サイエンティスト・クエスト➀災害のときの「逃げ道」について語り合う。

あなたと科学の接点は、どこにあるのでしょうか?

みなさんの未来をつくる「科学」。世界をかえる「科学」。

ときに「科学」は、私たちに新しい視点をもたらします。そして誰かが見た新しい世界を、自分も見てみたいという思いをかきたてます。

サイエンティスト・クエストは、第一線の研究者とみなさんが一緒に、答えのない疑問に向き合う場。まずは研究者が、自らの研究とみなさんの生活をつなぐ「問い」をひとつ投げかけます。この「問い」を入り口に、新しい科学と自分のくらしの接点をさぐります。

一日3回のトークでは、参加者とのやりとりによって、問いの内容も徐々に変化していきます。さまざまな分野の第一線で活躍する研究者を迎えて定期的に行う、あたらしい対話の場です。

9月7日(土)にサイエンティスト・クエストの第一回目の講師として、来ていただいたのが辻順平さん。

辻さんは、独立行政法人産業技術総合研究所(以下、産総研)で、コンピュータを使って災害時の人間の動線を分析し、最適な逃げ道の設計方法を探る研究をしています。災害に備えてどのように「逃げ道」を確保すべきか。地震大国日本においては特に重要な課題です。

また、先日起きた御嶽山の噴火。「ザックで頭をかばった」「近くの神社にかけこんだ」。そうしたとっさにとった適切な行動で九死に一生を得た方がいます。

では、サイエンティスト・クエストでは、どんなやりとりがあったのでしょうか。のぞいてみましょう!

災害を防ぐ、ではなく、災害を減らすという考え方

「地域の防災訓練に参加したことがありますか?」

やわらかな雰囲気の中、辻さんからまずこんな投げかけがありました。

参加したことがあると答えたのは、参加者の半分ほど。なにを隠そう、わたしも実家を離れてから一度も地域の避難訓練に参加したことがありません。

ちょっと後ろめたい気持ちで苦笑いをしていると、辻さんからは意外な投げかけが。

「参加したことがあると答えた方に聞きます。いざ地震が起きたときに役に立つと思いますか?」

すると参加者の中からこんな風に答えてくれた方が居ました。

「自分の近所にどんな人たちが住んでいるのか、それを知るにはいい機会。でも、そこで行った訓練の通りのシチュエーションになるかは分からないし、案外、大きな地震が起きたらパニックになるかもな。」

すると辻さんはうなずきながら、

「避難訓練では、地域の交流という点では非常に大きな意味がありますよね。でも今日みなさんとお話ししたいのは、訓練をしていれば安心というのではなく、災害が起きるまえに「逃げ道」がどこか知っておいたり、作っておく必要があるんじゃないかということです。これは防災ではなく、"減災"という考え方です。」

身体の感覚をとりもどす

こんな話をしていると、参加者の中からこういう声が聞こえてきました。

「スマートフォンを使うようになってから、地理感覚というか、身体がまちを感じる感覚が衰えてきた気がします。野生の勘を取り戻せってことなんですかね(笑)」

「見ているけど、意識に上らないなんてこともよくありますよね。ところでみなさん、目をつぶってください。この近くにはどこに非常口がありますか?消火器は?指さしてください」と辻さん。突然のクイズに戸惑う指がたくさんありました。

他の参加者の方からは、「毎日見ているはずの光景でも、じぶんのまちのが持っている災害のリスクはあまり考えてきませんでした。先日の大雨で、意外に自宅の近くで河川の氾濫が起きやすいと気づきました。」

ここで辻さんから、こんな話題提起がありました。「誰が「逃げ道」を考えるの?」

誰が「逃げ道」を考えるの?

辻さんは産総研で、じぶんや地域よる「逃げ道づくり」をサポートするコンピュータシミュレーションを作っています。

でも、「逃げ道には、正解はないんです」と辻さん。災害シミュレーションのプロから、あっさりと出てきたことばに驚く人もいましたが、とても切実感のある印象的なことばでした。

「じゃあ、誰が「逃げ道」を考えるのか、こんな考え方があります。」そう言って見せてくれたのがこの図。

「自助・共助・公助」。自分の身は自分で守るという考えが「自助」。地域のみんなで身を守るのが「共助」。そして国や自治体が身を守るために行うのが「公助」。辻さんはこの3つのバランスが大事だと言います。

例えば、2011年の震災のあともそうでしたが、トイレットペーパーや水の買いだめだけでも、身を守り続けることは難しい。まちの整備や自治体としての備蓄、町内会内での配給など、もう少し大きな備えも必要ですよね。

とは言ってもまずはじぶんにできる取り組みの例として辻さんから「逃げ地図プロジェクト」の紹介もありました。これは地域の人たちが、災害の時にじぶんの住んでいるまちにどんなリスクがあるのかを地図に書き込み、あらゆる可能性を議論するための材料にします。書かれる情報の中には、お年寄りや障害者の方の人数や移動スピード、道の幅員、勾配、整備状況、時間帯による混雑度など、地区固有のさまざまな経験知が盛り込まれています。まだまだ検証は必要ですが、まちの安全性を考える上で重要な情報です。

まとめの問い

参加者の方をいろんな議論をした後、最後に辻さんからこんな問いをいただきました。

「『逃げ道』を確保するために、あなたにできることは何だと思いますか?」

きっとこの問いへ答えはすぐにはでないかもしれません。

でも、こうしてふとじぶんのまちに帰ったとき、いつもの光景がちょっと違う目で見えるかも知れません。

サイエンティスト・クエストは、こうして研究者から最新の科学を聞くだけでなく、参加しているみなさんのくらしについて、ことばを交わしながら想いをはせる時間です。今回も、トークの後に参加者が辻さんや科学コミュニケーターと一緒に議論を続ける光景が見られました。防災以外にも、さまざまなテーマで行っていく予定ですので、ぜひ次回の参加もお待ちしています!

また参加者としてだけでなく、じぶんの研究をこうして未来館の来館者のみなさんといっしょに話し手みたいという研究者の方もぜひ、お声がけください。

いっしょに、対話の場を作っていきましょう。

●サイエンティスト・クエスト第一回目の情報は、こちら。 (リンクは削除されました)

タイトル:「サイエンティスト・クエスト~あなたと考えるあたらしい科学とくらし」

テーマ:災害時に「逃げ道」を確保するために「あなたが」できることはなにか

講師:辻順平氏(産業技術総合研究所サービス工学研究センターサービス設計支援技術研究チーム)

企画・ファシリテーション:落合裕美、長谷川麻子(日本科学未来館科学コミュニケーター)

開催日時:平成26年9月7日10:45~11:30、13:30~14:15、14:45~15:30(計3回)

開催場所: 展示フロア5階 「医療」まえ

参加人数50名(全3回計)

「防災・リスク」の記事一覧