Lesson#3.11 5年前、そして5年間を測る

「測っていない魚より、測ってある魚の方が安心だとは思わないのだろうか。」

2015年5月。友人の伝手を頼って福島県相馬市に住む漁師、Kさんを訪ねました。

震災当時、Kさんが拠点にしていた港は福島県浪江町にある請戸漁港。東京電力福島第一原子力発電所事故により現在は避難指示区域である町が有する港です。現在、操業は停止されていますが、再開に向けて準備が進められています。

浪江町と請戸漁港、福島第一原子力発電所(Google Mapより)

Kさんは、今は拠点を相馬に移し、試験操業のために漁に出ます。試験操業とは、福島県によるモニタリングの結果から安全が確認されている魚種に限定し、小規模な操業と販売を行うことで、福島県の漁業再開に向けた基礎情報を得るために行われています。(参考リンク:福島漁連試験操業ポータルサイト) (リンクは削除されました)

港に停泊する漁船
港の周辺にはまだ津波の爪痕がくっきりと残る

販売される漁獲物は福島県漁連が中心となり、放射性物質の検査を行っています。市場に出る漁獲物は、もちろん放射性物質の検査をクリアしたものたち。しかし築地市場などでは、なかなか競り落としてもらえず、何度も何度も競りにかけられ、かなりの安値でようやく購入者が現れる、ということが度々起こっています。

Kさんは言いました。

「(放射線量を)測っていない魚より、測ってある魚の方が安心だとは思わないのだろうか。」

苦悩と憤りに満ちた表情の彼の言葉は重く、私は言葉を失いながら、Kさんの自宅を辞しました。

東京に戻り、考え続けてきました。

なぜ、人は数字を見ても安心と思えないのか。

なぜ、人は数字を見なくても安心するのか。

その数字が意味することがわからないから?

その数字がどうやって導き出されたものかがわからないから?

どうやったら私たちは、数字を冷静に受け止めて判断できるようになる?

どうしたら・・・!

東京の科学館の科学コミュニケーターである私に何ができるのか、ずっと悩んでいました。

原子力発電所の安全に関わる仕事をしていた自分 (リンクは削除されました)だからこそできることがあるのか、ないのか。考えすぎて立ち止まっているうちに、東日本大震災をもたらしたあの巨大地震が発生してから5年経とうとしていました。そんなある日、プロジェクトが動き出しました。

Lesson#3.11 5年前、そして5年間に起きたこと

日本は5年前、何を経験し、この5年間で何を学んできたのか。

プロジェクト始動に背中を押される形で、私自身も動き始めました。持っている力を尽くして調査をし、調べたことをわかりやすく伝えるためにはどうしたらよいのか考え抜いて、イベントの準備を進めました。

イベント「Lesson#3.11 5年前、そして5年間に起きたこと」は、こうして5日から始まりました。

パネル展示のほか、ミニトーク(毎日)やWS(土日のみ)も行っています。

パネル展示
低線量被ばくに関するミニトーク
福島で使われている放射線測定器で空間線量率を測定するワークショップ

これらを準備する中で私がたどり着いた答えは、ただ一つ。未来館に来てくださるみなさんとたくさん話して、意見や疑問に思うことを直接教えてもらおうということでした。

パネル、ミニトーク、ワークショップ。そこには、科学的に「測った数字」が並んでいます。

それを見て、何を思いますか。何を疑問に思いますか。教えてください。

そして一緒に話しませんか。東日本大震災から5年経つ今、そしてこれから、何を考えて何をしなければならないのか、一緒に考えませんか。

未来館1階、コミュニケーションロビーにてお待ちしています。


Lesson#3.11 5年前、そして5年間に起きたこと

開催日時:2016年3月5日(土)~2016年3月28日(月)

開催場所:日本科学未来館 1階コミュニケーションロビー、3階実験工房、ほか

ミニトークやWSの開催日時や内容はHPをごらんください。

https://www.miraikan.jst.go.jp/event/1602151919376.html (リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)


最後に、東日本大震災・大津波でお亡くなりになられた方々へ哀悼の意を表するとともに、今も避難生活を送る方にお見舞い申し上げます。

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