今年のノーベル物理学賞の予想に、
これだけは外せない...!!
皆さま、初めまして!
4月より科学コミュニケーターの仲間入りをした、山内と申します。
ここまで続いて参りましたノーベル賞予想、物理学賞の最後となる第三弾!
私が予想する受賞テーマは、「今年と言えばやっぱりこれだ!!!」と声を大にして紹介したい、こちらです!!
重力波の発見に対する貢献
そう、あまりのインパクトに、海外の研究成果にも関わらず日本の新聞各社が号外を発行したほどの超ビッグイベントだった、重力波の直接観測です!
天文学、ないしは物理学の歴史の1ページに深く刻まれるほどの大発見だったわけですが、これほどの重大発見にもなると、重力波の直接観測に貢献した方々はもーーーーのすごくいっぱいいます。その数はなんと......1,000人以上!
この中からノーベル賞を受賞できる「3人」が選ばれる訳です。厳しい世界だ...
(でも、他の賞を受賞した際は賞金を全員で山分けしたようです。やさしい...)
ということで今回はぐぐっと絞って、重力波の観測に成功したアメリカの天文台LIGO(ライゴ)の創始者である3人が受賞するのではないか、と予想します!
左から、
キップ・ソーン(Kip S. Thone)博士
1940年生まれ、カリフォルニア工科大学 名誉教授。
重力の理論をはじめとした相対論的宇宙論に貢献。
Photo by Jon Rou
ロナルド・ドリーバー(Ronald W. Drever)博士
1931年生まれ、カリフォルニア工科大学 名誉教授。
干渉計で用いられるレーザーの安定化に貢献。
Photo by The Drever Family
レイナー・ワイス(Rainer Weiss)博士
1932年生まれ、マサチューセッツ工科大学 名誉教授。
レーザー干渉計によって重力波を検出する方法を提案。
さて、重力波についての詳しい解説は、すでに科学コミュニケーターの雨宮がブログにしているので、そちらに譲るとして。
https://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/20160213post-650.html(リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)
私からはちょっと視点を変えて、今回の発見のどこがすごかったのかを中心に紹介したいと思います。
そもそも重力波とは?
重力波とは、一言で解説すると「大きな質量を持った物体が運動することで生じる、時空のゆがみの伝播」です。
・・・????
ってなりますよね。そこで、とてもわかりやすい動画を見つけました!ぜひコチラをご覧ください。
こちらの動画は、2つのブラックホールが合体する様子をコンピューターシミュレーションで再現したものです。
背景の星々が、ブラックホールの周りでぐんにゃり曲がって見えているのがよくわかります。実はこれ、ブラックホールの重力により、周りの光がゆがめられてしまうために起こっているのです。
その中でも特に注意して見て貰いたいのは、ブラックホールの横、動画の左右の端です!
背景の星が波を打つようにゆがんでいるのがわかるでしょうか...?
そう、これこそが重力波なのです!
ブラックホールのような非常に質量の大きい星が、連星(2つの星が互いの周りを回っているもの)を作ったり、合体したりすることで、時空をゆがめる「さざ波」が生まれます。これが地球まで届いたのですね!
重力波発見のどこがすごかったの!?
時空のさざ波である重力波は、100年前にアインシュタイン博士が予言してから、世界中の研究者が直接観測を目指してきました。そして長い月日がたち、2015年9月14日9時51分(日本時間14日22時51分)、ついに観測に成功したのです!
さて、この大発見には「すごい!ポイント」が大きく3つあります。
☆ 重力波を捉える新たな"眼"を開発できたこと
☆ アインシュタイン博士の100年の宿題がついに解けたこと
☆ 新たな天文学が切り開かれたこと
これらはどれも重要な「すごい!ポイント」なので、詳しく紹介していきますね!
☆ 重力波を捉える新たな"眼"を開発できたこと
重力波を直接"視る"ためには、そのための特別な"眼"が必要です。
つまり、時空がどれくらいゆがんだかを測る"眼(観測装置)"を用意しなければなりません。
でも、この"眼"を開発するのが、非常に困難でした。
というのも、地球に届く重力波はかーなーりー小さいのです。
どれくらい小さいかというと、今回観測された空間のひずみが「10のマイナス21乗」。
これは、「地球から太陽までの間で、空間が水素原子1つ分ほどひずんだ」ぐらいの大きさです。
......え、これどうやって視るの...
と、多くの方が思ったに違いありません。
事実、この50年間は"眼"を開発するために費やされてきました。
ではLIGOは今回、どうやって検出したのか。
それは、レイナー・ワイズ博士が提案した、レーザー干渉計を利用する方法です。
この方法は、至ってシンプル。
まず、レーザーから発した光を、ビームスプリッターでまっすぐ進む光と垂直に曲がる光の2つに分けます。
その光を遠くに置いた鏡に反射させて、戻ってきた光の到達時間を両方で比較します(正確には光の「干渉」という性質を利用して判定します)。
もし空間がゆがんでいると、光が進む距離が少しだけ伸び縮みするので、到達時間が少しずれるのです。
しかし、私たちが視たいのは、「10のマイナス21乗」の世界。
あまりに小さな変化を視るためには、大きく拡大する必要があります。
そのため、LIGOではレーザーと鏡の距離を4km(!)も離して確実に変化を捉えようとしています。
...でも実は、4kmでは全く距離が足りていないんです。
もっと拡大するため、鏡とハーフミラーの間を何度も往復させて、合計1,120km(!!)もの距離まで伸ばしています。
※ちなみに、1,120kmはだいたい岡山―札幌間くらいの距離です。
これだけの距離を放つレーザーは、かなり安定していなければなりません。そのレーザーの安定化に貢献したのが、ロナルド・ドリーバー博士です。
約1,000kmまで距離を稼ぐことが出来れば、「10のマイナス14乗 =原子の大きさの1万分の1の長さ」まで拡大することが出来ます。これも十分小さいような気がしますが、最新の科学技術を使うことでこの些細な変化を捉えることができたのです。
ここまでしてやっと、重力波を視る"眼"を得ることが出来たんですね...!
