学校と遠隔合同授業~3年生 理科の授業で「生き物に学ぼう」を実施~

今年の1月、都内の小学校と遠隔合同授業を実施しました。
中野区立緑野小学校と日本科学未来館を遠隔会議システム(RICOH UCS)で接続し、教室で行われる授業に、未来館にいる科学コミュニケーター宗像も参加しました。この日の授業は小学3年生の理科、テーマは「生き物に学ぼう」。未来館で実施している「バイオミメティクス」に関する科学コミュニケータートークを、教室にいる3年生の皆さんにお届けしました。

バイオミメティクスの世界

この日の授業でテーマとした「バイオミメティクス」とは、生き物をヒントに技術を生み出すことです。
「オナモミの実」からヒントを得た「面ファスナー」、「カタツムリの殻」からヒントを得た「汚れが付きにくい外壁」、いまや生き物からヒントを得て生まれた技術はたくさんあります。
身の回りの生き物をよく観察し、優れたところを見つけ、その仕組みを詳しく調べると、わたしたちの暮らしを豊かにする技術につながるかもしれません。生き物に学ぶという発想は技術革新の原動力なのです。

また、バイオミメティクスは、環境負荷が少ない技術の開発としても期待されています。生き物が進化の過程で身に付けてきた自然界の仕組みを上手に利用した特技からは、大量のエネルギーや人工的な化学物質に頼らない術を学べそうです。実際に、シロアリのアリ塚をヒントにした高層ビルでエアコンの使用量を減らすことができたり、トンボのはねの構造を手本にしたファンでエアコンの送風効率をアップさせたりと、環境負荷を軽減した技術も生まれています。

バイオミメティクスを理科の授業で紹介

このようなお話を小学校の先生としていたところ、理科の授業で「生き物に学ぶ」をテーマにした学習をしようとこの日の遠隔授業に至りました。「身の回りの生き物」について学んできた緑野小の3年生たちの発展的学習として、先生と相談して次のような授業を実施しました。

(1)未来館からバイオミメティクスの例を紹介

この日は、まずモルフォ蝶(標本)を見てもらいました。南米に生息するこの蝶のはねは、光を受けると光沢のある青い輝きを放ちます。

生徒|「光るはね!」「どこにいるの?」「なんで光るの?」
画面に映るきれいなはねの蝶に、みんな興味津々の様子。なぜこのようにきれいに光って見えるのか、その秘密は、はねの表面構造にありました。このはねの表面を覆う鱗粉の断面を顕微鏡でじっくり見てみると、小さな凹凸構造がたくさんあります。この構造に光が入ると、青色の光が強められて反射して私たちの目に届きます。これがきれいに光るはねの秘密でした。そして、このモルフォ蝶のはねをヒントに、きれいに発色する繊維がつくられました。この繊維を使ったウェディングドレスなども作られています。

モルフォ蝶の他に、ハスの葉から生まれた技術も紹介しました。
まずはハスの葉の特技を見てもらおうと、大きなハスの葉っぱをカメラの前で広げ、そこに水をたらします。葉の表面構造によって見事にはじかれた水が踊るように葉っぱの上を動く様子も見てもらいました。
生徒|「葉っぱすごい!」「なんで?」「やりたい!」
そして、この葉の構造をヒントに改良されたヨーグルトがくっつきにくいふたに、子どもたちはさらに驚きました。

できれば、モルフォ蝶もはすの葉も教室で実物にふれてもらうのがよいのですが、今回は間に合いませんでした。それでも、教室の大きな画面に映る生き物の特技に、興味を持ってくれたようでした。

(2)グループディスカッション・発表

生き物の特技と、そこから生まれた技術を知ったあとは、自分たちで考えてみます。
①「身の回りの生き物」がもつ特技をみつけてみよう
②その技術をどのようなことに生かせるか考えてみよう
をテーマにいくつかのグループに分かれて話し合い、ホワイトボードにまとめます。
緑野小3年生が発表してくれたアイデアは、
・カメ|とても甲羅がかたい→より頑丈なヘルメットに!
・カエル|よく見ると手に吸盤のようなものがあって壁を登れる!→何度もくっつく接着剤に生かせる!
・カンガルー|おなかに袋がついていて子どもを育てられる!→バックなど何かに使いたい...(まだ考え中)
などなど。短い時間の中でいろいろと考えアイデアを出してくれました。

授業の最後に、身の回りの生き物をよく観察して、それぞれの身体の違いや特技を見つけてみようというメッセージを伝えてこの日は終わりました。

学校にとって 未来館にとって

この日の授業は、発展的な学習として、「技術に生かす」という視点から身の回りの生き物の特徴に気づいてみようというものでした。後日、一緒に授業をした先生からは、この授業の一番の特徴として、教員以外の大人も関わって普段の授業とはやや違った視点から子どもたちが学習を深められた点をあげてもらいました。確かに、「生き物の特技を何かに生かす」というそれまでの授業にないテーマに、初めはやや困惑する子どもたちの様子も見受けられましたが、それでもワークの後半では活発に意見を交わしていました。また、発表の際には、普段の授業にはいない画面の向こうの科学コミュニケーターに向けて、自分たちのアイデアが伝わるようにと一生懸命に表現してくれた様子が印象的でした。
私も、普段は未来館に来てくれたお客さんにこの科学コミュニケータートークを実施します。学校で行われる理科の授業の一部として提供することはこれまでになく、館内に留まらない対話活動につながるかもと期待を持ちました。機材を少し準備するだけで、あらゆる場所と対話ができるこの取り組みの可能性を、これからも実践を重ねながら探っていきたいと思います。

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