【わかんないよね 新型コロナ】大勢が感染するなら、先送りが大事?

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新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染拡大が問題になっています。

学校を休みにしたり、国をまたいでの移動に制限をかけたりと、感染の拡大防止に世界中が動いています。このような対策に対して、大げさだという人もいますし、まだまだ甘いという声も聞こえてきます。ちょうど良いという人もいるかもしれません。

どの意見が正しいのかは、正直なところわかりません。対策によって経済が壊滅的なことにならないようなバランスをとっていくことも重要ですし、一筋縄ではいかない問題ですよね。


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この記事では、新型コロナウイルスの対策、特に感染の広がりを遅らせることに力を入れた方が良い理由を書いていきます。社会や経済的な事情とのバランスについてはまた別に議論が必要ということも前提にしながら、進めていきたいと思います。


■時間稼ぎが重視されている?

厚生労働省から2020年2月25日に出された「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」(https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000599698.pdf)の中で、「現時点での対策の目的」として以下の3つが記載されています。やはり、人命とともに経済も重視されているようです。

  • ・感染拡大防止策で、まずは流行の早期終息を目指しつつ、患者の増加のスピードを可能な限り抑制し、流行の規模を抑える。
  • ・重症者の発生を最小限に食い止めるべく万全を尽くす。
  • ・社会・経済へのインパクトを最小限にとどめる。

1つ目の項目については、以下のような図の形で見た方も多いかもしれません。


新型コロナウイルス対策の基本的な考え方の図(厚生労働省) 濃いピンクの線が、基本方針にある「患者の増加のスピードを可能な限り抑制し、流行の規模を抑え」た状態。出典:厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html


仮に多くの(ほとんどの)人がこのウイルスに感染するとしても、なるべく流行のピークを先送りにしながらピークを低くする、というこの方針。「社会・経済へのインパクトを最小限にとどめる」という方の項目をかなり犠牲にしているようにも見えます。感染者数を減らすためならともかく、ピークを遅らせることにそれほどの価値があるのでしょうか。



■時間稼ぎをしたい理由

ここでは感染のピークを遅らせたい理由の中から3つを紹介します。


国立感染症研究所によって分離された新型コロナウイルスの電子顕微鏡写真新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の電子顕微鏡写真。
出典:国立感染症研究所ホームページ(https://www.niid.go.jp/niid/ja/multimedia/9368-2019-ncov.html


〇理由1:医学の進歩を待ちたい

新型コロナウイルスには今のところワクチン(予防注射など)も治療方法もなく、その場ですぐに結果が出るような感染の検査法についても開発途上です。症状が出てからの対症療法も、流行が始まってまだ3ヶ月ですから、現場で改善が進んでいるところです。

時間稼ぎをしている間に、これらの研究開発が進むのであれば、できるだけ感染を先に延ばす意味がありますよね。


〇理由2:ウイルスそのものの情報が足りない

そもそもよくわかっていないウイルスだから、ということも時間稼ぎを必要とする理由です。

たとえば、症状が治まって陰性になった(ウイルスが検出されなかった)患者が、また陽性になるという事例がニュースに出ています。
これらの例が、再感染(治ったあとにもまたすぐ感染が起こる)なのか、ウイルスが検出されないくらいに減ったものの、その患者さんの身体に実は残っていたのか、という問題について、研究と議論が進んでいるところです。
再感染をすぐにしてしまう(ウイルスに対する免疫のしくみがうまく働かない)のであれば大問題で、ワクチン開発を含む、様々な戦略を根本から見直さなければなりません。一方で、陰性になってもまたぶりかえすことがあるということであれば、検査方法を見直した方が良さそうです。

時間を稼いでいる間に研究が進めば、ウイルスについての情報が増えて対処しやすくなるでしょう。また、情報が増えてくれば、「わからないから、念のために」という警戒のレベルを下げる判断材料も増えるはずです。


〇理由3:医療の体制を整えたい

一度に患者が病院などの医療機関に詰めかけると、病院がパンクしてしまうので、ピークを低くすることにはもちろん意味があります。


感染の拡大を遅らせた場合と、そうでない場合に医療機関の負担がどう変わるかを比較したイメージ図入院の必要な人が多くなるとしても、できるだけ分散して一度に入院してくる人は少ない方が良い。(作図:相川直美)



