迫りくる! 薬が効かない"ばい菌"たち 【One Health編】

こんなイベントを待っていました! トーク&ワークショップイベント「迫りくる! 薬が効かない"ばい菌"たち」を、2018年2月12日・18日の2日間で開催です(拍手ー!)。

写真:イベントにご協力いただく、国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンターの専門家チームの皆さまです!

で、なぜ私がこのイベントを心待ちにしていたかというと......。科学コミュニケーター兼獣医師として広めたいと画策中の「One World, One Health(ワン・ワールド ワン・ヘルス)」という理念と関わりがあります。これは「人が健康を維持するためには、動物や自然環境も健全である必要がある」という考え方です。その中で、課題のひとつに挙げられているのが、今回のイベントテーマ「薬の効かないばい菌たち(薬剤耐性菌)」なのです。 ふー、長かった。ご静聴ありがとうございます。

人、動物、環境、そしてばい菌。 どんな関わりがあるの? 疑問に思った方もいるのでは。

「薬が効かないばい菌たち」が発生する原因のひとつは、抗菌剤の長期使用や、不適切な使用です。抗菌剤は人の感染症を治療するために使われるほか、食料を生産する畜産の現場においても多用されています。そこでは感染症の治療のためだけでなく、感染予防や動物の発育を促進するためなど、人とは違った目的で、多くの抗菌剤が使われています。

さらに、牧場や農場で発生した薬剤耐性菌は、土や水などを介して容易に自然環境中に広がる可能性を持っています。またそれらの菌は、生産された肉や農作物に残ったまま、人の食卓に載る可能性もはらんでいます(十分な加熱をしましょう!) スーパーに並ぶ食品からは、生産現場とその背景に思いを巡らせるのは難しいものです。ですが、食肉ももとは生きた動物です。病気にもなれば育てるための手間もかかり、その中で多くの抗菌剤と関わりが生まれています。人、動物、環境、そしてばい菌たちにも、直接は見えないつながりがあるのです。

写真:良質で生産性の高い食品を供給するため、畜産現場でも抗菌剤が多用されています。
写真:畜産動物の診療実習をしていたころの筆者です。畜産動物は身体も大きいので一度にたくさんの薬剤を必要とします。

ここで私個人のエピソードを少し。
皆さんは、最近なかなか病院で抗菌剤を処方してもらえない! と思ったことはありませんか?
私はアトピー性皮膚炎の治療で、抗菌剤入りのステロイド(外用)を処方されていました。ステロイドでかゆみを抑え、弱った皮膚のバリアから進入しようとする雑菌を抗菌剤でガード。これで万全! と安心感を持って常用していました。

ところが数年前から、「抗菌剤入りをご使用ですが、理由はありますか?」と薬剤師さんに聞かれたり、「感染はないから抗菌剤の入ってないやつにするね」とお医者さんに言われたりが続きました。今思うと、この頃が、薬剤耐性菌問題が国際的な課題として注目されはじめたタイミングだったのだと思います。当時は(獣医師としてお恥ずかしながら)、「えー、今まで調子よかったから薬を変えないでほしいのになー」と内心思っていました。まさにこの考えが、抗菌剤の長期使用、しかも理由のない不適切な使用にあたっていたのだと反省。
世の中も薬剤耐性菌対策に動き出している!という実感した経験でした。

写真:「感染がないことを確認」した上で、抗菌剤の入っていないステロイド軟膏に変更。現在は適正使用しています!

これだけだと獣医師(西岡)! 大丈夫か! と怒られてしまうので、私の専門フィールドである小動物臨床の現場での、薬剤耐性菌対策の状況を、経験談を通してお話ししておきたいと思います。

ペットの犬や猫たちにも、細菌が感染することで起こるトラブルが数多くあります。私の出会ったしつこい細菌感染症の第1位は膀胱炎でした。治療には、どの抗菌剤を選ぶか、それも最初に何を使うか、が重要になります。それは、上でお話ししたとおり、効かない抗菌剤を長く使用するなど、不適切な抗菌剤の使用が耐性菌を生み出すリスクをはらんでいるからです。最初にちゃんと効く抗菌剤を、ちゃんと選んで使用することが重要になるのです。

膀胱炎を引き起こす細菌はどこから侵入するかと言えば、たいていは皮膚からです。皮膚にふだんから付着している常在菌が体内へと侵入し、尿道を通ってその奥の膀胱内で増殖して......と考えます。なので従来は、皮膚の常在菌に幅広く効果のある抗菌剤を最初にチョイスすることが多かったわけです。ですが、最近では早い段階で、「薬剤感受性試験」を行うことがスタンダードになりつつあります。いろんな菌に効く抗菌剤を使うことで薬剤耐性菌が現れ、治すのが難しい膀胱炎に発展する危険を回避するためです。

この薬剤感受性試験をすれば、膀胱の中で増えて悪さをしている菌が何者で、どの抗菌剤が効果的かがわかります。結果を受けて、一番適した抗菌剤を最初から使い、徹底的に原因菌をやっつける! これができるのが理想的です。 ただし、この検査には時間がかかります。その間、飲水と排尿を多くして、対症療法で結果を待つことができれば良いですが、あまりに頻尿や血尿がひどいまま、待つだけは厳しい......そして大切なペットが苦しんでいるのは見ていてかわいそう、という場合もあります。そんな時は、従来の判断に従い、検査結果を待たずに抗菌剤を処方することもあります。と、現場は現場で臨機応変な対応を求められたりします。難しいところですね。

とお話ししていたら、なんだかウズウズ......このやろー薬が効かないばい菌め!!と過去の記憶がよみがえり、闘志がめらめら(何に対してだ!)してきた次第です。

皆さんにも、自分自身、身近なペット、そして畜産品や農作物などの食品と、薬剤耐性菌のつながりを知っていただき、日々の生活で「あ、このことか!」と思ってもらえると幸いです。

2月12日(月・休)と2月18日(日)のイベントではスペシャル・トーク「どう防ぐ? 感染症と耐性菌」と「生み出すのはあなたかも? 薬が効かない耐性菌」や病気の予防に有効な手洗いの効果を目で見て確認できるワークショップ「見よう!測ろう!ばい菌ラボ」など盛りだくさんのコンテンツをご用意。詳しくはこちらをご覧ください https://www.miraikan.jst.go.jp/event/1801221322465.html (リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)

ご参加をお待ちしていまーす!!

参考:農林水産省 畜産物生産における動物用抗菌性物質製剤の慎重使用に関する基本的な考え方
国立国際医療研究センター AMR臨床リファレンスセンターHP http://amr.ncgm.go.jp/medics/2-6.html (リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)

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