☆ アインシュタイン博士の100年の宿題がついに解けたこと
ちょうど100年前の1916年、アインシュタイン博士は「一般相対性理論」を発表しました。
重力に関する理論とも言えるこの「一般相対性理論」は、当時確認されていなかった様々な現象を予言しました。重力による時間の遅れや、ブラックホール、重力レンズなどがその代表例です。私たちが普段使っているGPS(全地球測位システム)にも、一般相対性理論が使われています。
その予言された現象の一つであり、かつ唯一まだ確認されていなかった現象が、重力波でした。
それが今回、重力波の直接観測に成功したことで、ついに一般相対性理論が実証されたのです!しかも、その「実証された」精度は驚くべきものでした。
こちらがLIGOで観測されたデータですが、皆さんによーーーく目を凝らして見ていただきたいのは、上2つのグラフに描かれている白く細い線です。
(グラフが2つあるのは、ノイズ対策のため観測所をハンフォード、リビングストンの2カ所用意しているためです)
この白くて細い線は一般相対性理論を元にして計算された理論値を表しています。
...そして、これが観測値とほぼぴったり同じなのです!もはやぴったりすぎて、理論値の線が見えないレベルです。
これが意味するのは、一般相対性理論(と後に続いた理論)が高精度で正しかったということ。そして、強い重力場における一般相対性理論を検証する手段を手に入れた、ということです!
この重力波に関する理論の構築に貢献したのが、キップ・ソーン博士です。
つまり、アインシュタイン博士が残した最後の宿題を解けただけでなく、さらに深めることまで出来るようになったのです!!
この先検証が進めば、統一理論の完成に近づけるかも...と、物理学がまた大きく前進するかもしれません。
☆ 新たな天文学が切り開かれたこと
今回見つかった重力波は、2つのブラックホールが合体したことで生まれたものでした。
ところが、重力波が生まれる原因は他にもたくさんあると考えられています。
超新星爆発やパルサー、連星中性子星の合体や、運動している単体のブラックホール、そして宇宙の始まりである「ビッグバン」などがその候補です。
これらを重力波で直接観測することで、今までの"眼"で視てきた可視光や電波、X線といった「光(電磁波)」だけではわからなかったことが、たくさんわかると期待されています。
星が爆発する前の状態や謎の多いブラックホールの正体、はては、宇宙の誕生の秘密までもわかるようになるかもしれません。
もしくは、ガンマ線バーストのような、まだまだ謎の多い現象を解き明かすきっかけにもなるでしょう。
そういった、全く新しい"眼"を使った天文学「重力波天文学」が、まさに今年、幕を開けたのです!
実は2度目の観測にも成功していた!!
重力波を初めて直接観測できた!と喜んでいたのもさめやらぬうち、2016年6月15日にLIGOより2度目の観測に成功したことが発表されました!
観測した日時は、2015年12月26日3時39分(日本時間26日12時39分)。クリスマスの次の日と、まさにサンタクロースからの贈り物です。
今回の重力波もまた、ブラックホールの合体から発生した重力波でした。それぞれ太陽の8倍、14倍の質量のブラックホールが合体し、太陽質量と同等のエネルギーが重力波として放出されたことがわかっています。
たった3ヶ月の間に2回も観測できた、ということは、これからもっとたくさんの重力波を観測できる可能性があることを意味しています。
つまり、幕を開けたばかりだと思っていた重力波天文学は、既に本格的にスタートし始めていたのです!!!
重力波天文学のこれから
アメリカのLIGOの他にも、様々な国が重力波観測装置を建設しています。2017年度の稼働を目指して日本の重力波望遠鏡「KAGRA」も準備されていたり、他のいくつかの観測所も3年以内の立ち上げを目指して準備しています。
将来的には、衛星を使って重力波観測を行う計画も立てられています。
より頻繁に、高い精度で観測が出来るようになれば、現在主流の電波や光学、X線などの電磁波を用いた天文学にも並ぶ、重要な天文学として研究されていくようになるでしょう。
今後の天文学、ないし物理学を大きく前進させるかもしれない。
そんな重力波を初めて観測したLIGOチームは、近年中にノーベル賞を受賞すると考えられています。
...が! 重力波イヤーである今年こそ! 重力波の発見に貢献したキップ・ソーン博士、ロナルド・ドリーバー博士、レイナー・ワイス博士、そしてLIGOの研究チームがノーベル賞に輝くべきだと考えます!
...え?ノーベル賞の発表を待ちきれない?
ならば、キップ・ソーン博士が科学面を監修し、非常に精密に描写されたブラックホールが登場する映画『インターステラ―』でも見ながら、ノーベル物理学賞まで気持ちを高めていきましょう!!
2016年ノーベル賞を予想する
生理学・医学賞①その1 アレルギー反応機構の解明~IgEの発見編
生理学・医学賞①その2 アレルギー反応機構の解明~制御性T細胞編
生理学・医学賞② 小胞体ストレス応答のしくみを解明
生理学・医学賞③ 先天性難病 根治の可能性を拓く!遺伝子治療
物理学賞① アト秒で切りひらく電子の世界
物理学賞② 移動するのは「情報」!量子テレポーテーション!
物理学賞③ アインシュタイン最後の宿題!重力波の直接観測(この記事)
化学賞① 分子が分子をつくる!
化学賞② 一条の光できれいな世界を
化学賞③ 薬よ、届け!細胞よ、結集せよ!