ピークを遅らせる意味はどうでしょうか。病院内でも他の患者や医療関係者に伝染するかもしれないので、それなりの準備が必要になりそうですよね。

国立感染症研究所・国立国際医療研究センター国際感染症センターによる「新型コロナウイルス感染症に対する感染管理(2020年3月5日改訂版)」(https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov.html)を読むと、

  • ・極力個室で
  • ・極力使い捨ての装備を使いながら
  • ・装備を交換する際にも注意する必要がある

・・・というようなことが書かれています。 やはり、入院できるベッドを増やすだけではなく、多くの準備や訓練が必要そうです。

このような患者の受け入れ態勢が整った病院を増やしていく、あるいは地域をまたいで病院どうしが融通しあえる態勢を整える準備期間をとるためにも、ピークを遅らせる意味はありそうです。

なお、「新型コロナウイルス感染症に対する感染管理」には、感染者に濃厚接触してしまった場合に、私たちができることも書かれています。たとえばゴミの処理や洗濯はふつうにして良い、というようなことです。
ただし、この情報は状況に合わせて改定されていくので、万一の際には必ず上記の国立感染症研究所のページで最新情報を確認して実践してください。



■とはいえ、どこまでやるべきか

感染の拡大を遅らせることに意味があるなら、次にはどうすれば拡大を防げるか、というとことになります。ここでまた難しくなってきます。

感染を未然に防ぐワクチンがなく、分かっていないことも多い(症状が出ていない感染者からも伝染するのか、どのように伝染するのか、など)以上は、できるだけ人と人の距離を取るなど、医療以外の方法しかなさそうです。ですが、そんなことに本当に効果があるのでしょうか。

100年ほど前(1918年)に、その当時の「新型」インフルエンザ(スペイン風邪)が世界的に流行した際、人の集まりを制限した都市と、しなかった都市とを比較したデータがあります。その場所で最初の感染者が出てから、2日後に人の集まりを制限したセントルイスと、16日後まで制限しなかったフィラデルフィアとの死亡率(10万人あたりの死者数)の比較です。


フィラデルフィアとセントルイスの、1918年に流行したスペイン風邪による死亡率を比較したグラフセントルイスの死亡率の方が全体的に低く、ピークも遅くなっている。
出典:Hatchett et al. 2007, Fig1 (https://www.pnas.org/content/104/18/7582)を改変
※セントルイスは感染の始まりが約半月遅かったことにご注意ください(フィラデルフィアの感染開始が9/17、セントルイスが10/5)。


上の図のデータは、感染者数ではなく死亡率ですし、コロナウイルスでもないので一概には言えませんが、早いうちから人の集まりを制限することで、ワクチンのない新しい感染症のダメージを抑えることができた例の1つとみることはできます。



■私たちは、どこまでやるべきか

2020年3月現在の日本では、感染の出ていない地域でも広く休校やイベントの中止が実施されていたり、一部の国や地域への渡航の延期要請がでていたりします。もっと厳密な制限をかけている国もあれば、これから制限をかける時期を見極めようとしている国もあります。
万一の事態を避けるために、感染者数のピークを遅らせる今の対策は大げさなのか、まだまだ甘いのか。理想的にはもっと厳密な方が良いかもしれませんし、経済的なダメージを抑えるために緩和した方が良いかもしれません。今回の措置の影響で苦労をされている方への対策も必要になるなど、考えるべきことは無数にあります。

このような状況の中で、政府の自粛要請に応じるかどうか、感染予防にどれくらい協力するかなど、私たち一人ひとりの判断に委ねられていることもたくさんあります。一人ひとりの行動は、もちろん経済にも影響します。どう行動するかを考えるときや、ニュースを見るときの判断材料の一つとして、この記事も使っていただけると嬉しいです。



日本科学未来館では、ブログや配布資料などを通して、新型コロナウイルスなどの新しい感染症についての情報を紹介しています。
ここでは割愛したウイルスの詳細や検査についても順次掲載予定になっていますので、ぜひ以下のリンク先もご確認ください。
https://www.miraikan.jst.go.jp/guide/group/forschool/COVID-19.html