このブログは、疲労と休息がテーマの特別企画「ツカレからの脱出 ~疲れとやすみのサイエンス」(2025年7月16日~2025年9月15日)の様子をお届けするブログシリーズです。これまでのブログはこちら。
vol.1 自分らしく休んで、疲れとさようなら
https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20250808post-566.html
vol.2 都会の中の小さな森のやすらぎ ~デジタル森林浴~
https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20250808post-565.html
「ツカレからの脱出 ~疲れとやすみのサイエンス」。この企画では、次の7タイプの休み方を紹介したうえで、自分に合った休み方を考えるためのワークシートを配布しています。
やすめる:体を動かさずエネルギーの消費をおさえたり、あえて体を動かし、血流を良くしたりします。
たべる:栄養をとったり、食事をおさえて消化器系を休ませたりします。
つくる:何かをつくったり、芸術作品を鑑賞したりします。
ふれあう:友人や家族と話したり、動物や自然とふれあったりします。
はなれる:人から離れたり、自分を見つめ直したりします。
たのしむ:自分の趣味を追求して、気分転換します。
きりかえる:まわりの環境を変えて、気分をリセットします。

このワークシートの制作が大詰めだった1か月ほど前、「よし、ワークシートの校正作業に取りかかろう」とイスに座ったとき、私はふとこんなことを思いました。こうやって「イスに座る」という行為は、この7タイプの休み方のなかだとどれになるんだろう?
「イスに座る」というと、休憩すること(7タイプの休み方でいう“やすめる”)が真っ先に思い浮かびます。ただ、たとえば友人と食事をしながらおしゃべりするときのイスは“ふれあう”休み方の手助けをしていますし、休日に一人で映画館に行って映画を見るときのイスは“たのしむ”休み方や“はなれる”休み方をサポートしています。どうやらイスはいろいろな休み方をもたらしてくれそうです。
さらに、「そういえば、未来館にはいろいろな種類のイスがあったな。それぞれどんな休み方ができるんだろう?」と気になった私は、館内さまざまな場所に置かれているイスに実際に座ってみて、そこでの休み方を体験してみることにしました。
5階ロビーのイスは、“ふれあう”イス?
まずやってきたのは……

5階ロビーです。ハイチェアやベンチなどいろいろな種類のイスがありますが、今回座ってみたのは丸いテーブルを囲うように置かれた、ごくふつうの形と大きさをしたイス。たまたま一緒にいた同僚とこのイスに座ったら、ほどよい距離で向かい合う位置関係になったこともあり、自然と会話が弾んだように感じました。
イスのタイプ:友人や家族と話す“ふれあう”タイプ
お気に入り度:★★★☆☆
ひとこと:一人の時間が好きだけど、たまにはこうやって誰かと話す時間もいいかも。
「“おや?”っこひろば」のイスは、“つくる”イス?
次に向かったのは……

3階の「“おや?”っこひろば」です。親子が一緒に遊びながら「なんで?」を探究することができるこのスペースには、想像力を発揮しながら自由に試行錯誤できる仕掛けがもりだくさん。写真は人工芝の坂にいろんな形のものを転がす体験ができるコーナーで、坂の下にはクッション素材のイスがあります。上から転がってくる予測できないボールの動きをイスに座ってながめていると、ついつい疲れを忘れてしまいます。
イスのタイプ:何かをつくったり鑑賞したりする“つくる”タイプ
お気に入り度:★★★★☆
ひとこと:ボールの動きをつい目で追ってしまう、絶妙な位置にイスが置かれている。
「ジオ・コスモス」前のイスは、 “はなれる”イス?
ここまでご紹介してきたのは常設展の外にあるイスです。それでは今度は常設展の中に入ってみましょう。中に入るとまず目に飛び込んでくるのは、未来館のシンボル展示である……

「ジオ・コスモス」です。ちょうどその正面にイスがあったので座ってみると、地球の表面を雲がゆっくりと動いていく様子を無心でながめてしまいました。この雲の映像は、地球の周りを飛んでいる人工衛星が撮影したデータにもとづいているのですが、そんな事実は忘れて、一人でただ雲を追いながらぼーっと過ごす時間がそこにはありました。
イスのタイプ:人から離れたり自分を見つめ直したりする“はなれる”タイプ
お気に入り度:★★★★☆
ひとこと:ぼーっと過ごす時間って、意識しないとついつい忘れてしまいがち。すごく落ち着く。
コ・スタジオ横のイスは、“はなれる”&“きりかえる”イス?
「ジオ・コスモス」から離れて3階の奥の方に進んでいくと、「コ・スタジオ」というイベントスペースにたどりつきます。ちょうどその近くにおしりがすっぽりはまりそうな形のイスを見つけたので、とりあえず座ってみました。

一人で過ごすのにちょうどいいイスでしたが、それ以上にこのイスが展示から少し離れた奥まった場所に置かれているため、なんとなく心も体もやすまった気がしました。ミュージアムでいろいろな体験をしていると、知らず知らずのうちに光や音、たくさんの情報を受け取るため疲れてしまうことがあります*1。そんなときこのような「イスに座ってやすめられる場所」に行くと、心も体もリフレッシュできるはずです。
イスのタイプ:人から離れたり自分を見つめ直したりする“はなれる”タイプ & 周りの環境を変えて気分をリセットする“きりかえる”タイプ
お気に入り度:★★★☆☆
ひとこと:歩いて20秒くらいのところにこんな場所があると、ちょっと気分をリセットしたいときに重宝しそう。
未来館「イス」めぐりを終えて
未来館のさまざまな場所にあるイスに実際に座ってみると、イスごとに異なる“十イス十色”の休み方を与えてくれることを実感しました。イスは単に座って休むためのものではなく、形や置き方、置く場所などによって、機能も、そこでできる休み方も大きく変わるものなのです。*2
そしてそれは未来館に限らず、私たちのまわりにあるあらゆるイスに対しても言えることでしょう。ぜひみなさんも自分に合った休み方と、その休み方にぴったりなお気に入りのイスを探してみてはいかがでしょうか。

おまけ:未来館にある寝転べるイス!?
特別企画を実施している未来館1階シンボルゾーンにもともと置かれていたイスがこちら。なんと、寝転べます!

ちなみに視線の先にはジオ・コスモスがあるので、寝転びながら地球の姿を頭上にながめることができます。現在は特別企画の会場となっているため撤去していますが、特別企画が終わる9月15日以降、ふたたびこの場所に戻ってくる予定です。
イスのタイプ:体を動かさずエネルギーの消費をおさえる“やすめる”タイプ & 人から離れたり自分を見つめ直す“はなれる”タイプ
お気に入り度:★★★★★
ひとこと:最高。
*1 Gareth, D. What is Museum Fatigue? Visit. Stud. Today 2005, vol.8, p.17-21.
*2 青田麻未 [著]. 『「ふつうの暮らし」を美学する 家から考える「日常美学」入門』. 光文社新書.