こんにちは。科学コミュニケーターの鈴木啓子です。
またもやこの季節がやって参りました!ノーベル賞の予想です!
昨年は山中伸弥先生がイギリスのジョン・ガードン博士とともに受賞されましたね。山中伸弥先生のお名前と先生が開発したiPS細胞については、もう聞いたことのない人はいないかもしれませんが、昨年の鈴木のブログ(リンクは削除されました)を読んでいただくとして...
今年はどなたが受賞するのでしょうか?
せっかくなので、私を含む科学コミュニケーターのブログを読んで、一緒に予想してみませんか?
鈴木啓子の予想する生理学・医学賞
受賞者:
Robert L. Sinsheimer (93歳、米国) イラスト左
Francis S. Collins (63歳、米国) イラスト中央
Craig Venter (67歳、米国) イラスト右
受賞テーマ: ヒトゲノムの解読
この研究のここがスゴイ!
ヒトゲノムとは、ひとことで表すと「ヒトの設計図」です。 だからマウスゲノムといったら、「マウスの設計図」。 ニワトリゲノムといったら「ニワトリの設計図」なわけですね。
ヒトの設計図(=ヒトゲノム)を本のセットにたとえてみましょう。すると、このようにあらわすことができます。
全巻(22巻+別巻2巻)セット=ヒトゲノム
セット中のそれぞれの巻=染色体 ※別巻は性染色体
本の中の記事=遺伝子
紙や文字=DNA
3人の博士たちはそれぞれ、ヒトゲノムの解読(全巻セットに書かれているすべての文字の解読!)に関わっています。
Sinsheimerさんは、ヒトのDNAの文字をすべて解読しようと提案した人、
Collinsさんはその提案を受けてできたヒトゲノム計画という国際チームのリーダーを務めた人、
Venterさんは国際チームではなく企業で独自にヒトゲノムを解読した人です。
さて、ヒトゲノムを解読すると、私たちにとってどんな良いことがあるのでしょうか?
例えば特定の病気に関連した遺伝子を調べやすくなりました。
アンジェリーナ・ジョリーさんが遺伝子検査を受け、乳がんになりやすいタイプの遺伝子を持つので予防のために乳房を切除した、というニュースは記憶に新しいですね。
こんな風に、新しいライフサイエンスの道を切り開いた、ヒトゲノムの解読は本当にすごい!のです。
ヒトゲノム解明までの道のり
Sinsheimerさんは、カリフォルニア大学サンタクルーズ校の総長を1977年から1987年の間、務めていました。もともと試験管の中で人工的にDNAを作り出したり、人工的にDNAの並び順を変えたりする研究をしていた方です。
彼が総長をしていた時代、遺伝子の解析に必要ないくつかの技術が登場して、DNAの研究が着々と進んできていました。ヒトゲノムの全体を理解したら、それは人間を丸ごと理解することに繋がるのではないか、という考えが出てくる時代でもあったそうです。
1985年に、Sinsheimerさんはヒトゲノム解読の実現可能性について話し合うために、著名な科学者を招集し、ワークショップを開きました。このワークショップこそが、ヒトゲノム計画というアイデアを科学者たちにもたらしたと言われています。
そして、数年後の1990年10月から、アメリカ主導でヒトゲノム計画がスタートしました。アメリカ、イギリス、日本、フランスなどの国の科学者が関わり、15年を目標にはじまった国際プロジェクトです。日本では当時大阪大学の教授だった松原謙一先生(現 株式会社DNAチップ研究所 取締役名誉所長)をリーダーにプロジェクトが進められました。染色体の単位で最初に解読を終えたのは22番染色体ですが、これは日本が担当していました。
Collinsさんは、元々は物理化学の分野で博士号をとりましたが、生化学に魅せられ、遺伝子やDNAの研究分野に入りました。その後、ポジショナルクローニング法など、現在でも有用な手法を開発するなど、遺伝子ハンターとして活躍しました。
1993年にCollinsさんは、DNA二重らせん構造の発見者として知られるJames D. Watsonさん(1962年 ノーベル生理学・医学賞受賞)に招かれNational Center for Human Genome Research(後の米国立ヒトゲノム研究所)の所長に就任し、ヒトゲノム計画を見渡すリーダーとして働くことになりました。
ヒトゲノムは本に例えると、22巻+別巻2巻でしたね。
全巻セットに書かれている文字は約30億文字です!
