みなさんは「伝えたいことがあるのに、うまく伝わらない……」と感じた経験はありませんか?
言葉が少し足りなかったり、相手との前提がちがっていたり、そのもどかしさは、きっと誰もが一度は味わったことがあるはずです。私自身も、これまで何度も「ちゃんと伝えたつもりだったのに、思うようには伝わっていなかった……」と感じてきました。
伝える方法は、本来ひとつではありません。見てわかること、聞いてわかること、触ってわかること、体で感じてわかること。人によっても状況によってもぴったりの伝え方は異なるはずです。
そうした「ちがい」を前提に、表現のしかたを工夫したものがあります。そのひとつが「さわる絵本」です。絵本の内容をさわって感じ取れるよう、さまざまな工夫が施されています。
さわって読むための工夫
写真は点字付きさわる絵本として販売されているもののひとつです。点字だけでなく、イラストや文字の上に樹脂インクで盛り上げた印刷が施されています。目で見る子も、さわって読む子も、同じ絵本をいっしょに楽しめるようにつくられています。
さわってわかりやすいように細かな工夫もたくさんあります。例えば、上の写真のぞうくんの足に注目してみてください。元の絵では2本の足がくっついて描かれていますが、樹脂インクの印刷では2本の足が分かれて表現されています。これはさわった時に1本の足だと思ってしまわないようにするための工夫です。
このように絵をさわれるイラスト(触図)にするときには、ただ立体的にすればよいわけではなく、さまざまな点が考えられています。たとえばキャラクターがたくさん登場するイラストでは、すべてを触図にしないこともあるそう。情報が多くなりすぎると、かえって読みにくくなってしまうことがあるためです。
また、触図同士の配置にも配慮がされています。下の写真の触図では桜の木が描かれていますが、さわった時に花と枝が別のものとわかるよう、あえて離して表されています。枝はぽつぽつとした触り心地で表されていて、花とは異なる触感になっています。これもまた工夫のひとつです。
他にも元のイラストよりもよりシンプルなものにしたり、小さいイラストはあえて大きく表現したりすることもあります。下の絵でも桜の花が少し大きく描かれているような感じがします。
知れば知るほど奥深い、触図の世界。
さわる絵本を手に取って、こうした工夫を感じながら読むうちに、「これは、どんなふうに考えながらつくられているのだろう」と想像がふくらみました。
ではもし自分が読む側ではなくて伝える側だったらどうでしょうか。自分の中にあるイメージや考えを、さわってわかるかたちにして相手に伝えるとしたら……、他にもたくさん工夫できることがあるかもしれません。
未来館ではさわれるイラストをつくって、自分の想像しているものを他の人と伝え合うワークショップを行いました。ここからはそのワークショップの様子をご紹介します。
AIを使ってさわれるイラストをつくろう!
ワークショップは、未来館の研究エリアにラボがあるxDiversity(クロス・ダイバーシティ)プロジェクトといっしょに実施しました。
xDiversityプロジェクトは、人や環境の「ちがい」をAIとクロスさせることで、多くの人に寄りそった問題解決の仕組みづくりを目指して活動しています。今回は、xDiversityプロジェクトの田中賢吾さんと筒井彩華さんが開発中の「さわれるイラスト生成システム」を使いました。
このシステムは、入力した文章をもとに、生成AIがさわってわかるイラスト(触図)を作成するものです。イラストは文字でも説明され、読み上げ機能を使えば、目で見なくても内容を把握することができます。生成されたイラストは、特殊な紙に印刷し、専用の機械で熱を加えることで、実際にさわれるかたちになります。
ワークショップではまず、筒井さんから絵を触図化するときのポイントについて説明がありました。それは、このブログの冒頭でも紹介をした、さわってわかりやすくするための工夫です。参加者のみなさんは実際に絵をさわりながらその工夫を体感。「なるほど……。」、「たしかに!」といった声も多く上がり、新たな発見が生まれた時間でした。
ポイントがわかったらいよいよ自分がつくる番。「さわれるイラスト生成システム」の使い方を田中さんからレクチャーしてもらった後、イラストの作成に入ります。
今回つくるイラストのお題は「あなたが見つける新しい星はどんな星?」と「どんなロボットといっしょに暮らしたい?」のふたつ。どちらか好きな方を選んで自分の中でイメージを膨らませます。どんな形をしている? その星には何がある? そのロボットが得意なことはなに?
