「2011ノーベル物理学賞! 宇宙は加速膨張している!」続編です。内容を少しほりさげてご紹介しますので、「赤方偏移」とか「宇宙膨張」とか「タイプIa(ワンエー)超新星爆発」とかいう言葉が聞き慣れない方は、先に前の記事をご参照ください。(超新星爆発についてはこちらも)
さて読者の方からいただいたご要望は、加速膨張という結論にいたるまでに「どのような観測をしてなにが明らかになったのか」という、解析のしかたについての説明。
宇宙の膨張速度を測るために、大きな望遠鏡でやっととらえられるずっと遠くの宇宙で、偶発的にしか起こらず、しかも起これば数週間ですぐに減衰してしまう超新星爆発を使います。これは、とても大変なことです。
第一に、夜空のスキャン
光がわずかしか届かない、遠くの超新星爆発をとらえなくてはなりません。なぜ遠くの超新星爆発を探すのかといいますと、それだけ遠い過去の様子がわかるから。宇宙がどのように変遷してきたのかを見るために、遠い過去のデータが必要なのです。
パールミュッター、シュミット、リースの三氏は、この深宇宙で起こる超新星爆発のデータから宇宙の歴史をとらえ、そこから加速膨張を示し、ノーベル賞を受賞しました。
光がなかなか地球まで届かない距離にあるので、月が煌々と照っている夜空では見えません。そこで新月の日に、夜空を大スキャンします。そして次の新月の少し前に、もう一度スキャンして、違いを見ます。
急に明るく輝き始めた星が超新星爆発。
一回のスキャンで数万の銀河が解析され、10個ほどの超新星爆発が見つけられます。この三週間ほどのあいだに爆発を起こしたということは、爆発したばかり、あるいは、まだ明るさのピークに達する前の段階、ということになります。
第二に、超新星爆発の種類
まず、見つかった超新星爆発の中で、タイプIaという望みの超新星爆発をさがさなくてはなりません。前回もご説明しました通り、このタイプの超新星爆発は明るさがほとんど同じで、距離を正確に特定するのに理想的な、宇宙の「キャンドル」なのです。
まず、タイプIaの超新星爆発は、上図でみたように、爆発後どんどん明るくなって、その後なめらかに減衰していきます。この明るさの変化のしかたが特徴です。しかし、発見されたばかりの超新星爆発がどのように変化していくかは、まだわかりません。
そこでタイプを特定するために利用するのが、光の「スペクトル」です。スペクトルを使ってタイプIaの特徴を見つけるのです。
まず、光は波長によって色が代わりますので、波長ごとに広げると虹のようになります。
上の図では、スペクトル上に黒い線がたくさんあります。つまり、そこの波長の光が抜け落ちている、ということです。
なぜ抜け落ちるかといいますと、光が通ってきた道筋にある物質によって吸収されてしまったからです。そして、吸収される波長は、そこにある元素の種類で決まります。
タイプIaが超新星爆発をおこした瞬間、いっきに酸素からカルシウムなどの物質が作り出され、外に放出されて、雲状に星の周りを囲みます。初期の超新星爆発からやってくる光はその雲を通ってきますので、それらの物質が吸収した特有の線がスペクトルに現れます。
つまり、どこの波長が抜け落ちているかを見れば、超新星爆発をした星やその周辺の構成元素がわかるというわけです。
このタイプIa特有のスペクトルを見つけることで、超新星爆発のタイプを特定できるのです。(他のタイプの超新星爆発に比べて、特に、水素がないこと、ケイ素の存在すること、が特徴的です)
(前回の記事で、物質の構成を見ると、超新星爆発からどれくらい時間がたっているのかがわかる、と書きましたが、厳密にいいますと、ここでは二種類のものを見ています。一つ目が、明るさの変化。この光源自体が明るくなって暗くなるのにも理由があります。それがニッケルがコバルトに変化するときに出す光と、コバルトから鉄に変化するときに出す光で構成されていて、これらが時間とともに遷移していきます。二つ目が上で説明したスペクトル。酸素からカルシウムなどの存在がわかります。これは時間がたつとちりぢりになって見えなくなります。)
第三に、スペクトルを使って後退速度を計算
前回、レッドシフトについてお話ししましたが、赤方偏移がこのスペクトルに現れます。
どのように現れるかというと、吸収線が赤色方向(波長の長い方向)にシフトするのです。このシフトする度合いを測って、実際その超新星爆発がどれくらいの速さで遠ざかっていっているのかを調べます。
難しいけれど重要なのが第四、正確な距離を求めます
前に超新星爆発の明るさや明るさの変化は皆だいたい同じ、と書きました。でも、厳密にいうと明るさは少しずつ違うのです。ということが、80年代にわかってきました。これは、距離がよくわかっている、地球から比較的近くにある超新星爆発を詳細に観測してわかったことでした。
実は、少し明るいものがあったり暗いものがあったりします。そして少しでも明るさが違うと、距離が正確に測れなくなります。
しかし、よくよく見てみると、実はあるパターンがあるのです。明るいタイプIa超新星爆発はその明るさの減衰が遅く、暗いものは減衰が速くなっています。
暗い超新星爆発の明るさカーブをちょっと横にひき伸ばして、上にあげてあげると、なんとぴったりと明るい超新星爆発の明るさカーブに合う!ということがわかりました。
つまり、横方向にどれだけ引き延ばす、あるいは縮めないといけないかがわかれば、厳密な明るさがわかります。正確な明るさがわかれば正確な距離もわかるのです。
そのためには、明るさカーブの形を知ることが大切になります。ということは、一つの超新星爆発につき、何回も観測して、どのように明るさが減衰しているのかを見る必要があります。
そういうわけで、ハッブル宇宙望遠鏡やハワイのケック天文台などで、発見されたタイプIa超新星爆発のひとつひとつの後を追って観測し続けるのです。
こうして求められた正確な距離により、何十億年前に発せられた光であるかがわかります。そして、スペクトルから求められた後退速度により、宇宙を表す方程式にあてはめて宇宙のサイズが計算できます。
この時間とサイズを表したのが、下の図であるわけです。
これらの大業を成し遂げるため、世界中の数々の望遠鏡が駆使されました。超新星爆発宇宙計画(Supernova Cosmology Project)とハイゼット超新星捜索チーム(High-z Supernova Search Team)という2プロジェクトで競争しながら遂行されました。
どれだけたくさんの望遠鏡が使われたかは、こちらで見てみてください。
参考:
PhysicsToday 「超新星爆発、暗黒エネルギー、そして加速膨張する宇宙(英語)」