イベント実施報告:遺伝子組換え植物でセシウム除去を目指す

汚染した土地に植物を植え、有害物質を吸収させる。

これを、植物による環境浄化 「ファイトレメディエーション」と呼びます。

6月1日(土)未来館では、科学者を講師に迎えるサイエンティスト・トーク、

「ヒマワリからスーパー植物へ~遺伝子組換え植物で汚染土壌からセシウムをひっこぬく~」 (リンクは削除されました)を開催しました。

2011年3月11日の原発事故により、福島の地は放射性セシウムで汚染されてしまいました。農地が多く分布する福島県の中通り地方をはじめ、農業で生計をたてる生産者にとっては深刻な問題です。

今回のイベントには、土壌の除染に向けて、セシウムを効果的に吸収する遺伝子組換え植物を目指す、理化学研究所環境資源科学研究センターのアダムス英里さんをお招きしました(写真右がアダムスさん)。

除染の方法として、表土のはぎ取りなどが進められている中、なぜ植物の利用を目指すのか。そして、セシウムを高効率で吸収する「スーパー植物」にするために、なぜ遺伝子組換え技術が有効なのか。アダムスさんが取り組む研究の戦略、手法、成果を通じて、わかりやすく話してくださいました。

「飛散してきた放射性セシウムは、まず土の表面に付着し、雨水によって土の中に入っていきますが、90%以上のセシウムは表土30cm以内に留まると考えられています。ですから、表土30cmの土をはぎ取って、どこかへ移してしまえば除染完了と言うこともできます。ですが、広大な農地すべての表土30cmをはぎ取ったら、どれほど大量の土がでるか・・・ただの土ではなく放射性廃棄物です。セシウム137の半減期は30年ですから、30年経っても放射性物質の量は半分にしか減りません。非常に長期的に保管場所が必要となります」

さらに除染対象が“農地”である観点からも理由が。

「表土30cmというのは、ちょうど農作物が根をはる範囲です。何十年もかけて、植物が育ちやすいように栄養バランスと形状を整えた土です。その部分を全てはぎ取ってしまうと、その下層の固い土が出てきます。その固い土が農業に適した土になるには、また何年もかかります。農業従事者にとって、除染は必要でも、土を持っていかれてしまうと困るのです」

「その点、植物を利用するファイトレメディエーションは、植物にセシウムを吸わせることで(植物体内に)濃縮する技術のため、土を壊す心配がありません。そして、植物が吸収することでセシウムが濃縮されたら、植物を引き抜き、乾燥させ、燃やして残った灰が放射性廃棄物になります。土をはぎ取るよりも、放射性廃棄物の量をずっと減らすことができます」

なるほど、ファイトレメディエーションなら、土のはぎ取りで生じる2つの課題を同時に解決できそうです。しかし、さらに、アダムスさんは、「スーパー植物」の意外な使い道をお考えでした。

そのお話のきっかけとなったのは、参加者からの次の質問でした。

「遺伝子組換え技術によって理想的なスーパー植物ができたとしたら、現実的には、対象としている農地(放射性セシウム濃度が3000Bq/Kg前後)に何回くらい植えれば、完全に除染できるでしょうか?」

これに対し、アダムスさんは、

「1回で除染できるというものではないため、スーパー植物だけで完全に除染しようとしたら、10年、20年というスパンになる可能性はあります。ただ、一番可能性が高い、実用化の使い道としては、何らかの方法である程度まで除染を行った後に、スーパー植物を植えて、そのスーパー植物でさえセシウムが検出されないことを確かめられれば、通常の(遺伝子組換えでない)農作物を植えても、その農作物はセシウムを吸収していないことの裏付け、最終確認として使うことも考えています」

参加者の方は約40名、10代からご高齢の方まで、幅広い世代の方がいらっしゃいました。皆さん、真剣な眼差しで、熱心に耳を傾けていました。また、「植物が吸収したセシウムを、蓄積する部位も制御できるのか?根より地上部に蓄積した方が回収しやすいのでは」など、現実的な意見が多く出されました。

では、実用化に向けた課題はどこにあるのでしょうか。イベント後半は皆さんに、次のような問いかけをしました。

「近所の工場から有害物質が漏れ出しました。有害物質を回収するため、自分の所有地に遺伝子組換え植物を植えることに同意しますか」

はい、いいえ、その理由や判断基準を付箋に記してもらいました。結果は、

「はい」 23人

「いいえ」 6人

まず「いいえ」の理由をひとつご紹介します。

日本ではすでに遺伝子組換え作物を輸入していますが、輸入された遺伝子組換え体が搬送中にこぼれ落ちるなどして、国内の作物に混入していないか、非常に手間をかけた検査をしています。その現状を踏まえて

「野外に遺伝子組換え植物を植えると、花粉が飛んで他の植物の交雑することや、対象以外の土地に生えることを懸念する」

との意見でした。

一方、「はい」との回答は、アダムスさんの予想を上回る賛成数でしたが、

「遺伝子組換えであることを表示し、回収後の処理法も明確にすべき」

「食用でなければ受け入れるが、環境への影響はまだ疑問」

などの声があがりました。

同じ技術でも、使用目的によって容認できるか否かが異なることは、科学コミュニケーターとしてはとても興味深いものでした。(というのも、同じく遺伝子組換えが技術を用いた「花粉症緩和米」のサイエンティスト・トークでは、花粉症緩和米を食べる/食べない?という問いに対する答えが、大きく二分したからです。詳しくは、こちらをご覧下さい。) (リンクは削除されました)

他にも様々なご意見をいただきました。抜粋してご紹介します。

賛成・反対によらず、生態系への影響を懸念する声が最も多く、遺伝子組換え植物でファイトレメディエーションを行うには、「遺伝子組換え」の拡散防止が重要な鍵であることが浮かびあがりました。

質問に対するアダムスさんの回答からは、研究者が課題をどのように認識し、研究成果の応用のあり方、実用化する上での対策を、常に自らに問いながら研究を進めていることが伝わってきました。福島での実用化を目指した研究が進む中、改めて「遺伝子組換え」という技術の使い方、今後のつき合い方を考える一時間となりました。

■イベント概要

サイエンティスト・トーク

「ヒマワリからスーパー植物へ~遺伝子組換え植物で汚染土壌からセシウムをひっこぬく~」

イベントアーカイブはこちら (リンクは削除されました)

イベントYouTube動画はこちら

開催日時:2013年6月1日(土)14:30-15:30

開催場所:日本科学未来館 3階 実験工房

参加者:40名

Ustream中継視聴者数:54名

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