宇宙から帰ってきたばかりのスペシャルゲストが未来館にやってきました。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)の
油井亀美也宇宙飛行士!!
僕自身も「ついに油井さんに会える!!」とワクワクが止まりませんでした。科学コミュニケーター谷とともに昨年5月から油井さんの活動を紹介し、応援してきたからです。
本イベント「みんなでひらく宇宙のとびら~油井飛行士から未来のきみへ」については、THE PAGEさんの記事(リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)で詳しくまとめられています。このブログでは、僕が、油井さんと直にお話しして感じた3つの印象について紹介しますね。
最初の印象・・・それは鉄人
油井さんは航空自衛隊のテストパイロット出身ということもあり「強靭な肉体の持ち主だろうな」と想像はしていたのですが、トークイベントでの一言でそれが確信に変わりました。こんなことをおっしゃっていたからです。
「宇宙に行って無重力環境にいると、重力のことを体はもう忘れちゃってるんですね、頭も。そういうこともあって、リハビリテーションって言ってるんですけれども、地球のこの重力がある環境に慣れるための、体を元に鍛えたりする期間が45日間ほどありましたね。私はでも、45日間使わずに、2週間ぐらいでもうほぼ元に戻ってしまいましたけれども(笑)」
横にいた僕は「普通できないでしょ。やはり鉄人だ (笑)」と心の中で思っていました。宇宙空間に1ヶ月以上滞在すると、筋力が落ち、骨量も減ってしまうので、地球に戻った宇宙飛行士には、身体をもとに戻すのに45日間のリハビリ運動をします。油井さんはずっと長い142日も宇宙にいたにも関わらず、たった2週間でほぼ元通りに戻したというのです。
油井さんの凄さは肉体だけではありません。宇宙飛行士として仕事をするには英語とロシア語でのコミュニケーションも欠かせません。油井さんもその両方を操ることができ、体力も知力も兼ね備えたスーパーマンと言えます。
「でも、それは才能でしょ!」と考えると方も多いかも知れませんが、私はそうは思いません。努力ももちろんですが、別の秘訣もあったのです。
どんなことでも楽しむ
油井さんの言語を習得する秘訣。それは「勉強するからには楽しんだほうがいい。私は、海外の人と話すことが楽しみだったので、そういう楽しみを見つけながらやりましたね」。
宇宙飛行士だから!とか、試験にパスしなきゃ!とかではなく、違う文化の人と話したいという思いが原動力となり、「美しいロシア語」と言われるレベルにまで引き上げていったのでしょう。好きこそ物の上手なれというのがよくわかります。
この楽しむ能力は、国際宇宙ステーション(ISS)での活動中、いろいろな場面でみられました。
例えば、宇宙の謎多き存在であるダークマターの初観測を目指す高エネルギー・ガンマ線観測装置(CALET)には、親しみを込めて「CALETちゃん」と呼びながら運用したり、宇宙で育てたレタスを食べる時にはこんな感じで楽しんでいたそうです。
YouTubeより(動画公開:NASAKennedy)
楽しそうですよね。「宇宙から帰って来たくなかった」と表現するほど、宇宙滞在を満喫していました。油井さんの話を聞いて「宇宙で生活することはとっても楽しそう」と憧れを抱いた方も多かったでしょう。
一方で、「ISSでの活動は非常に厳しいことが要求される」とも言っていました。地上から物資を運搬する「こうのとり」の捕獲は、もし失敗したら全体の計画を大幅に見直す事態になるほどの重要な場面でした。強いストレスがかかる任務です。日々の生活も予定がびっちりで、1日8時間の仕事は分刻みのスケジュール。1つひとつのミッションに楽しみを見いだしたからこそ、手をぬかず正確に、そして迅速にミッションをこなせたのでしょう。
一番の印象、それは"チームの心"
宇宙で忙しい毎日を過ごしていた油井さんですが、貴重な自由時間を割いて欠かさずしてきたことがあります。それはツイッターでの情報発信。ミッションの経過報告をしたり、宇宙から撮影した地球の写真を載せたり、宇宙での体験を地上の私たちにも伝わるように、情報発信をしていたのです。
会場の皆さんに「油井さんのツイッター見たことある人」と問いかけてみると、たくさんの手があがりました。その光景をみて、油井さんは「ツイッターを読んでくださった方々とか、やっぱりメッセージを送ってくださった方々、ISSを見て、手を振ってくださっている方々、みんな大きなチームじゃないかと思います」
未来館で油井さんの活動を紹介しているときは、僕の思いが油井さんに届いているかどうかわかりませんでした。でも油井さんの言葉を聞くと、ツイッターを読む、ISSを眺めることが、油井さんの力になっていたというのです。油井さんのことを応援し続けた皆さんの思いは本当に届いていたのです!!しかも、わたしたちのことをチームの一員と考えてくれていたのですね。
油井さんは、自分一人で宇宙に行っているのではなく、日本を代表して、世界を代表して宇宙に行っています。だからこそ、チーム全員に感謝をするとともに、宇宙をできる限りみんなと共有したいという"チームの心"が伝わってきました。
このチームの心こそ、私が油井さんに出会って最も素晴らしいと感じたことです。イベントの後半では、参加者から直接質問をうけつけました。油井さんが質問者のところまでいき、子供たちの質問に丁寧に耳を傾けていました。例えばこんな場面がありました。
「宇宙でろうそくの火をつけたらどうなるんですか?」と少年が聞くと、相手の知識レベルにあわせながら順をおって説明します。その姿は、科学コミュニケーター顔負けでした。
未来を担う子供たちからの純粋な質問に対し、相手の文脈にあわせながら答える。同じ宇宙を目指すチームメイトとして、とても誠実に子供たちと接していました。彼らにとって何にも変えられない経験になることでしょう。
チームの心を感じる場面はここにもありました。日本科学未来館に来る多くの人へと油井さんの直筆サイン入りミッションボードをプレゼントしてくれました。
これまで、油井さんが持つ3つの側面「鉄人」「どんなことでも楽しむ姿勢」「チームの心」を紹介していきました。どれも宇宙飛行士には重要な要素ですが、私はこの中でも、最後の"チームの心"が特に重要だと考えています。
それは、ISSでの活動がチームワークなくしては語れないからです。
次回のブログでは、宇宙開発を行う上でのチームワークについてご紹介していきます。お楽しみを!