ニュートリノで地球がわかるわけ

こんにちは、科学コミュニケーター林田です。

最近ニュートリノがホットですね〜*^^*。前回、6月に発表されたニュートリノ振動のニュースについて書いたと思ったら、7月には地球内部からやってくるニュートリノのニュースが入ってきました。地球内部からやってくるニュートリノの観察で、

地熱の約半分は、放射性物質由来であることがわかりました!

放射性物質が崩壊したときに発せられる熱が地熱の半分を占めているというのです。残りの半分は、地球ができたときに発生した重力エネルギー。大きい岩のかたまりたちが重力で引き合ってがっしゃんこしたので、生じたエネルギーも大きいのですね。

今までの地球物理学でも、だいたい半分が放射性物質由来でしょう、と予測されていました。でもこれは、直接観測したわけではありません。

隕石や火成岩(マグマが冷えて固まった岩石)の物質構成や、地球の内部構造から予測されていたものでした。でも、隕石や火成岩はきちんと実物を調べられますが、地球の内部構造はまだ仮説の部分が残っています。仮説をベースにさらに仮説を立てていたので、論拠としては弱かったのです。

今回、岐阜県神岡市の鉱山にあるニュートリノ検出器「KamLAND(カムランド)」が、地球内部の放射性物質から放出されたニュートリノを捕まえて、実際どれくらいの熱を作り出しているのかを直接見ることができたのです!

放射性物質が地熱の由来って、どういう意味?

「放射性物質」とは、放射線を出す物質のこと。出てくる放射線はあまりに高エネルギーなので、福島第一原発の燃料棒も溶けてしまいました。放射性物質がたくさんあると人体にも害を与えてしまうのは、皆さまご存じの通り。

3月11日以来、ほぼ毎日のように聞くようになったあの放射性物質です。

自然界にも放射性物質はたくさんあって、ウランやトリウム、ラドンなどは私たちの周りでも常に放射線を出して「崩壊」しています。私たちの周りにどれくらい自然放射線があるかは、未来館5階にある「霧箱」で見ることができます。けっこう飛び交っています。

放射性物質は地球の中にもたくさんあります。でも地球の奥深くで出された放射線は、地球内部の物質にぶつかるので(このときに熱が出ます)、地球の表面まで出てきません。だから地表で地球内部からやってくる放射線を直接観測することはできず、放射性物質による発熱量を計算することはできないのです。

しかし!実は放射性物質は、崩壊するとき、放射線といっしょにニュートリノを出します(正確には反ニュートリノ、つまりニュートリノの「反粒子」になります)。一回の崩壊ごとに一つのニュートリノを出します。

そしてこのニュートリノ、前回もお話しました通り、なんでもするするとすり抜けて、地球内部の物質に邪魔されることなく地表に到達するのです。地球内部からやってくるこのニュートリノの数がわかれば、放射性物質が一秒間に崩壊している回数もわかります。一回の崩壊で出てくる熱量はわかっているので、崩壊の回数がわかれば総発熱量がわかるというわけです。

この地球内部からやってきたニュートリノを捕らえるべく設計された、特別な検出器が、カムランドなのです。

前回のブログで、ニュートリノ検出器スーパーカミオカンデをご紹介しました。スーパーカミオカンデもカムランドも神岡鉱山の中にあります。(日本はニュートリノ研究大国ですね!)

なぜ同じニュートリノを見るのに2つも検出器を作ったのかといいますと、見ているニュートリノのエネルギーが違うのです。スーパーカミオカンデは、宇宙からやってくるエネルギッシュなニュートリノを、カムランドは原子炉や地球内部からやってくるエネルギーの低いニュートリノを見ています。

ニュートリノの捕まえ方

夏休みの自由研究でニュートリノを捕まえたいと思ったことはないですか!? (私だけでしょうか?)でも、なんでもするするとすり抜けてしまうニュートリノを捕まえるには、ちょっと大掛かりな検出器が必要です。

カムランドは、直径13メートルの風船を油の中に浮かせています。風船の中は特殊な液体が入っています。液体シンチレータと呼ばれるもので、これでニュートリノをとらえます。

カムランドのニュートリノ検出のしくみは、病院にあるPET装置みたいな感じです。

PETとはポジトロン放射断層撮影法のことで、ガンなどの診断に使います。この「ポジトロン」とは、日本語では「陽電子」で、実は電子の反粒子。PET検査のためには、あらかじめ放射性物質を含んだ物質(放射性トレーサー)を患者の体内に投与します。ガンの検査であれば、ガン組織に集まりやすい物質を放射性トレーサーに使います。放射性トレーサーの中の放射性物質が崩壊すると、陽電子が出ます。

この陽電子、すぐに周りにある電子と出合って、ガンマ線2つになります。(前回もお話ししましたが、粒子と反粒子が出合うとエネルギーになって消えてしまいます。)この2つのガンマ線は正反対の方向に飛んでいくので、これを検出することでもともとの位置、つまりガンなどの場所を特定できるわけです。

PETでは物質と反物質が出会って消滅する様子を見ているのですね!

このしくみは、カムランドでニュートリノを検出するしくみにも似ています。反ニュートリノが液体シンチレータの中の物質と反応すると、陽電子を出します。この陽電子が液体シンチレータの中を走ると発光します。そして、陽電子はすぐに周りの電子と出合ってガンマ線2つになります。これらの光が検出されれば、ニュートリノがやってきたことがわかるのです。

スーパーカミオカンデの場合、ニュートリノ検出のしくみは少し違います。詳細については、未来館5階のスーパーカミオカンデの展示でどうぞ!

ところで、地球はどれくらい発熱しているか、ご存知ですか?

なんと44兆ワット!原子炉一機の発熱量は3,000メガワット、つまり30億ワットほどなので(発電量はこの3分の1ですが)、原子炉一万機分、といったところでしょうか。このうち20兆ワットくらいが放射性物質による崩壊熱なのですね。

この地熱、日本でもエネルギーとして使えるといいですね。地熱を安全に取り出すためにも、地球内部のしくみをよく知っておきたいものです。今回のカムランドの結果のおかげで一歩前進です。

参考
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カムランド
Physicsworld.com「崩壊熱、地熱の半分を占める(英語)」

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