みなさんは「がん」という病気にどんなイメージを持っていますか。あまりピンとこない?怖い?現代病?研究が盛ん?でしょうか。
現在がんは、一生の間に2人に1人はかかると言われている身近な病気です。人類はこの病を克服しようと膨大なコストを払い、がん細胞のしくみの解明や、がんの診断・治療・予防などの成績向上にチャレンジし続けています。その1つが、ゲノム情報を利用したがん研究です。
ゲノムとは、その細胞が持つすべての遺伝情報のこと(遺伝子を含みます)。がんゲノムとは、がん細胞が持つ全ての遺伝情報のことを指します。ゲノムの解析技術が進歩しがん研究が急速に進んだことで、一人ひとりの病状に合わせたがん治療が可能になりつつあり、治療に新たな選択肢が生まれています。
しかし、この治療を受けるには自分のがん細胞のゲノム情報を提供しなくてはなりません。思わぬ別の病気のリスクが見つかってしまうかもしれません。せっかく情報を提供しても、自分に合う治療薬が見つからないかもしれません。遺伝情報を扱うので、新たな課題も生まれるはず。
そこで、2月16日(日)の未来館のイベントにお集まりいただいた方々に伺ってみました。
2月16日(日)のイベント:(詳細はこちら https://www.miraikan.jst.go.jp/events/2020021695.html)
※このイベントは、がん医療をテーマにした2回シリーズの1回目。2回目は3月8日にニコニコ生放送で行います。(詳細はこちら https://www.miraikan.jst.go.jp/events/2020030894.html)
Q. がんの治療のためにゲノム医療を利用したいですか?
2月16日のイベントにお集まりいただいた方々では、7割は「利用したい」、残り3割の方は「条件による」、「利用したくない」と答えた方はいませんでした。
■「利用したい」と答えた理由
・自分の体のことははっきりと知っておきたい
・根拠ある治療法を選択したい
・自分の治療薬が見つからなかったとしても、未来の研究の役に立ちたい
・高い費用のわりに治療薬が見つかる確率が低いが、可能性を信じて受けたい
・自分の遺伝子を解析することで、自分の家系の遺伝情報が分かるかもしれないし、病気が見つかる怖さもあるが、それよりも予防が大事
■「条件による」と答えた理由
・がんゲノム医療についてよく知ってから判断したい
・解決策がはっきりしているほかの手段があれば、そちらを優先する
・コストに見合う効果があるならば
・自分の検査結果をどの程度詳細に、誰にまで知らされるかによる
・もし遺伝性のがんが見つかった場合、自分のことだけではないから、カウンセリング制度などを整えてほしい
最適な治療薬を探索するためのがん遺伝子パネル検査は、条件に当てはまれば保険適用で受けることができます。とはいえ、検査の結果、治療薬が見つかる人は現時点では10%程度と言われています。検査によって治療薬が見つかる確率は、みなさんにとって重要な判断材料となっているようです。
これは、「個人として」ゲノム医療を受けるかどうかという問いですが、「社会として」がんゲノム医療を受け入れるときの課題もお聞きしました。
Q. がんゲノム医療をさらに社会で普及させる時に、倫理的に心配なことはなんですか(複数回答可)
■知る・知らないでいる権利の保障
・病気の情報は最低限でよい
・自分に病気のリスクがあったら知らせてほしい
・家族の病気の可能性まで突然知りたくない
■本人の意思の尊重(インフォームド・コンセント)
・最後の判断は自分でしたい
・そもそもインフォームド・コンセントがきちんと理解された上で取られているのかわからない
■情報・プライバシーの保護
・ハッカーの攻撃などによる情報漏洩が心配
・漏洩した情報が思わぬ形で悪用されないか心配
・情報が守られないと遺伝情報の提供者が増えず、ゲノム医療の発展しないのでは
■差別
・マイノリティの問題が新たに生じるのでは
・就職、結婚、保険など、特に若い人たちへの影響が気がかり
その他には以下のような意見もありました。
・検査によって遺伝病を発症することが確実だと分かった場合、その方を社会で支える仕組みづくりが必要
・自分の遺伝情報を知ることで、結婚して生まれてくる子供の遺伝情報もある程度予測できた時、どうするか
・遺伝情報の利用を法規制すると、政治や商業的利益での問題が生じるのではないか
・問題の解決には、市民レベルでの正しい知識と理解の向上が必要
さて、このイベント、参加者のみなさんはなんて知識をお持ちなのだろう?と思われた方も多いはず。実は、このイベントはトークセッションとワークショップを同時に行ったもの。今回ご紹介したのは、ワークショップ部分です。参加者のみなさんは、ワークショップの前にトークセッションでじっくり登壇者のお話をうかがっていました。
そのトークをしてくださったのは、こちらの方々。
2月16日のイベントを共催した文部科学省の新学術領域研究プロジェクト「システム癌新次元」のメンバーの先生方です。プロジェクトのサイト:http:neosystemsca//ncer.hgc.jp/home(リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)
イベントは、以下の流れで進みました。
① 研究プロジェクト「システム癌新次元」とは(宮野氏)
② がんゲノム医療とそれを支える科学的基盤について(片岡氏)
③ がんゲノム医療に関わる倫理的・社会的課題について(高島氏)
④ ワーク&ディスカッション
この日のトークイベントの内容は、以下のような電子書籍になりました。よろしかったら、ご覧ください。
集英社e選書トークス『専門家といっしょに考える 新次元の「がんゲノム医療」とゆれる私たちの個人情報へのまなざし(Miraikanトークス)』
https://books.shueisha.co.jp/items/contents.html?jdcn=08000000012696000000
そして、ぜひご紹介したいのは、3月8日(日)にがん医療の未来を考えるイベントの第2弾を行うということ!最初にこのトークセッションは2回シリーズだと紹介しましたが、その第2回目は今週末にニコニコ生放送で開催します!
イベント情報
トークセッション「どう変わる!?がんとの向き合い方──人とAIでひらく新たな医療」
放送日時:2020年3月8日(日) 13:00~15:00
視聴方法:ニコニコ生放送にてインターネット放送します。
視聴URL(ニコニコ生放送):https://live2.nicovideo.jp/watch/lv324605284(リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)
イベントの詳細はこちら:https://www.miraikan.jst.go.jp/events/2020030894.html
今回のイベントは、新型コロナウイルス感染症の感染予防と拡大防止のため、ご自身の端末からオンライン上でトーク内容をご視聴いただきながらコメント等をいただく、ニコニコ生放送で実施します。
※リアルタイムでの視聴はログイン(ニコニコ動画の会員登録)なしでご覧いただけます。ただし、コメントをしたりタイムシフト予約を利用したりする際にはログインが必要です。
みなさんのご参加をぜひお待ちしております!
【参考資料】
・国立がん研究センターがん情報サービス「がんゲノム医療とがん医療における遺伝子検査」
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/genomic_medicine/index.html
・国立がん研究センター中央病院「がんゲノム医療」
https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/genome/index.html