2018年イグノーベル賞を予想する

③ 鏡で自分を見ると食事をおいしく感じる

どうもこんばんは。2018年のイグノーベルおじさん担当の福井です。今年もイグノーベル担当で受賞研究を予想しようということになったので、福井が予想する研究の紹介なのです。

イグノーベル賞を予想する!?

「イグノーベル賞を予想する」、と言うのは簡単ですが、実際やってみるとこれがなかなか難しい。ノーベル賞の受賞予想はまだいいのです。簡単とは言いませんが、手掛かりがたくさんありますからね。ノーベル賞の授賞者予想であれば、①まだノーベル賞を受賞していない、②その分野で革新的、革命的な変化をもたらした業績である、③その分野でノーベル賞の前哨戦と言われる国際賞を受賞している、④存命である、等のいくつかの条件でふるいにかければ、自ずと候補は絞られてきます。

しかしながら、イグノーベル賞の予想に関してはそういった手掛かりが何もありません。なにせ受賞条件が、「人々を笑わせ、そして考えさせる」、「マネができない、するべきではない」、「驚愕するほどバカげている」といったものです。もちろんイグノーベル賞の前哨戦のような国際賞もありません。ネットで検索するにも、適切なキーワードが何も思いつきません(それに可笑しい研究と自ら名乗る人もいません)。毎年発表される膨大な研究の中から、どうやってイグノーベルにふさわしい研究を見つけるのか・・・、河原で珍しい石を探すようなものではないか......。しかも、何が珍しいのかさえわからない......。

というわけで、私が取った最終手段は、「力業」でした。すなわち、イグノーベル賞と親和性が高そうな学問分野の学会要旨集に、片っ端から目を通すという作戦です。生態学会、進化学会、心理学会・・それなりに面白そうな研究は見つかるものの、イグノーベル賞にふさわしい、ガツンと来るものが見つからない。疲れてぼーっと要旨集のpdfファイルをスクロールしていると、最後に目を通した、2015年の認知科学会要旨集の中にそれはありました。「鏡で自分を見ると食事をおいしく感じる」

美味しさの源は食品そのもののみにあらず

皆さんは「食事」に何を求めますか?生きるための栄養摂取?もちろんそれが一番大事ではありますが、それだけではありませんよね。やはり「美味しさ」抜きに食事を語ることはできません。

「美味しさ」を決めるのは、食品そのものが持つ味や香り、食感、見た目などだけではありません。食事を照らす光や部屋の気温、テーブルや食器、BGMなど、食事環境も美味しさを大きく左右します。どんな豪華な料理も、殺風景な部屋で出されれば美味しさは半減してしまいそうですよね。

そしてもう一つ、美味しさに大きな影響を与える要素が「他者の存在」なのです。

一人飯はつらいよ

まあかく言う私も三食のうち2.5食くらいは一人飯ですし、「ぼっち飯」などという単語を聞くと、「近頃の若者は一人で飯も堂々と食えんのか、けしからん」などと思ってしまいますが、とはいえ一人で食べるよりは気心の知れた人と一緒に食べたほうがおいしいに決まっているわけです。

誰かと一緒に食事をとることを「共食」(「ともぐい」ではありませんよ、「きょうしょく」です)と言いますが、共食が大人になってからの心身の健康と相関があること、共食によって食事量や美味しさ、満足度が増すことが過去の研究から明らかになっています。

また、孤食(一人で食べる)が、高齢者の健康状態の悪化を招くことが指摘されています。さらに、「一週間のうち、ほとんど毎日一人で食べる」高齢者の割合がとても高い(70歳以上の女性では実に19%)ことが、農林水産省の調査によって明らかになっています。高齢者の孤食の弊害を少しでも和らげる方法が求められているわけです。

共食が良いのは分かる。しかしながら、家族や恋人と暮らしている人はともかく、一人暮らしの身ではそう毎食一緒に食べてくれる人は見つかりませんよね。うーん、どうしよう。

