【詳報】2018年ノーベル生理学・医学賞発表! 免疫を抑える仕組みの発見およびその仕組みを応用したがん治療法の開発

ジェームズ・アリソン博士、本庶佑博士、ノーベル生理学・医学賞受賞、おめでとうございます!!

未来館では2015年にお二人をノーベル賞受賞者候補に挙げておりました!

発表の瞬間、私たち科学コミュニケーターも歓喜の渦に沸きました!

今年ノーベル賞を受賞されたお二人は、私たちの免疫システムにブレーキをかける仕組みを発見し、それをがん治療に応用することで、これまでとは全く異なるタイプの第4のがん治療法を開発しました。

がんは毎年、世界中で何百万もの人を死に至らしめる病気で、がんを克服することは、人類にとって大きな挑戦であり目標です。お二人の研究によって、がん医療は大きく前進しました。

(左)
ジェームズ・アリソン(James P. Allison)博士
テキサス大学MDアンダーソンがんセンター(アメリカ)
(写真提供:The University of Texas MD Anderson Cancer Center)
(右)
本庶佑 博士
京都大学
(写真提供:静岡県立大学)

私たちのからだは免疫によって守られています。そのシステムには、自然免疫と適応免疫(獲得免疫)とがあり、互いに協力し合って私たちの体を守ってくれています。

適応免疫では、リンパ球であるB細胞やT細胞が働くことによって、日々、体内の異物やがん細胞を排除しています。

免疫細胞のブレーキの発見

免疫学の基礎研究に取り組んできた本庶博士は、T細胞の表面にあるPD-1というタンパク質を発見し、解析を進めた結果、PD-1は免疫細胞の働きを抑えるブレーキとなることを突き止めました。

一方、アリソン博士は、CTLA-4という別のブレーキを発見しました。

免疫細胞は異物やがん細胞を攻撃してくれるから、ブレーキがなくてもいいじゃないかと思うかもしれません。確かに、免疫細胞の働きは大事です。

しかし、例えば、自分の細胞を攻撃しないためや、過剰な免疫反応を抑えるために、その働きにブレーキをかける仕組みがあるのはとても重要です。

がん細胞はこのブレーキを悪用して、免疫の攻撃から逃れ増殖し、がんという病気を引き起こすのです。

免疫チェックポイント阻害剤を利用したがん治療の新しい原理

そこで、免疫にブレーキかけるPD-1やCTLA-4の働きを抑え、免疫細胞を活性化することで、がん細胞への攻撃に利用できないかと考えたのが、お二人の先生です。

PD-1やCTLA-4の働きを封じて、免疫細胞にブレーキがかからないようにすれば、私たちの体の中に備わっている免疫の力でがんを治療できるかもしれません。

そうやって開発されたものが、PD-1免疫チェックポイント阻害剤「ニボルマブ」やCTLA-4の免疫チェックポイント阻害剤「イピリムマブ」です。

免疫チェックポイント阻害剤を使用することで、がん細胞にブレーキスイッチを押させないようにさせることができます。

その詳しい仕組みは、科学コミュニケーター沈のブログをごらん下さい。
https://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/201509162015-2.html

免疫チェックポイント阻害剤による免疫療法

実際のがん治療

その治療の結果、効果があるのは一部の患者に限られましたが、がんが縮小し、とても大きな効果を上げたのです。

その効果の強力さによって、治療が適用されるがんが拡大しています。例えば、ニボルマブでは、最初は皮膚がんの一種である悪性黒色腫のみの適用だったがんも、今では、その適用が、肺がんや腎細胞がんなど7種まで広がっています。

また、PD-1とCTLA-4が免疫細胞にブレーキをかける仕組みは異なるので、ニボルマブとイピリムマブを併用することで、さらに高い治療効果を得られることもわかりました。

お二人の業績により、これまでのがん治療法(手術による切除、放射線照射、抗がん剤による化学療法)に、これまでとは全くアプローチの異なる「免疫チェックポイント阻害剤による免疫療法」という、第4の強力な方法が加わりました。これにより、がん治療の選択肢が広がり、既存の治療法で効果がなかった患者を救う道も開けました。

免疫チェックポイント阻害剤は、がんの治療法の4本目の柱となる

人類が長く戦ってきたがん。その治療にもう1つ強力な一手が加わったということが今回の受賞につながりました。

ノーベル賞発表後の本庶先生の記者会見では、「がん免疫療法は、感染症におけるペニシリンになれる」との発言も飛び出しました。それは、がんという病気が恐怖の対象ではなくなることを意味しているのでしょうか。

がんの免疫チェックポイント阻害療法の今と未来

今後の期待も高まるニボルマブですが、課題もあります。

その1つは高額な治療費です。当初は、年間約3500万円もの治療費が見込まれていました。今後は年間1100万程度に下がるとはいえ、まだまだ高額な治療費がかかります。

現在は、他に治療の手段がない場合や、がんが再発した場合にのみ、保険医療として受けられます。ニボルマブを使用する人が増えれば、増大する医療費を社会で支える仕組みも考えなければいけません。

また、実際の治療でニボルマブが効く人は2~3割だと言われています。現段階では、効果がある人とない人の違いがはっきり分かっていません。

本庶先生も発表後の記者会見で仰っていましたが、今後は、効く人・効かない人を事前に見極めるしくみを開発しなければいけないでしょう。

今回の受賞テーマは、免疫細胞の働きを明らかにするという純粋な基礎研究からスタートした後、応用研究を経て、現在、多くのがん患者の治療に貢献しています。

本庶博士は記者会見で、基礎研究の重要性を再三発言されていました。

また、アリソン博士も、SNSのTwitterを通して、"The reason I'm thrilled about this is I'm a basic scientist. I didn't get into these studies to cure cancer. I wanted to know how T cells work.(「私が今回の受賞にワクワクしているのは、私が基礎科学者だからだよ。私は、これらの研究をしたのは、がんを治すためではない。私はT細胞がどのように働くかを知りたかったのだ」)"と発言されています。

私たちの世界観を変えるような大発見は、地道な基礎研究の上になりたつという、そのことを強く実感した今回の受賞テーマでした。

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