誰にでもわかりやすく科学を伝えたい!特別支援学校との活動のご紹介

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こんにちは!科学コミュニケーターの鎌田です。

 

未来館は、年齢や性別、障害の有無に関わらずすべての人に開かれた公共のミュージアムとして、館内のバリアをなくし、さらには社会のバリアをなくすために何ができるかを来館者と一緒に考えていく、インクルーシブプロジェクトに取り組んでいます。

そのために、未来館の外部の皆さまにもご協力いただきながら、日々、できることに取り組んでいます。

 

今回は、未来館のご近所さんであり、主に知的障害のある児童・生徒が通う東京都立臨海青海特別支援学校の皆さんと一緒に活動した内容についてご紹介しながら、

知的障害のあるお子さんとのコミュニケーションについて私が気づいたことをお伝えしたいと思います。



●特別支援学校と知的障害

特別支援学校には、知的障害のあるお子さんが通う学校以外にも、視覚障害のあるお子さんが通う学校や聴覚障害のあるお子さんが通う学校などがあります。

今、未来館が一緒に活動している臨海青海特別支援学校は知的障害のあるお子さんが通う学校であり、小学部・中学部が設置されています。

 

特別支援学校では、通常の学習だけでなく、社会での自立に向けた授業が行われています。

例えば、校外学習として未来館に行くのは、科学について触れる機会であるとともに、交通ルールを守って外に出たり、物ではなく「体験」に対してお金を払う、チケットの購入という経験をしたり、学校以外の人たちと関わったり他の来館者と同じ経験をしたりすることで社会で生活していくための学びを得る機会でもあるのです。

 

では、知的障害のあるお子さんの学習では、どんな工夫がなされているのでしょうか?

 

まず、抽象的な概念を把握し、理解することが難しいことがあります。

例えば、「魚」について、水族館のサメや池のコイなど、自分の知っている魚を「魚」として理解ができても、「魚」がどのような生き物なのか(地上ではなく水の中に住んでいる、手足はなくてひれがある、肺ではなくえらで呼吸をしている等)という本質的なところを理解したり、初めて出会った生き物の種類を「これは魚?これは鳥?」と区別したりすることが難しい場合があります。

授業で「魚」について学習する場合には、自分の知っている魚から範囲を広げていき、「魚」とは水中で生活していてえらやうろこを持つ生物だ、ということを学習していきます。

 

また、日常生活場面で、場に応じた態度をとることが難しいこともあります。

例えば、先生のお話中に思いついたことをすぐさま口に出してしまったり、授業中に席を立って移動してしまうなど、子ども達が集中して取り組むことができる時間も様々であったりします。

こうしたときには、ダメなことははっきり注意したり、できた時にはしっかりほめたりするなど、その場に応じた対応をしていきます。



●授業と関連が近いコンテンツをこんな風に利用してもらいました!

臨海青海特別支援学校の皆さんには、これまでにも未来館を利用していただいていました。ですが、今回ご紹介するのは、未来館から私たちが臨海青海特別支援学校へと出向いて行った授業に関してです。

小学部1年生の「生活単元学習」の授業にお邪魔し、科学コミュニケータートーク「空を飛ぶタネ、走るタネ」の出前授業を行った様子について、ここではお伝えしていきたいと思います。

 

これまでの授業で、小学部の皆さんはアサガオのタネを植えて育てたり、泥だんごにタネをまぶした「タネだんご」を作って植えたりをしていました。

「タネ」が身近になったところで、さらに植物の特徴としてのタネ(種子・胞子)ってなんだろうということを理解してもらうために勉強するために今回、「空を飛ぶタネ、走るタネ」のトークを出前授業の題材にしました。

こちらの出前授業は2回行いました。とくに2回目には皆さんの理解の様子に大きな変化が見られたので、今回は2回目の授業の様子についてお伝えしたいと思います。

 

出前授業を行うにあたって、臨海青海特別支援学校の先生方と相談しながら、どうしたら皆さんが興味を持ち、理解を深められるのかを試行錯誤しながら一緒に授業を考えていきました。

私も特別支援学校の児童・生徒さんにお話をするのは初めてなので、先生方から「授業で育てていたアサガオのお話だと理解しやすい」「スライドを補助する単語程度でお話をするとよい」「最初にお話の中で何をするのか、見通しをもてるような説明があるとよい」などのアドバイスをいただきながら、準備を進めました。

 

そして、いよいよ当日。2回目となると、私のことも覚えていてくれた児童もいて、「未来館のひと!」と授業前にお話しに来てくれた児童もいました!

私もいただいたアドバイスを思い出しながら、お話を始めていきます。

まずは、皆さんが授業で育ててきたアサガオのお話から始めていきました。アサガオの成長する様子について、写真を見せながら「タネ」「花」など簡単な言葉でお話したり、表情や動きも大きくしたりしながらお話を進めていきました。

 

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児童の皆さんはきちんとお話を聞いてくれており、アサガオのタネや写真が出てくると、「アサガオ!」と嬉しそうに教えてくれる児童もいました。先生のアドバイス通り、身近なものからお話をしていくのは効果的だと実感できました。

そしてそのあとは4つのタネの運ばれ方があることを紹介し、それぞれについて、写真や映像、先生方の実演でどんな風に運ばれていくのかを勉強しました。

例えば、風によって運ばれるタネは、羽のようなものを持っているものがあります。その羽を使ってタネがどんな風に運ばれるのか、先生方が羽をもつタネを真似したグッズを作って実際に飛ばして見せてくれました。

ひらひらと舞う様子が面白かったようで、児童の皆さんは興味深く注目していました。

 

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そして、見て学んだあとは、本物のタネに触って学ぶ時間です。紹介したタネ以外にも、面白い形や特徴を持った、さまざまなタネを見たり触ったりしてみました。

その反応はさまざま。いろんなタネを触ってみたい児童もいれば、タネになかなか触れない児童やタネを触るのを嫌がる児童もいました。自分が知っている面白いタネを教えてくれる児童もいました。

 

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●児童の様子ががらりと変わった!

