは、東京都銀座にある三菱電機イベントスクエアMEToA Ginza(メトアギンザ)内「HOPE FOR UNIVERSE 人々の願いを、宙から叶える物語。」にも展示されており、どなたでも無料で見ることができます。室内に広がる青空を全身で感じながら、火星への長い旅路の中で必要なものをちょっと想像してみませんか?

※「HOPE FOR UNIVERSE 人々の願いを、宙から叶える物語。」の開催期間は2021127日~629日(火)予定

 開館日時の最新情報についてはMEToA Ginzaサイト(https://metoa.jp/)にてご確認下さい。

【参考文献】

1) 江馬一弘,光とは何か,宝島社新書,2014.

2) 的川泰宣,新しい宇宙のひみつQ&A,朝日新聞出版,2014.

3) 三品隆司,調べる学習百科 火星を知る!,岩崎書店,2018.

関連リンク

火星探査機パーシビアランス、探査スタート!【前編】
最新情報もお届け!パーシビアランスを深掘りしてみよう!
https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20210319post-404.html

NASAのMars Facts https://mars.nasa.gov/all-about-mars/facts/

NASAのScientist Simulates Sunsets on Other Worlds
https://www.nasa.gov/feature/goddard/2020/nasa-scientist-simulates-sunsets-on-other-worlds/

三菱電機イベントスクエアMEToA Ginza「HOPE FOR UNIVERSE 人々の願いを、宙から叶える物語。」  https://metoa.jp/event/hope-for-universe/

三菱電機「青空照明misola」
https://www.mitsubishielectric.co.jp/ldg/ja/lighting/products/fixture/misola/introduction.html

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