来館者と展示、来館者どうしを「つなぐ」ということ ~1日科学コミュニケーター体験

みなさん、はじめまして! 20234月から未来館で働きはじめた、科学コミュニケーターの加藤昂英(かとうたかひで)です。どうぞよろしくお願いします。

 

さて、いきなりですがみなさんに質問です。さきほどさらっと「科学コミュニケーター」といいましたが、一体何をしている人でしょうか? 「以前話したことがあるから知っています!」という方もいると思いますが、そうでないとあまりピンとこないかもしれません。そこで、科学コミュニケーターの仕事を体験できる小学校高学年向けの夏休みイベントを、同期の科学コミュニケーター3人とともに行いました。

 

イベントの詳細はこちら:https://www.miraikan.jst.go.jp/events/202308053026.html

 

このブログでは、以下に示した実際のイベントの流れに沿って、当日の様子をお届けします。

  • 科学コミュニケーターのことを知ろう!
  • 来館者との対話にチャレンジしよう!
  • 体験したことを発表しよう!

科学コミュニケーターのことを知ろう!

まずイベント参加者に、このブログの冒頭と同じく「科学コミュニケーターって、何をしている人だと思う?」と聞いてみました。そこでは、

 

「科学のことを教えてくれる人」

「展示をわかりやすく紹介してくれる人」

「来館者の質問に答える人」

 

など、さまざまな考えが出ました。しかし、科学コミュニケーターの仕事はそういった「来館者に科学や展示について教える」ことだけではありません。

 

未来館の科学コミュニケーターの一番大切な仕事は、来館者と未来のことを語り合う、すなわち対話をすることです。そのためには来館者に科学や展示について教えることもありますが、来館者が展示から何を感じたか、その背後にどのような考えがあるのかを聞き出したり、「もしこのロボットをプレゼントすると言われたら受け取りますか?」などと問いかけながら、たくさんの来館者と考えを深めたりもしています。つまり、来館者と展示、来館者どうしのあいだをつなぎながら対話をしているのです。この話を聞いた参加者は驚きつつも、実際に科学コミュニケーターの様子を観察することで腑に落ちた様子でした。

自分とほかの人がもつ考えの違いから、議論が盛り上がることもしばしば

では、具体的にどのような流れで対話をしている、つまり未来のことを語り合っているのでしょうか?

 

もちろん科学コミュニケーターの数だけ方法はあるのですが、今回のイベントの参加者には来館者や展示のことを知ったうえで未来のことを語り合ってもらうべく、次の3つのステップを踏んで対話にチャレンジしました。

 

① 共感:展示を見て、自分と来館者が感じたことをそれぞれ共有する。

② 解説:展示のことを整理して来館者に伝える。

③ 対話:来館者への問いかけを通じて、未来のことを語り合う。

来館者との対話にチャレンジしよう!

イベントでは参加者に、展示物「パロ」、「オトナロイド(11月中旬まで展示中)」、「どうする!? プラごみ(現在は展示終了)」のなかから1つを担当してもらい、さきほどの①~③に沿って話したい内容を準備してもらいました。③の問いかけをつくるのは難しいかも……と考えて、問いかけの候補をあらかじめ用意しておいたのですが、それがなくてもおもしろい質問を考えたり、どんどんアレンジしたりと、参加者の豊かな発想力に驚かされました。

「このオトナロイドをどんなところで使いたいですか?」

準備ができたら、いざ実践! 実際に展示の前で来館者との対話にチャレンジしました。最初は緊張した面持ちでしたが、慣れてくると自分から積極的に話しかけることができるようになりました。10人以上の来館者と対話しながらアンケートを取ったり、その場の対話に応じてアドリブの問いかけを入れたり、海外からの来館者に英語で話しかけにいったり……。さまざまな工夫をしながら、自分にしかできない対話を行っていました!

体験したことを発表しよう!

チャレンジのあとには、来館者との対話を再現したミニ対話劇をやってもらいました。これは自分が行った対話を振り返り、ほかの参加者や保護者に共有することを目指しています。発表された個性的な対話の数々に、ほかの参加者や保護者だけでなく、私たち科学コミュニケーターも学ぶことが多くありました。ミニ対話劇の後に語ってもらった感想からは、

 

「大変だったけどおもしろかった」

「最初の声がけが難しかった」

 

などと、来館者と対話する楽しさと大変さを実感していることがうかがえました。

「この巨大ゴミ箱の中には、日本に住んでいる1人が1年間に出すプラごみが入っています!」

イベント後に行ったアンケートで改めて、「科学コミュニケーターって、何をしている人だと思う?」と聞いてみました。

 

「ただ科学について話すのではなく、自分の意見や、相手の意見を聞いて、よりお互いに理解を深めていく」

「説明もするけど問いかけもするし、一方的ではなく来館者と対話する」

「説明するだけでなく相手と対話して問いかけもする人。相手と話しあうというのがびっくりした」

 

イベント開始時に聞いたときよりも詳細に書かれていただけでなく、「来館者と展示、来館者どうしのあいだをつなぎながら対話をしている」という、科学コミュニケーターの仕事への新たな気づきや驚きが記されていました。

みんな本当によく頑張りました!

来館者と展示、来館者どうしを「つなぐ」ということ

今回のイベントで参加者は、まず科学コミュニケーターのことを知り、次に科学コミュニケーターとして対話にチャレンジしました。ふだんと違う慣れない立場での経験に大変さを覚えつつも、展示を起点に科学のことや来館者のことを知り、自分の視野が広がっていくことに面白さを感じているようでした。

また私自身も、イベントをつくる過程や当日の参加者の様子から、なぜ科学コミュニケーターは「つなぐ」のかについて気づきがありました。「つなぐ」ことは、自分の知らない世界にふれること。そこから自分や来館者の考えが深まり、視野が広がっていきます。そしてこれは、さまざまな立場・考えの人とともに過ごすためには欠かせませんし、今回のイベント参加者の様子を見ていると、それってとても大変だけど実は面白いことなのかもしれません。未来館に訪れるさまざまな人との「つながり」を大切に、これからも科学コミュニケーターの仕事に取り組んでいきます。

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