何枚も撮って重ねると、星がたくさん写るのはなぜ?
未来館が1月末におこなった、クラブMiraikan会員向けイベント「見極めろ!宇宙からの淡い光 -画像処理の体験から最先端へ」(協力:株式会社リコー、リコーイメージング株式会社)。ドームシアターでの撮影練習と画像処理の学習を経て、屋上で撮影に挑戦すると、思っていた以上にたくさんの星が写りました(詳しくは前編記事へ)。
今回の後編記事では、宇宙からの淡い光を見極める画像処理「比較明合成」について、詳しく説明していきます。
普通に撮っても、星はあまり写らない
人工光が多い東京で夜空の写真を普通に撮っても、星は目立ちません。よく見ると小さな点がいくつかあるのですが、小さいし、暗いのです。
この星を目立たせるために、「たくさん撮って、明るい方を残して重ねる」という方法が登場します。この方法を「比較明合成」と呼んでいます。
いったいどんな方法なのか。次のような風景を撮る場合で考えてみます。
都会の夜空。ビルがあり、空も明るめです。東の空にとても明るい星がひとつ、やや明るい星がひとつあり、少しずつ右上に昇っていきます。
画像をデジタルデータに
デジタルカメラで撮影する場合を考えると、画像はピクセル、つまり、点の集まりです。簡単な(ビルの窓は2つだけ)ピクセル絵にします。同じ場所で連続して撮った2枚は、ほとんど同じ写真ですが、日周運動で星が昇った分だけ少し右上に動いています。
そして、今回は明るさがカギなので、色を抜いてモノクロで考えることにします。
さらに、コンピュータで処理するのはデジタル化された数値情報なので、このモノトーンを、0(真っ黒)~5(真っ白)の6段階で数値に置き換えます。星の明るさは、ビルの窓や壁と同じくらいでしょうか。
2枚目は青で数値化します。星の位置が違いますね。そして、モノクロの画像を取っ払うと、とても無機質になりました。なんだか、コンピュータになったような気分がしてきたところで、画像処理の準備が完了です。
いよいよ「重ねる」。足し算だと・・・?
さて、さっそく重ねてみましょう。ひとつのピクセルの中に、1枚目と2枚目の両方のデータがあります。問題は、ここから。この数字を、どう処理しましょうか。
まずは、単純に「足し算」をしてみます。計算が終わったところでモノクロの画像に戻してみると、、、
空は夜とは思えないほど明るくなってしまいました。ビルの窓と壁は両方とも6以上。つまり、どちらも真っ白で見分けがつきません。さらに、もう一枚を足し算すると、空も星も全てが真っ白になってしまうことが想像できるでしょうか。
「足し算」は、カメラが受けた光を全て合計すること。つまり、枚数を撮った合計時間を、1枚でまとめて撮った場合と変わりません。10秒で写した6枚を重ねたら、60秒かけて撮った1枚の写真と同じになるということです。重ねる枚数を増やせば増やすほど、全体が明るくなってしまいます。
星も空も残すためにはどうする?
「足し算」ではうまくいきませんでした。もう一度、ひとつのピクセルに両方のデータを重ねた状態で考えてみましょう。
空の明るさは、そのままにしておきたい。でも、星が写っているところは星の明るさにしたい。どんな処理をしてあげれば良いでしょうか?
(図のあとに答えが書いてあります。読み進める前によかったら少し考えてみてください)
比較明合成=大きい方を残す
ここで登場するのが「比較明合成」です。「比較」して「明るい」方を「合成」する。つまり、明るさを数値化した状態で、大きさ比べをすれば良いのです。
赤と青の数字を見比べてみましょう。ほとんどのピクセルで、同じ値になっています。同じ条件で同じ風景を撮ったのだから、それは当然のこと。赤と青の間をとって紫で表します。
そして、赤と青で数値が違うピクセルが4つあります。星が動き、1枚目と2枚目で写っているピクセルが違うためです。これらのピクセルで赤と青の大きさを比べ、大きい方を残します。さぁ、全てのピクセルの値が決まりました。画像に戻してみましょう。
空やビルの明るさは変わらず、星の線が延びました。これを3枚、4枚と繰り返していくことによって、星の線はどんどん長くなります。星が明るくなったわけではないのですが、線になることで、写真の中での存在感が増していくのです。
ほかにもいろんな合成方法が
星の軌跡を残す以外にも、いろいろな計算方法があります。たとえば、「比較暗合成」とでも言いましょうか、数値が小さい方を合成したらどんな写真になるでしょう?また、2枚の画像を重ねて、ビルなどを消して星だけを残す方法はあるでしょうか?
複数画像を「重ねる」という手法は特に、構図内で動いているものがあると(今回は星ですね)、方法を使い分けることによってさまざまな画像を作成することができます。画像には、一見しただけでは気がつかない情報もたくさん詰まっているのです。
そして天文学の現場でも、移動天体(小惑星や彗星、宇宙ゴミなど恒星とは異なり位置を少しずつ変えていく天体です)を検出する場合に、同じような手法が使われています。応用例も多く、例えば重ねる時に移動天体の位置を基準にすれば(JAXAのサイトへ)(リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)、細部を詳しく見たり、より暗い天体を発見したりすることもできます。デジタルだからこそできる、データの重ね方です。
昼間の写真でも、画像処理は有効です。GRのようなカメラを使っても良いし、オンラインのフリーソフトでも簡単な画像処理ができます。大切なのは、自分が見たいのは何の光で、それを見極めるための適切な画像処理が何なのかを考えること。研究に、調査に、創作活動に、ぜひ、工夫して試してみてください。