さて、なぜ他者と食べると美味しいのか、それには相互のコミュニケーションが重要な要素であることが分かっています。苦手な人と黙って食べるより、気心が知れた人とワイワイ喋りながら食べたほうが当然美味しいわけです。和やかなムードが大事というわけです。

しかし、「他者の存在」がもたらすものはお喋りによるムードだけではありません。もっと単純に、「食べている人の姿」というものもあります。もし「食べている人の姿」だけでも美味しさが改善するのなら、一緒に食べてくれる人がいなくても、自分自身が映る鏡があれば事足りてしまうのではないか・・・ゴクリ。「共食」ならぬ「鏡食」の可能性を試す時が来た!

「鏡で自分を見ると食事をおいしく感じる」

というわけで、名古屋大学の中田龍三郎先生、川合伸幸先生は、以下のような実験をデザインしました。

・16人の大学生(男11、女5、平均21.5歳)、および16人の高齢者(男11、女5、平均68.4歳)にポップコーンを試食してもらう。

・試食の変化要因

① ポップコーンの味(塩味/キャラメル味)、

② 食事環境(自身の上半身が映るサイズの鏡の前/鏡とほぼ同じ大きさの、ブース内の無人映像を映したモニターの前)

・被験者は7項目(美味しさの認知に関連する項目、食品の摂取に関連する項目、味覚に関連する項目)を6段階で評定する

・ポップコーンの摂取割合を計測する。(食べ残しがなかった場合を100%)

実験の結果、大学生・高齢者ともに美味しさの認知に関する3項目(おいしさ/質が良い/また食べたい)すべてで、鏡の前で食べたほうの評価が高いという結果が得られました。

同様に、大学生・高齢者ともに食品の消費に関する2項目(腹の足しになる/摂取割合)も、鏡ありのほうが高いという結果になりました。

一方で、味覚に関する3項目(しょっぱさ/甘さ/苦さ)では、大学生・高齢者ともに鏡のあり・なしで差は見られませんでした。

以上の結果を要約すると、

・鏡のあるなしで味そのものに変化はないにもかかわらず、鏡の前では美味しさと食欲が増進する。

・「鏡食」の効果は、大学生でも高齢者でも発揮される。

ということがわかりました!

う~ん、初見のインパクトはすごかったですが、こうして見るとまさに「考えさせられる」研究です。社会問題としての孤食、これが鏡一枚で改善されるのなら大変喜ばしいこと、なのですが、鏡に映った自分自身の姿にだまされて美味しさアップしちゃう俺様の尊厳っていったい何なんだろう、などといろいろと深く考えさせられてしまいました。孤食に悩む諸兄諸姉、どうですか、「鏡食」で食生活を改善してみませんか?えっ、私?う~ん、検討させていただきます・・・。

※今回の記事は名古屋大学の川合伸幸先生から提供いただいた資料をもとに作成いたしました。


イグノーベル賞の発表と授賞式は日本時間の9月14日(金)朝7時から!

イグノーベル賞2018 授賞式 生中継<日本語同時通訳>

https://live.nicovideo.jp/watch/lv315444113 (リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)

日本科学未来館のイグノーベル賞に関するイベント
9月8日、9日、15~17日の土日祝 科学コミュニケーター・トーク
「笑い、そして考える 2018年のイグノーベル賞!」 (リンクは削除されました)

9月23日(日)科学コミュニケーター・トーク特別版
「仕掛け人にあえる!きける! イグノーベル賞って何!?」 (リンクは削除されました)

ニコニコ生放送「イグノーベル賞のすべて!~ 仕掛け人マーク氏に聞く 【日本科学未来館×ニコ生】」 (リンクは削除されました)
出演:マーク・エイブラハムス氏、未来館の科学コミュニケーター

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その① 現代版"風が吹いたら桶屋が儲かる?"事例集 (リンクは削除されました)
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その③ 鏡で自分を見ると食事をおいしく感じる(この記事)

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