宇宙に行くなら、「安全第一」で!

「ご安全に!」
はじめまして、今年の4月より未来館に加わりました科学コミュニケーター片平です。

冒頭の挨拶、なじみの無い方も多いかと思います。私、片平が以前に勤めていた鉄鋼業界で日常的に使われる挨拶です。
みなさんも工事現場や工場に掲げられた、「安全第一」なんて書かれた看板を目にしたことがあるかもしれません。危険があるかもしれない、事故が起きるかもしれないところでは、こうした看板や挨拶の形で、いつも安全が意識されています。
この「安全第一」の看板、宇宙にも必要なのかもしれません。 

2016年2月17日に打ち上げられたX線天文衛星「ひとみ」。すでにニュースで見聞きした方も多いかもしれませんが、3月26日に通信が途切れ、4月28日に復旧を断念することになってしまいました。

「ひとみ」がどんな目的で打ち上げられたのか、どんな成果が期待されていたのかについては、打ち上げ前に書かれたこちらのブログを参考にしてみてください。

「ひとみ」の異常事象が発生した状況や原因についてJAXAから報告書が提出されています(報告書のPDF)。衛星の分離に至るまでにいくつかの異常があったことがわかっていますが、最終的な要因は、異常状態を収束させるために送られた「ひとみ」の回転を制御するパラメータの誤りであったと考えられています。

そして、パラメータの作成に関する作業が文書化されておらず、指示や検証が曖昧になってしまったこと、パラメータ作成の開発業者内の伝達ミスで検証が行われなかったこと、JAXA自身も検証の有無を確認しなかったこと、が原因であると報告されています。また、この背後にある要因として、設計・運用段階において、「安全」な運用への認識が甘く、リスクを防ぐためのシステム体制の整備不足があったと考えられています。今後の対策としては、設計・運用上の具体的な対策とともに、プロジェクトマネジメント体制や役割・責任分担の見直しなどを行うとしています。

 結果論ではありますが、今回は「安全第一」、つまり予定通りに支障なく運用することが最優先という鉄則が守られていませんでした。では何が第一になってしまっていたのでしょう。「安全第一」と言う時、第一である安全の次、第二ってなんでしょう?

「安全・品質・生産・コスト」

私は前職で、こういう順番で考えなさい、と教わりました。「コスト」のために「品質」をないがしろにしてはいけない。「安全」のためなら「生産」が一時止まるのもやむを得ない。順番が明確であれば、第一である「安全」をどうやって守らなくてはいけないかを考えることが出来ます。

この順番は様々な場面で活かせる考え方だと思っています。例えば、今日のご飯ならば、食べて「安全」なものを、栄養のある体にいい「品質」のものを、満足できる量を「生産」して、できれば「コスト」は安く。

今回の失敗では「安全」が失われた結果、期待していた「品質」のデータは「生産」されず、開発や打ち上げにかかった「コスト」は無駄になってしまいました。「安全・品質・生産・コスト」の順番は上位のものが失われると、後に続くものも同時に失われてしまう順番です。だからこそ、本当に「品質」や「生産」を考えれば考えるほど、「安全」を第一に考えなければならないのです。

「ひとみ」の後継機の開発案が、JAXAからすでに7月14日に2020年を打ち上げ目標として出されています(開発案のPDF)。そして8月1日に行われた内閣府の宇宙科学・探査小委員会において了承され、文部科学省から出される来年度予算(=「コスト」)に盛り込まれると見込まれています。8月30日には、来年度予算の概算要求に、「ひとみ」後継機の開発予算として文科省は39億円を盛り込んだと報道されました(開発費の総額は約240億円)。

JAXAの後継機提案の資料では、まず「安全」への取り組みとして、以下のようなことが報告されています。事故の背景となったプロジェクトマネジメントの体制や役割・責任分担に関しては、対策としてその見直しが提案され、現在、ミーティングや意見交換を行っていることが報告されています。また、具体的な設計・運用における見直し案が検討されていることも明らかにされています。

それとともに「ひとみ」が運用を中断するまでの間に「生産」された成果の「品質」が非常に高く、X線天文学における国際的な競争力、研究人材の育成、といった科学的な成果の「品質」や「生産」面から後継機開発の高い意義が示されています。

今回どれだけの対策ができるかは、後継機だけの問題ではなく、今後の日本の宇宙開発において「安全」は何番目におかれるのか、という非常に重要な問いかけであると、私は捉えています。資料の中で上げられた対策が、これからどう進められるのか、最終的にどうなっていれば「安全」を守って成果をあげられると判断できるのか、といったことは今の段階ではわかりません。「安全第一」で確実に対策が進められた上で、後継機が私たちに多くの驚きや発見を届けてくれることを願うばかりです。

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