イメージが固まったらひとつの文章をつくります。ここでの文章のつくり方も実は大事なポイント。自分のイメージに近い絵をAIが生成するためには、わかりやすく、時には細かく特徴を文章に入れ込む必要があるようでした。つくった文章をパソコンやタブレットを使ってシステムに入力をすると、AIがイラストをいくつか生成します。その中から自分のイメージに近いものを選びます。下の絵は「モフモフしたネコ型のロボット」と入力したときに生成されたイラストです。
ここからが最重要ポイント。選んだイラストに黒いペンや白いペン、消しゴム機能を使ってさわってわかりやすいような工夫を加えていきます。工夫を考えるポイントは先ほどの触図をつくるときの工夫と同じです。例えば下のイラストでは、地面に足がついているとどこまでが足なのかがわかりにくいので地面の線を消すなど、修正を画面上に加えていきます。
参加者のみなさんは筒井さんからお話があった触図をつくるための工夫を思い出しながら、イラストに修正を加えていきます。自分が想像するものをさわってうまく伝えるにはどうすればいいのか、それぞれが試行錯誤する時間となりました。
イラストが完成したらいよいよ印刷。
特殊な紙に印刷されたものを、専用の機会に通して熱を加えると……書いた部分がみるみるうちにプクッと膨らみ始めます!さきほどの点字付きさわる絵本の樹脂インクの感触とはちがい、こちらはまるでスポンジのような、少し柔らかい手触りです。
さて思った通りにできたでしょうか……?
ここからはつくったイラストをお互いにさわって伝え合います。
「○○くんのロボットには耳が生えているんだね。」
「ちがうよ! ツノだよ。」
「この星にはキャンディーがたくさんあるね。いいなぁ。」
いろいろな会話があちこちで飛び交っていました。
伝わらなさから「ちがい」が見えてくる
今回のワークショップでは、自分が表現したいイメージが相手に思った通りに伝わった人もいれば、もちろんそうでなかった人もいました。けれど、さわってもらい、言葉を交わす中で、「ここはわかった」「ここは違った」と気づいていく時間そのものが、とても印象的でした。
伝えることは、最初から正解を出すことではなく、相手と確かめ合いながら近づいていくことなのかもしれません。表現を少し変えてみたり、説明を足してみたり、時にはテクノロジーの力を借りてみたり。そうした工夫の積み重ねが、伝え方を育てていくように感じました。
さまざまな「ちがい」を前提に、相手のもつ世界を想像しながら、どう伝えるかを考えること。その大切さを、あらためて実感するワークショップでした。
「ちがい」×AI ~xDiversityプロジェクトのテクノロジーが大集合!
2026年2月11日、未来館ではxDiversityプロジェクトがこれまでつくってきたテクノロジーが大集合するイベント、「「ちがい」×AI ~さわって、ためして、研究者とはなそう!」を開催します。私たち一人ひとりがもつ「ちがい」が時につくる壁を取り払い、それをもちながら自然に過ごす世界を目指し、研究開発されてきたさまざまなテクノロジーをみたり、体験したり、開発をした研究者とはなしてみたりすることができます。
自分の中の「ちがい」に、そっと目を向けてみたら、何が見えてくるでしょう?
その「ちがい」を楽しむために、どんなテクノロジーがあったらいいでしょう?
「ちがい」とともにある世界を、いっしょに考えてみませんか?
当日ぜひ、未来館にあそびに来てください。
2月11日のイベントページはこちら
「ちがい」×AI ~さわって、ためして、研究者とはなそう! https://www.miraikan.jst.go.jp/events/202602114379.html