よりぬき科学コミュニケーター相談「こころ編」

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昨年の夏休み期間、わたくし科学コミュニケーター福井が未来館展示フロアにて、来館者から科学に関するどんな質問にでも答えまくるという無茶な企画、「夏休み科学コミュニケーター相談」を開催しました。この度、いただいたたくさんの質問の中から、特に味わい深いものをピックアップしてブログにてお届けしたいと思います。よりぬき科学相談、本日は「こころ編」でお送りします。

早速一つ目の質問、

「どうやったら"運命の人"を瞬時に見分けられるようになりますか?」

答えになっているか分かりませんが、HLA(免疫が自分と他人の細胞を見分けるためのシステム。臓器移植ではHLAのタイプが重要視される)のタイプがより異なるほど相手に魅力を感じるという、508人もの被験者を使った調査結果があります(Kromer et al, 2016)。これはパートナーのHLAのタイプがより異なるほど、子供がより様々な種類の病原体に対抗できるからだと考えられています。ただし、HLAタイプの違いは「見分け」ているのではなく、匂いで「嗅ぎ分けて」いるようなので、「運命の人かな?」と思ったら、何かしらの機会を作って匂いを嗅いでみることをおすすめします(そのことによって起きる、いかなる不測の事態にも責任は負いかねます)。また、HLAのタイプをもとにマッチングを行う「DNA婚活」なるものも既にサービスが始まっているそうです。すごい時代になったものですね。

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では次の質問。

「"かわいい"とか"かっこいい"って、どうして感じるのですか?」

質問者が若い女性でしたので、若い女性が考えるところの「かわいい」、「かっこいい」について考えてみたいと思います。おそらく「かわいさ」の起源は子供が親に庇護欲を起こさせるためのシグナルです。「わが子を庇護する」という行動と、「親を庇護させたい気にさせる」行動はどちらも遺伝子の生き残りに有利に働くので、「子供らしい特徴に惹きつけられる形質」と、「子供らしい特徴」は互いに強め合う方向に進化します。かくして、ヒトはヒトの子供のみならず、「丸っこい、目が大きい、動きがぎこちない」などの特徴を備えていれば、人間以外の動物や、架空のキャラクターなどの無生物に対しても「かわいい」と感じるようになってしまったと考えられます。

一方で「かっこよさ」の起源は、「自分は頼りがいのある優秀なハンターである」ことをアピールするシグナルだと思われます。具体的なシグナルの中味は均整の取れた肉体、自信に満ちた行動などです。ほとんどの人類が狩猟採集民だった時代(人類が現れてからほんの最近(約1万年前)まで)、優秀なハンターを夫に迎えた妻は子供を立派に育て上げられる可能性が高くなったので、その結果、「男らしい特徴」と、「男らしさに惹きつけられる形質」は互いに強め合う方向に進化しました。かくして「均整の取れた肉体美を持つ自信に満ちた男」は「かっこいい」と感じられるのです。

男女関係ネタが続きますが、ゴシップ・うわさ話が大好きな人は一定数いますね。逆にうわさ話を全くしないという人は珍しいかもしれません。そこでこんな質問。

「なんでウワサ好きな人は、あんなにウワサしてるんですか?」

人間が文明を作る前、全ての人はせいぜい数十人程度のコミュニティで暮らしていました。その中で、狩りが上手いのは誰か、薬草探しなどの特殊技能を持つのは誰か、誰と誰が友好的で、誰と誰が敵対的か、といった情報を把握しておくことは、コミュニティの中で生き延びて子孫を残すために重要なことでした。そのため、「コミュニティ内の人間関係を把握することを好む性質」は生存のために有利に働き、「ウワサ好きの性質」として現代に至るまで生き延びているのだと考えられます。面白いところは、ウワサ好きな人は、ウワサ話を「処世術として意図的に行っている」わけではなく、「好きだからしている」ことです。このように「生物学的に合理的な目的はある(あった)が、本人は全く意識していない行動や欲求」はたくさんあります。

引き続いて、人間の欲に関する質問。

「なぜ、人間は金や宝石が好きなのですか?」

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確かに金や宝石は美しいですが、特に生活や仕事の役に立つわけでもないのに、どうしてあんなに高い値段でも買う人がたくさんいるのでしょうね。

実は、奇麗だけど役に立たないものに大きな投資をする生き物は人間以外にもいます。例えばクジャクの雄はとても立派な飾り羽を持っています。この場合は飾り羽を育てるための栄養だけでなく、天敵からの見つかりやすさや逃げにくさも大きなコストになります。また、アオアズマヤドリという鳥の雄は、小枝などを組み合わせてあずまや(巣ではない)をつくり、その周りを青いもの(花びらや羽、人工物など)で飾り立てます。あずまやを建て、青いものを集める苦労がコストになりますが、自然界に青いものはかなり珍しいので、それだけコストは大きくなります。

なぜこのようなことをするのかと言うと、役に立たないものに大きな投資をして、それをメスやライバルオスに見せつけることで、それだけ自分は優れている(無駄なことが出来るほど能力に余裕がある)ことをアピールする(シグナルとして使う)ためだと考えられています。進化生物学者はこのアイデアを「シグナル理論」と呼んでいます。

人間の金や宝石を好む理由が「シグナル理論」で説明できるか定かではありませんが、思い当たるふしはあるかもしれませんね。

欲に続いて恐怖についての質問

「なぜくらやみはこわいの?」

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確かに暗闇は大人になっても怖いですね。

人間の目は、昼間とてもあざやかにものが見える一方で、夜はあまりものが見えません。人間が文明を作って家の中で安心して眠れるようになる以前、人は夜になるとライオンやヒョウに食べられる危険の中で暮らしていました。ライオンやヒョウは夜でも良く目が見えるので、夜はヒトにとってとても不利な時間帯でした。実際、大型の肉食動物に捕食された痕の残る人類の化石はたくさん見つかっています。天敵を避けるために闇を恐れる性質が今でも人間に残っているのかもしれませんね。現代の都市文明においても、人気の少ない暗い路地裏は危険とされているので、暗闇を恐れる性質は今でも役に立っているのかもしれません。

遺伝子と「わたし」

こうして見てみると、私たちの心はかなりの部分が遺伝子に支配されていることがわかりますね。遺伝子は、自分自身のコピーをより多く、より確実に残したものが後世にまで生き延びます。したがって、遺伝子はその一時的な「乗り物」である肉体に、「生き延びて、より多くの子孫(遺伝子の乗り継ぎ先)を作る」ように仕向けます。ただ、「遺伝子からの命令」の多くは10万年以上にわたる狩猟採集時代に培われたものなので、現代社会での暮らしにはなじまないものもあります。例えば、人類の歴史ではほんの少し前までは、「高カロリーの食べ物に出会ったら、食べられるだけ食べて脂肪を蓄えろ」という遺伝子からの命令は、「乗り物」が飢餓から生き延びるために有効でしたが、現代の飽食社会では生活習慣病の原因としてマイナスの影響をもたらしています。また、遺伝子と、その乗り物である「わたし」との利害が一致しないことも少なくありません。例えば、現代社会に生きる男性が「遺伝子からの命令」に忠実に従って複数の家族を同時に持てば、「乗り物」である男性は高い確率で社会的な非難を受けてストレスの多い人生を送ることになるでしょう。

遺伝子からの命令に、あえて逆らうことができる動物は人間だけだと考えられています。「わたし」の幸福のためには、「遺伝子からの命令」の妥当性を吟味し、時には逆らうことも必要なのかもしれません。