これだけの膨大な文字があると、どこが何巻の何ページ目のどの記事なのか、すぐにわからなくなってしまいますし、技術的にも不可能です。全部解読するまでに、30年くらいかかるだろう、と考えられていたそうです。そこで、国際チームは当時最新だった手法で戦略を立て、ヒトゲノムを読みはじめました。
Venterさんは非営利団体のゲノム科学研究所(TIGR)で、生物種としてははじめて、インフルエンザ菌のゲノムを解読しました(注)。そして、1998年、セレラ・ジェノミクスという会社を設立し、1999年からヒトゲノムの解読をはじめました。
VenterさんはEST法など、以前からDNAの解読に関して有用な手法を開発してきました(現在でも使われています。彼は、もともとは国際チームの一員でしたが、後述する理由からそこを飛び出し、国際チームとは違った、全く新しい方法で解読を進めてきました)。
Venterさんの解読法はとても解析が速く、国際チームの解読にどんどん追いついていきました。
ここで、ヒトゲノム計画とセレラ社の立場の違いについて話しておきます。
ヒトゲノム計画では、得られたゲノムデータは人類共通の知識として提供するために、無償で閲覧が出来るようにしよう、と決めていました。
一方セレラ社は、有償でゲノムデータを提供する、と言っていました。
Venterさん率いるセレラ社が追い上げる中、ヒトゲノム計画メンバーも先を越されないようにと急ピッチで解読が進められました。
そして迎えた2000年の6月26日。当時のクリントン大統領、イギリスのブレア首相がヒトゲノムの概略を解読した、と宣言しました(データの公開は2001年)。Collinsさん率いる国際チームのヒトゲノム計画とVenterさんのセレラ社は同時に概要の解読を終了したということになりました。クリントン大統領は2000年3月に、「すべての研究者に無料で提供されなければならない」と宣言もしています。
その後、2003年に国際チームからヒトゲノムの詳細版が発表されました。今ではDDBJをはじめとする様々なホームページで、誰でも自由にヒトゲノムを閲覧できるようになっています。
ポスト・ゲノム時代
ヒトゲノムが解読されて、今年で10年目。
昔と今では何が違うのでしょうか。
前述のように個人が遺伝子検査をできるようになったのは最近の話です。
遺伝子には、ちょっとずつ個人差があります。血液型にA型の人やB型の人がいるのは、遺伝子レベルの個人差から来ています。病気のかかりやすさなどの遺伝的な体質もこうした遺伝子レベルの個人差が原因と考えられています。
Collinsさんは、こうした遺伝子の個人差を探すプロジェクトも少し前に始めています。今でも遺伝病に関わる遺伝子の種類や、その遺伝子を持つことでどのような症状が現れるのかが研究されています。
また、ゲノムを解読するのは、今ではそれほど大変なものではありません。次世代シーケンサーという装置を使えば、約10万円で99.99%の精度で自分自身のゲノムを調べられる日がもうすぐそこまで迫っています。そうすれば、早い段階でかかりやすい病気がわかったり、自分にぴったり合った薬を処方されやすくなるかもしれません。
そうなる未来がやってきたら、みなさんだったらゲノムを調べてみたいですか?
そう思うのはどうしてでしょうか?
今年だと思う理由は?
今年はJames D. Watson博士とFrancis H. C. Crick博士がDNAの二重らせん構造を解明してから60年!
ヒトゲノムの解読(詳細版)からちょうど10年!
とってもきりがよく、記念すべき年です。
たぶん、今年はこの3人なのではないかな...?と鈴木は予想しています。
ノーベル生理学医学の発表は10月7日(月)日本時間の18時30分から。 お楽しみに!
注
インフルエンザ菌は、ややこしいですか、冬に流行するインフルエンザとは無関係です。インフルエンザはウイルスが原因です。
管理者注)
すぐ上の「今年はWatson博士とCrick博士の~から60年」は2013年9月12日19時30分ごろに修正したとおり、DNAの二重らせん構造の発見(1953年)から60年です。両博士がモーリス・ウィルキンス博士とともにノーベル賞を受賞したのは1962年です。大変失礼いたしました。
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