ノーベル博物館紀行vol.3

晩餐会の会場は青くないブルーホール。ノーベルウィークの締めくくり「12月10日」はどんな1日?

もうすぐ、2025年のノーベルウィークが始まります。
ノーベルウィークは毎年12月6日から始まる1週間で、ノーベル賞受賞者が授賞式を含むさまざまなイベントに参加します。

受賞者が発表されたのが10月上旬ですから、それからもうすでに2か月近くが経つということになります。時間の流れが早いですね……。

そして、この「ノーベル博物館紀行」シリーズもこれが最終回です。これまで、受賞者発表に関する話題(vol.1を参照)や、ノーベル博物館の寄贈品(vol.2を参照)などについてお届けしてきましたが、今回は受賞者たちがノーベルウィークの締めくくりに参加する、華やかな授賞式と晩餐会の様子についてご紹介します!

授賞式は12月10日、ノーベルの命日に

スウェーデンのストックホルム(平和賞のみオスロ)でノーベル賞の授賞式が行われるのは、毎年12月10日。ノーベル賞の創設者であるアルフレッド・ノーベルの命日です。

ストックホルムでの授賞式はコンサートホールで開催され、スウェーデン王室関係者やノーベル賞の選考委員なども出席します。

ストックホルムにあるコンサートホールで開催されるノーベル賞授賞式の様子

授賞式では、各賞の受賞者にメダルと賞状が授与されます。

メダルのデザインは毎年共通ですが、賞によって少し違いがある場合もあります。たとえば、オスロで授与される平和賞のメダルには、ノーベルの横顔が他の賞とは異なるデザインで描かれています。

ノーベル博物館にも、これらのメダルが展示されていました。

ノーベル博物館に展示されていたメダル。賞によってデザインが異なります

一方で、賞状はそれぞれの受賞者に合わせてデザインされる一点物です。受賞者の功績に着想を得て、受賞決定から授賞式までの約2か月の間に手作りで制作されるのだそうです。賞状というより、むしろアート作品に近いかもしれませんね。

2024年ノーベル物理学賞を受賞した、ジェフリー・ヒントンさんに授与された賞状。受賞内容などに応じて、一人ひとりデザインが異なります

晩餐会の会場は、青くない「ブルーホール」

授賞式と同じ日の夜には、晩餐会が開かれます。会場はストックホルム市庁舎の中にある「ブルーホール」と呼ばれる場所です。

ストックホルム市庁舎。ここは中庭で、画面中央の入り口を抜けるとブルーホールがあります

ブルーホールという名前ですが、実際には青くありません。もともとは青く塗る予定だったものの、レンガ造りの壁がたいへん美しく仕上がったため、計画を変更して塗装を取りやめたのだそうです。

ストックホルム市庁舎で開催される晩餐会の様子。テーブルと椅子がぎっしり詰まっていて、少し狭そうですね……

ノーベル賞の晩餐会には、なんと約1300名が招待されます。そのため、ゲスト一人ひとりのスペースは少々手狭になるうえ、それだけの料理をサーブするスタッフの負担も大きくなります。ウェイターやウェイトレスだけで200名以上が対応しているそうです!

もちろん、食材の量も膨大で、調理にも時間がかかります。キッチンでの準備は晩餐会の3日前から始まり、スタッフは綿密な計画に沿って作業を進めます。これほど多くのゲストをもてなすには、舞台裏での努力が並大抵ではないことがうかがえます。

ちなみに、ストックホルム市庁舎には「ゴールデンホール」と呼ばれる、金色のモザイク画で彩られた部屋もあります。かつてはこの場所で晩餐会が行われていましたが、現在は晩餐会後のダンスパーティー会場として使われているそうです。

カトラリーの中に、「魚の」フィッシュナイフ?

さて、ノーベル博物館にも、晩餐会にまつわる展示がいくつかあります。その中で、晩餐会で実際に使われたカトラリーを見つけたのですが、魚用のナイフにぜひ注目してみてください。

晩餐会のカトラリーに、魚をモチーフにしたナイフが……! よく見ると、ナプキンにもノーベルメダルの絵もあしらわれていますね

なんと、持ち手の部分が魚の形をしているんです! かわいい……!!

ノーベル博物館のガイドさんによると、これは晩餐会に参加するゲストがリラックスできるようにとの遊び心。ゲストの中には、人生を研究にささげてきた研究者も多く、こうしたきらびやかな場に必ずしも慣れているとは限りません。そんな受賞者たちへの心遣いでもあるとのことでした。

そしてこのフィッシュナイフ、後日調べてみたところ、なんと日本製でした! 山崎金属工業という会社が制作を手掛けたそうです。日本生まれの製品が、遠く離れたスウェーデンのノーベル賞晩餐会で使われているとは、なんだかうれしい気持ちになりますね。

ノーベル賞を知ると、もっと楽しくなる!

ノーベル賞はおそらく誰もが知っている有名な賞です。一方で、意外にその中身は知られていないことも多いのではないでしょうか? 私自身も、ノーベル化学賞の生配信を担当したり、ノーベル博物館を訪れたりする中で、たくさんの発見がありました。

このブログでは、ここまで3回にわたって、ノーベル博物館の探訪記を交えながらノーベル賞についてご紹介してきました。ブログをきっかけに、ノーベル賞に関するニュースや記事などの情報を少しでも楽しんでいただけるようになったらうれしいです。

また、ノーベル博物館の館内は、そこまで広いとは言えませんが、とにかく情報密度がすごいです……! ノーベル賞の受賞者や受賞研究を少し知ってから訪れるとより楽しめますし、ノーベル賞がさらに楽しみになります。

ぜひ、みなさんも機会があれば訪れてみてくださいね。

ノーベル博物館の館内。さらにコレクションが増えたノーベル博物館を、また訪れてみたいです

参考文献
The Nobel Prize ”The Nobel Banquets”
https://www.nobelprize.org/ceremonies/nobel-banquets-a-century-of-culinary-history/  (2025/10/12閲覧)
山崎金属工業株式会社 「ノーベル賞との関わり」
https://www.yamazakitableware.co.jp/nobel/ (2025/10/12閲覧)

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