2回目の授業では、児童の様子についてとても興味深い発見がありました。

 

まずは、児童の注目をよく感じられたこと。

今回、同じ出前授業を2回行いましたが、実は「繰り返す」ことに意味があります。知的障害のある子どもは特に、一度にたくさんのことを理解するのが難しい場合があります。回を重ねることでできることが少しずつ増えていくのです。

今回は前回よりもわかることが増えたため、児童も注目して聞いてくれていたようでした。

 

また、授業の間に児童の動きがピタッとやみ静かになった瞬間がありました。

あれ、今の話面白くなかったのかな...と心配になったのですが、実はそうではなく、集中の証拠だったのです。自分が何をすればよいのか分かったときや、理解しようとしたときにこのように動きが止まり注意が集中することがあるのだそうで、それだけしっかりと聞いてくれていたことが分かりました。

 

特別支援学校での指導では、難易度が少し高いと思えることでも、あえて社会と同程度の経験をさせることが大きな意味を持つこともあります。

児童・生徒の理解度(N)よりも少し難しいこと(N+1)に直面したときに、真剣に聞いて理解しようとし、注意が集中するというのは、まさしく授業で見た児童の様子でした。



●出前授業のあと、家族で未来館に来てくれる児童も!

実は、出前授業のあとにも児童に嬉しい変化がありました。

授業の中で、未来館に興味を持ってくれた児童が、学校であった「未来館」のことを話してくれ、後日ご家族で未来館へ遊びに来てくれたそうです。

 

特別支援学校に通うお子さんを持つ親御さんの中には、「科学館なんて敷居が高い」と感じていらっしゃる方も多いようです。

そのような親御さんに未来館を活用していただき、「科学館って楽しめるところなんだ」と感じられるような場になれば私も嬉しく思います。

 

そして、展示フロアには私を含め科学コミュニケーターが多数おります!科学コミュニケーターにお勧めの展示を聞いたり、展示の楽しみ方を尋ねたりと、ぜひ活用していただければ嬉しいです。



●障害があるからといって、コミュニケーションがとりにくいわけではない

これらの活動を一緒に行ってきたことで、感じたことがあります。

それは、「相手に障害があろうとなかろうと、コミュニケーションに大きな問題はない」ということ。

 

相手に障害があると思うと、相手に合わせようと頑張ってしまったり、もっと残念なことには伝わらないだろうとコミュニケーションをあきらめてしまったりすることもあるかと思います。

しかし、実際にはそこまで頑張ろうとしなくても大丈夫だということを、臨海青海特別支援学校の皆さんに教えていただきました。

 

そして、彼らとのコミュニケーションの方法を学ぶことで、知的障害のある方のみならず、誰にでもわかりやすいコミュニケーションにつながっていきます。

例えば、出前授業の冒頭で、長文ではなく写真や単語で伝えたり、身振りを交えて伝えたりしました。

このようなコミュニケーションの方法が分かれば、たとえば外国語を流暢に話せなくても伝えたいことは伝わります。本物を見たり触ったりすることができれば、老若男女問わず誰にとっても話を聞くよりもずっと理解が深まります。

 

そして、私たち科学コミュニケーターの大きな仕事は、来館者の皆さんとコミュニケーションを取ること。

今回の経験が大きく役立ちます。

 


誰にでも伝わるコミュニケーションを目指して、臨海青海特別支援学校の皆さまとの活動をはじめ、未来館ではこれからもこのような取り組みを続けていきたいと思います。

皆さまもぜひ未来館にお越しいただき、科学コミュニケーターとのコミュニケーションを楽しんでください!

 

 

なお、科学コミュニケータートーク「空を飛ぶタネ、走るタネ」は、未来館のコ・スタジオでも実施しているほか、YouTubeでもご覧いただけます。https://www.youtube.com/watch?v=JcUy5QVTZhk




【謝辞】
未来館インクルーシブプロジェクトの活動及び本ブログの執筆にあたり、元東京都立臨海青海特別支援学校主幹教諭の竹内嘉恵先生、東京都立臨海青海特別支援学校理科教諭の栁堀拓也先生、小学部1年担任の近藤奈々先生、及び東京都立臨海青海特別支援学校の児童・生徒の皆さまにこの場を借りて深く御礼申し上げます。




【参考文献】
・厚生労働省「e-ヘルスネット[情報提供]」2020年5月11日アクセス
 https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-04-004.html
・有馬正高監修『健康ライブラリー イラスト版 知的障害のことがよくわかる本』(講談社)
・向後利昭監修『知的障害の子どものできることを伸ばそう!』(日東書院)